Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

パーヴォ・ヤルヴィ/N響

2019年06月10日 | 音楽
 パーヴォ・ヤルヴィ/N響のAプロは、前半にバリトンのマティアス・ゲルネを迎えて、マーラーの「こどもの魔法の角笛」から7曲が演奏された。ゲルネは、艶やかな弱音から野太い強音まで、多彩な声で「角笛」の世界を表現した。「角笛」ほど、中世、ルネサンス、バロックと続く音楽の歴史の背後に、多くの人々の貧困と死の悲惨な状況があったことを端的に語るものはない、と感じさせるに足る演奏だった。

 N響は、完璧に合ったピッチで、一糸乱れぬバックをつけた。繊細で、ニュアンス豊かで、けっして声を邪魔しないバック。ゲルネも歌いやすかっただろう。むしろN響に触発されて、一段と高いレベルを志向したかもしれない。

 「こどもの魔法の角笛」は今年1月に、テノールのイアン・ボストリッジの独唱、大野和士指揮都響の演奏で聴いたばかりだ。ボストリッジもゲルネも、いずれ劣らぬ名歌手だが、演奏はずいぶん違った。テノールとバリトンの声質の違いはいうにおよばず、ドイツ語を母語とするか否かの違いや、ブリテン歌いのボストリッジと、ドイツ系のレパートリーのゲルネとの個性の違いもあった。

 また「こどもの魔法の角笛」から、どれを、どういう順序で歌うかという選択の違いもあり、興味深かった。

 ゲルネのほうは、(1)ラインの伝説、(2)トランペットが美しく鳴り響く所、(3)浮世の生活、(4)原光、(5)魚に説教するパドヴァの聖アントニオ、(6)死んだ鼓手、(7)少年鼓手、という配列。

 (1)と(2)はともに恋人たちの歌だが、(1)では恋の成就の希望があるのに対して、(2)では死別の予感が漂う。(3)と(4)はアタッカで演奏され、(3)で餓死した子どもが、(4)で天国に向かうように感じられた。(4)と(5)が連続することで、交響曲第2番「復活」の世界が広がった。(6)と(7)はともに兵士の不条理な死を描く。

 ボストリッジの場合は、(1)ラインの伝説、(2)魚に説教する……、(3)死んだ鼓手、(4)少年鼓手、(5)トランペットが……、という配列だった。最後の(5)は、(3)と(4)で死んだ兵士の弔いのラッパのように聴こえた。

 プログラム後半はニルセンの交響曲第2番「4つの気質」。「角笛」の抑えた演奏から一転して、オーケストラがよく鳴り、壮麗な演奏になったが、わたしは段々退屈した。ニルセンの個性が出てくるのは、次の第3番「広がりの交響曲」からのようだ。
(2019.6.9.NHKホール)
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