Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

フィリップ・マヌリの音楽

2019年06月14日 | 音楽
 「コンポージアム2019」のフィリップ・マヌリ(1952‐)の音楽。1曲目はドビュッシー作曲/マヌリ編曲の「管弦楽組曲第1番より《夢》」。ドビュッシーにそんな曲があったのかと驚くが、ドビュッシーの若書きらしい。

 藤田茂氏のプログラム・ノーツによると、管弦楽組曲第1番は《祭り》、《バレエ》、《夢》、《バッカナール》の4曲からなり、「1884年2月の音楽院の試験に提出されたものと思われる。」。今世紀になって、ピアノ4手用の楽譜とともに、本来の管弦楽版の自筆譜が見つかったが、管弦楽版には《夢》だけが欠けていた。そこでマヌリが、ピアノ4手版をもとに、オーケストレーションを引き受けた。

 ドビュッシー的な香りが匂い立つ色彩豊かなオーケストレーションだ。すっかりドビュッシーの世界に引き込まれた。演奏はペーター・ルンデル指揮の都響。都響の好調ぶりが感じられる。それにしても、この曲は魅力的だ。あとの3曲はどんな曲だろう。マヌリのこの編曲を交えて、4曲全部を聴いてみたい。

 2曲目はマヌリの「サッカード」(2018年)。フルート独奏をともなう(単一楽章の)一種のフルート協奏曲。フルート独奏はマリオ・カローリ。カローリはコンポージアム2011の「サルバトーレ・シャリーノの音楽」にも登場した。コンポージアム2011は、当初は2011年5月に開催予定だったが、東日本大震災の影響で、2012年1月に延期されたことを思い出す。

 マヌリは「サッカード」を「架空の演劇作品」と見ており、「[独奏]フルートはというと、オーケストラ全体を向こうに回しているかのようである。わたしは(引用者注:マヌリは)、これを闘争のようなものとして構想した。」(プログラム・ノーツ)。たしかにそうかもしれないが、そこに演劇的な身振りを読まなくても、単純にフルートの饒舌なおしゃべりと、オーケストラのテクスチュアの変転と、その両者が絡み合うスマートな展開を聴くだけでもおもしろかった。

 カローリはアンコールにドビュッシーの「シランクス」を吹いた。フルート一本で描く音楽のラインに、緩急、強弱、方向感などの絶え間ない変化があり、どこへ漂っていくとも知れない。それが現代的に聴こえた。

 3曲目は「響きと怒り」(1998‐99/2016年)。上品で洗練された音が、ブーレーズの作品を思い出させる。後半で荒々しい音楽が展開するが、それも下品な印象はなかった。ルンデル指揮都響の演奏は、この作品の真価を伝えたと思う。
(2019.6.13.東京オペラシティ)
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