Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

国立ハンセン病資料館「キャンバスに集う~菊池恵楓園・金陽会絵画展」

2019年06月23日 | 美術
 国立ハンセン病資料館(東京都東大和市)で「キャンバスに集う~菊池恵楓園・金陽会絵画展」が開かれている。菊池恵楓園(きくちけいふうえん)は熊本県にある国立ハンセン病療養所。金陽会はその入所者たちが作った絵画サークルだ。金陽会の作品展は熊本県内では熊本市現代美術館などで継続して開かれてきたそうだが、東京都内では初めて。

 本展では入所者10人の総計29点の作品が展示されている。ハンセン病療養所の入所者たちの作品というので、わたしは病気の苦しみや、被差別への苦しみを描いた作品を予想していたが、実際には、明るくポジティブな作品がほとんどだった(例外的に苦しみを描いた作品も数点あったが)。

 わたしはそれが意外だった。作品の一点一点を見ていくと、ほとんどの作品が1990年代以降に描かれているので(それ以前に遡る作品でも、せいぜい1980年代の後半までだ)、その頃になれば社会のハンセン病への差別や偏見も、大勢としては薄れていただろうから、明るい作品が多くなるのはそのためかと思った。

 また、本展の主催者が、あえて明るい作品を選んだことも考えられる。ハンセン病への差別や偏見はおろか、たとえ善意ではあっても、同情とかなんとか、そんなフィルターを通して見られがちな入所者たちを、その種の既成概念から救いたいという思いがあったかもしれない。

 だが、それと同時に、入所者たち自身が、差別と偏見を受けながらも、療養所の中で、せめてもの明るさをもって、人生を生きようとした証しかもしれないとも思った。これらの作品はその生のありのままの記録かもしれないと。

 ともかくわたしは、作品一点一点から、それを描いた人の強い個性や善良な人間性を感じ取り、それらの一人ひとりと親しく会話しているような気がしてきた。

 出品者10人の中には、公募展に出品しても入賞しそうな上手い人もいれば、素人っぽくはあるが、やむにやまれぬ執念を持って描いている人、とぼけたユーモアを漂わせる人、ほのぼのとした雰囲気を感じさせる人など多士済々で、それが本展の魅力の一つになっている。

 同資料館は国立ハンセン病療養所「多磨全生園」の敷地内にある。外部の人も入れる食堂があるので寄ってみた。中に入ると、高齢の入所者が一人食事をしていた。食堂の方が「どうせ生きるなら明るく生きなくちゃね」と声をかけたら、その人はニコッと笑った。
(2019.6.13.国立ハンセン病資料館)

(※)本展のHP

(付記)ハンセン病の元患者の「家族訴訟」の判決が、6月28日に熊本地裁で出る予定だ。注目したい。
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