Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

大野和士/都響

2019年09月05日 | 音楽
 都響の9月定期は、かつて都響の音楽監督を務めた渡邉暁雄(在籍1972‐78年)の生誕100年と若杉弘(在籍1986‐95年)の没後10年を記念するプログラムを組んだ。A定期とB定期は若杉弘で、プログラムはベルクとブルックナー。C定期は渡邉暁雄で、プログラムはシベリウスとラフマニノフ。指揮はいずれも現音楽監督の大野和士。

 B定期の1曲目はベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の想い出のために」。ヴァイオリン独奏はヴェロニカ・エーベルレ。第1楽章は、ヴァイオリンの瑞々しく、しかも芯のある音が、しっとりと語り続ける演奏。オーケストラは淡彩色の背景を織った。第2楽章の前半ではオーケストラが前面に出たが、音は濁らず、むしろ冷静だった。後半もオーケストラの雄弁さが目立った。ヴァイオリンは終始マイペースのモノローグを続けた。全体的には、一編の抒情詩を感じさせた。

 エーベルレのアンコールは、ベルクのヴァイオリン協奏曲の最後で天に召された少女が、野原で遊んでいるような、無垢な、のびのびした曲だった。だれの曲だろうと、休憩時間にロビーの掲示を見に行ったら、プロコフィエフの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」の第2楽章だった。

 2曲目はブルックナーの交響曲第9番(ノヴァーク版)。深々とした響きで始まった演奏は、第1楽章が進むにつれて、異様なまでにテンションが高まった。これは尋常な演奏ではないと思った。第1楽章のコーダでは凄まじい音圧が押し寄せた。わたしは圧倒され、こんな音が出るのなら、途中はもっと抑えて、コーダで一気に爆発させればよかったのにと、(そのときは)思った。

 第2楽章は重量感のある音で荒れ狂う演奏。驚いたことに、第3楽章でもそのテンションが維持された。全体を通して、マグマが煮えたぎっているような演奏だった。一般的にイメージされる、浄化された世界とか、白鳥の歌とか、そんな予定調和的な演奏とは真逆の演奏だった。

 今までこんな演奏をした人はいるだろうか。少なくとも日本人の指揮者では思い浮かばない。外国の指揮者なら、あるいはいるかもしれないが。もしかすると、何年も前に聴いたアーノンクール指揮ウィーン・フィルの同曲の未完の第4楽章の断片を音にしたCDがそうだったか‥と思ったが、残念ながら、そのCDは手元にないので、確かめられない。

 ともかくこの演奏は、大野和士の、オーケストラにたいする、そして聴衆にたいする挑発にちがいない。その攻めの姿勢が頼もしい。
(2019.9.4.サントリーホール)
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