Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

テミルカーノフ/読響

2019年10月10日 | 音楽
 テミルカーノフが読響を振ってショスタコーヴィチの交響曲第13番「バビ・ヤール」をやるというので、期待は高まる一方だった。そんなときにかぎって、「?」という結果になることがあるので、要注意だと自分をいさめながら出かけた。

 1曲目はハイドンの交響曲第94番「驚愕」。14型のオーケストラがよく鳴る。というより、ホールの鳴らし方をよく心得ている。暖色系の柔らかい音がホールを満たした。第2楽章の「びっくり」の強奏も手応えがあった。

 次はショスタコーヴィチの交響曲第13番「バビ・ヤール」。ステージを埋め尽くすオーケストラを見ると、ハープ4台が目をひく。プログラムに掲載された楽器編成を見ると、ハープ2台になっているので、増強しているようだ。先走っていうと、4台のハープはとくに第3楽章「商店にて」で威力を発揮した。沈鬱なアダージョの音楽の中で、ハープの重い足取りが耳に残った。

 話を戻すと、第1楽章「バビ・ヤール」が始まってすぐに、男声合唱のハーモニーの純度が足りないのが意外だった。新国立劇場合唱団だが、先日観た「エウゲニ・オネーギン」の初日では澄んだハーモニーを聴かせていたのに、そのレベルに達しない。実はこの日、同じ時間帯に新国立劇場では「エウゲニ・オネーギン」の4回目の公演をやっているので、合唱団は二手に分かれた形だ。さては格落ちかと、考えなくてもいいことを考えた。

 バス独唱はピョートル・ミグノフという歌手。この人にも期待していたのだが、2階席正面の後方で聴いているわたしには、声が届いてこなかった。もちろん全然聴こえないわけではないのだが、声の強さと存在感に欠けた。

 オーケストラは彫りの深い演奏を展開した。「彫りの深い」という表現が物足りないくらい、音楽を知り尽くし、緩急・強弱・陰影に隙がなく、音楽と一体化した演奏だった。それはもちろんテミルカーノフの功績だろう。すっかり手中に収めたこの曲への、テミルカーノフの共感、尊敬、信念、そんな思いが伝わってきた。

 そういう演奏で聴いていると、第4楽章「恐怖」は、スターリンの粛清時代のショスタコーヴィチ自身の恐怖だと感じられた。全5楽章のうち、この楽章でもっとも表現が深まるのは、ショスタコーヴィチ自身の過去の経験の投影だからだろうと思った。

 第1楽章「バビ・ヤール」で「ロシア民族同盟」という反ユダヤ団体が出てくるところでは、今の日本の危うさを思った。今でもリアルな曲だ。
(2019.10.9.サントリーホール)
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