Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

インキネン/日本フィル

2019年10月19日 | 音楽
 インキネンと日本フィルのベートーヴェン・チクルスがスタートした。後述するアクシデントもあり、それを含めて印象的なスタートになった。

 当チクルスはドヴォルジャークの知られざる序曲を組み込んでいるのが特徴だ。今回は「アルミダ」序曲。演奏時間約6分(プログラム表記による)の簡潔な曲だが、途中に盛り上がる部分があり、オペラ序曲としては、このくらいの長さがちょうどいい。インキネン/日本フィルの演奏はボヘミアの香りもどこかに漂う好演だった。

 2曲目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。ピアノ独奏はロシアの名手アレクセイ・ヴォロディン。わたしは以前N響で聴いているのだが、ある事情で、そのときの演奏は記憶に残っていない。今回が初めてのようなもの。高音が輝くようにきれいなことが特徴だと思った。第1楽章のカデンツァは、あまり聴きなれないものだったが、そう感じたのはわたしの勘違いか。

 アンコールにショパンのノクターン第5番が弾かれた。やわらかい響きの中にすべての音がつながる、夢見るような、甘美な演奏。ベートーヴェンとはまったく違うスタイルなので驚いた。

 ヴォロディンの話が先になったが、インキネン/日本フィルの演奏もよかった。弦の音がリフレッシュしていることが印象的だった。インキネンの求める音が日本フィルに浸透しているのだろうが、今回はもう一つ、コンサートマスターが新任の田野倉雅秋だったことも一因かもしれない。入念に神経の行き届いた音だった。

 3曲目はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。重厚長大とか、巨匠風とか、そんなスタイルではなく、軽やかで、風通しがよく、しかも不思議なくらいに手応えのある演奏。インキネンがベートーヴェンのスコアと対話しているような親密な演奏といってもいい。日本フィルもそれによくついていった。

 アクシデントが起きたのは第2楽章後半だった。ホルンの2番奏者が大きな音を立てて椅子から転げ落ちた。両サイドのホルン奏者が助け起こして、本人も「大丈夫」といった仕草をしたが、その直後にまた倒れた。すぐにスタッフが出てきて、舞台裏に担ぎ込んだ。わたしは「もう演奏継続は困難だろう」と思った。ところが第2楽章が終わると、代替えのホルン奏者が出てきて、第3楽章が始まり、トリオのホルン3重奏を乗り切った。これには驚いた。2番奏者が倒れたときにも驚いたが、それ以上に驚いた。カーテンコールでは代替えの奏者にも大きな拍手がおくられた。
(2019.10.18.サントリーホール)
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