Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

上原美術館:アルベール・マルケ

2020年01月28日 | 美術
 伊豆の下田は気候が温暖なので、冬になると時々行く。先日も行ってきた。例年は海岸沿いの道を歩くだけだが、今年はいつも気になっている上原美術館に寄ってみた。予備知識なしで行ったが、それがよかったのか、新鮮な出会いを楽しめた。

 上原美術館は、大正製薬の元社長だった上原正吉・小枝夫人の仏教美術のコレクションと、その子息で元社長の上原昭二の近代絵画(洋画・日本画)のコレクションを展示する美術館だ。仏教館と近代館の二つからなる。場所は下田駅から車で15分ほど(バスだと20分ほど)。

 まず仏教館へ。最初の展示室には近代・現代の仏師による夥しい数の仏像が展示されている。いずれも木彫なので、木のぬくもりが心地よい。奥の展示室には奈良時代、平安時代そして鎌倉時代の仏像や写経が展示されている。伊豆の松崎の吉田寺(きちでんじ)の仏像の崇高さにハッとした。

 近代館に移ると、新収蔵品のアルベール・マルケ(1875‐1947)の「ルーアンのセーヌ川」(1912年)のお披露目を兼ねたマルケの小特集をやっていた。わたしはマルケが好きなので、これは嬉しかった。「ルーアンのセーヌ川」はチラシ(↑)に使われている作品。灰色がかった色調、高所から見下ろす視点、対角線の構図、人物や建物の簡素な描写、そして水のテーマという具合に、マルケの特徴がよく出ている。サイズは縦59.0㎝×横80.0㎝。国立西洋美術館の「レ・サーブル・ドロンヌ」(1921年)(※1)とほぼ同じ。堂々たる作品だ。

 もう一つ、「冬のパリ、ポン・ヌフ」(1947年頃)(※2)にも惹かれた。マルケの終の棲家となったパリのアトリエ(セーヌ河岸のアパルトマンの6階にあった)から見下ろした風景画。眼下にポン・ヌフが見える。ポン・ヌフはノートルダム大聖堂のあるシテ島に架かる橋だ。雪が降った後らしく、道の両側に雪が積もっている。遠景は霞んでいる。前述の「ルーアンのセーヌ川」に比べると、本作はマルケが亡くなる前に描かれたためか、全体に弱々しく、それがかえってマルケの、なんの作為もない、見慣れた風景をいつくしむ心境を表す。

 マルケはアンリ・マティス(1869‐1954)と親しかった。展示室にはマティスのリトグラフ「舞踏用半ズボンを着けたオダリスク」(1925年)も展示されていた。さすがに強烈な力がある。それに比べるとマルケは穏やかなので、普通の展覧会なら埋もれがちだが、そんなマルケが好ましく思える年齢に、わたしはなったようだ。
(2020.1.21.上原美術館)

(※1)「レ・サーブル・ドロンヌ」の画像http://collection.nmwa.go.jp/P.1959-0126.html
(※2)「冬のパリ、ポン・ヌフ」をふくむ上原美術館の主な所蔵品http://uehara-museum.or.jp/collection/western-painting/
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