Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

日本音楽芸術マネジメント学会(2)

2020年08月10日 | 音楽
(承前)シンポジウムで日本フィルの平井理事長が語った日本フィルの現状は、以下のとおり。冒頭の発言をベースに、質疑応答を適宜加味して、要点を紹介したい(いうまでもないが、文責はわたしにある)。

・コロナ禍はオーケストラの中では想像を絶する惨事だ。
・日本フィルは楽団存続の危機にある。
・2月29日~6月末までに47公演を中止した。夏休みの親子コンサートは1回のみの公演となり、また東日本大震災の被災地への訪問(すでに293回実施)と東北夢プロジェクトは中断している。
・再開後の公演では、ソーシャルディスタンスの楽員配置と聴衆の50%規制がきつい。
・今後は年末の第九公演と来春の九州公演を危ぶんでいる。

・3月以降6月までは収入ゼロ。固定費のみが出ていくので、2億円の赤字となった。
・年間の公演数は150回→40~50回程度となり、演奏会収入は9億5千万円→2億円程度に落ち込む見込み。公演にともなう企業からの協賛金も入ってこない。
・2020年度は4億円をこえる赤字で、3億円をこえる債務超過となる見込み。公益財団法人は2年連続で3百万円をこえる債務超過になると、解散させられるので、その事態が危惧される。
・現在は楽員の給与カットと定昇ストップをおこなう一方、国と民間の資金を確保し、キャッシュフローの確保に努めている。

・財政面以外では、(1)芸術性の毀損と(2)社会性の毀損が大きな問題だ。
・日本フィルは昨年のヨーロッパ公演で芸術性を高めたと自負しているが、その芸術性が演奏活動の自粛により毀損されている。
・また、年間20万人以上の聴衆とのコミュニケーション、親子コンサートのコミュニケーション、東日本大震災の被災地訪問のコミュニケーション、東北の夢プロジェクトのコミュニケーションなど、社会性が毀損されている。
・日本フィルにかぎらず、文化芸術団体のすべてが大きく毀損されている。その毀損されたものをどのように回復するか。

・銀行からの借り入れが厳しくなる。そこで、国にたいしては、文化芸術団体への資本性の劣後ローンの導入を強く要望したい(引用者注:資本性の劣後ローンを導入すると、バランスシートの悪化が避けられる。)

・オンライン配信は、地方との関係で、ひじょうに重要になってきた。
・コロナ禍で被災地訪問ができないため、宮古高校吹奏楽部とオンラインでディスカッションをした。また南相馬市と宮古市でこの度初めてライブビューイングをする。
・もう一つ、新しいリアルとオンラインのミックスとして、10月13日に落合陽一さんの映像とのコラボをする。

・再開した演奏会では「やっぱり生はすばらしい」と涙を流すお客様が多かった。
・今後は効率第一主義から脱却して、社会・経済・文化が同列にならぶ社会を何としても作っていかなければならない。(了)
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日本音楽芸術マネジメント学会(1)

2020年08月10日 | 音楽
 日本音楽芸術マネジメント学会の夏の研究会が開かれた。「After/Withコロナ時代を生きる~音楽で明日の社会をひらくために」と題して、3つの分科会とシンポジウムでの構成。分科会はZOOMで、シンポジウムはYouTubeで配信されたので、たんなる聴衆にすぎないわたしも視聴できた。

 分科会は、7月27日に分科会1「オーケストラ」(東京都交響楽団の芸術主幹・国塩哲紀氏など5名が報告)、7月29日に分科会2「アーティスト」(株式会社AMATIの代表取締役社長・入山功一氏など4名が報告)、8月4日に分科会3「劇場・音楽堂」(神奈川県立音楽堂館長の永井健一氏など4名が報告)が開かれた。コロナ禍にあって、音楽界の広範な分野で多大な打撃を蒙っていることが実感された。

 その内容を要約して紹介したいのだが、膨大なレポートになりそうなので、腰が引けてしまう。また、それらの報告では、現場の苦労といったディテールにおもしろいエピソードが多かったので、それらを文字に起こすのは大変な手間だ。音楽評論家の渡辺和氏と加藤浩子氏が、Facebookまたはブログで各分科会の概要をお書きになっているので、興味のある向きは参照願いたい。

 シンポジウムは8月9日に開かれた。登壇者は、文化庁政策課長の榎本剛氏、日本クラシック音楽事業協会会長の入山功一氏(分科会2のAMATI社長)、東京芸術劇場事業企画課長の鈴木順子氏、日本フィルハーモニー交響楽団理事長の平井俊邦氏の4名。

 文化庁の榎本課長は、フリーランスおよび団体向けに、約500億円の予算を確保し、各種の助成制度を講じているので、ぜひ利用してほしいと呼びかけた。約500億円の予算規模は文化庁としては破格のうえ、フリーランスへの助成はかつてないことらしい。申請が伸び悩んでいるようだ。たしかに予算を使い残すと、文化庁は財務省その他との関係で、今後やりにくいかもしれない。

 日本クラシック音楽事業協会の入山氏は、コロナの副産物として、業界内の横断的な組織「クラシック音楽公演運営推進協議会」が設立されたことをあげた。その活動の一例として、7月におこなわれたクリーンルームでの飛沫・エアロゾルの測定検証を紹介した。

 東京芸術劇場の鈴木氏は、自主公演と貸し館事業の両面で受けた打撃と、各方面からの要望・課題への対応状況を語った。一例をあげると、「50%規制の間は貸し館料を半額にしてほしい」という要望があるが、対応できていないとのこと。

 日本フィルの平井氏は、日本フィルの現状を具体的に語った。オーケストラはわたしの関心事なので、その内容を詳しく紹介するため、稿を改めたい。(続く)
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