Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

高関健/東京シティ・フィル

2020年08月13日 | 音楽
 3月定期が延期になった今回の東京シティ・フィルの定期は、曲目が「トスカ」の演奏会形式上演からブルックナーの交響曲第8番に変更になった。オペラがまだ難しいのは当然として、変更後の曲目がブルックナーの大曲とは、指揮者の高関健と東京シティ・フィルのコロナに負けない意欲が感じられる。

 弦は12型、3管編成のフルサイズ。ブルックナーの12型に物足りなさを感じる向きもあるようだが、わたしはこのくらいがちょうどいい。14型でも許容範囲だが、16型になると(いくらオケが優秀でも)重く感じる。いったいブルックナーの時代にはどのくらいの編成でやっていたのか。

 東京シティ・フィルは8月7日にフェスタサマーミューザでブルックナーを演奏したばかりだが、そのときの飯守泰次郎指揮の交響曲第4番「ロマンティック」と比べると、指揮者の演奏スタイルのちがいが顕著だ。飯守泰次郎は頭にブルックナーのイメージがあり、それを表現しようとするが、高関健はすべてのパートをしっかり歌わせ、その集積としてのブルックナーを考えている。

 どの楽章も安定したテンポで、各々のパートをはっきり発音させ、フレーズの最後まできっちり歌わせる。ことに弦の各パートは強弱と明暗を細かくつける。金管の輝かしい音はサマーミューザ以来だ。ホルンも好調だ。木管ではフルートの竹山愛が、さすがにソロ活動も積極的なだけあって、張りのある音と大きなフレーズで目を引いた。

 どこがどうよかったとかというよりも、上記のような基本姿勢が全楽章に一貫し、充実した音が全編にわたって鳴り響いたといったほうがいい。高関健と東京シティ・フィルがしっかり噛み合い、東京シティ・フィルの演奏能力が最大限に引き出された演奏だ。

 東京シティ・フィルはコロナの困難な時期に高関健を常任指揮者にもって幸せだ。高関健は東京シティ・フィルの6月26日の演奏活動再開時にも(そのときは藤岡幸夫の指揮で無観客ライブ配信となった)リハーサルに立ち会い、また前記のサマーミューザでもオンラインで演奏を見守った。そのような頼りになる指揮者がオーケストラとともにいてくれる。その信頼感がこの日のブルックナーの交響曲第8番に表れたのではないだろうか。

 余談だが、この日の聴衆の座席は、前後左右を空ける市松模様ではなく、基本的には自席で聴く方式がとられた(ステージ寄りの2列は空けられ、また入場者数は定員の50%以下に抑えられたが)。希望により他の席に移ることも可能だったが、意外に皆さん(隣にだれかいても)自分の席で聴いているようだった。考えてみると、電車の中では隣にだれか座っていることも多いので、演奏会だけ神経を使うのもおかしな話かもしれない。
(2020.8.12.東京オペラシティ)
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