Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

サントリーホール・サマーフェスティバル:杉山洋一/読響

2020年08月27日 | 音楽
 今年のサントリーホール・サマーフェスティバルは、テーマ作曲家のイザベル・ムンドリーの演奏会は中止になったが、一柳慧が企画したザ・プロデューサー・シリーズの演奏会は無事に開催された。一柳慧の企画は「2020東京アヴァンギャルド宣言」と題して2つの室内楽演奏会と2つのオーケストラ演奏会で構成。それらの演奏会には6曲の新作初演がふくまれている。昨日はオーケストラ演奏会の第1回があった。オーケストラは杉山洋一指揮の読響。

 1曲目は高橋悠治(1938‐)の「鳥も使いか」(1993)。三絃の弾き語りとオーケストラのための曲だ。この曲にはCDが出ているので、わたしも聴いたことがあるが、CDで聴いた印象と実演の印象とでは、雲泥のちがいがあった。実演で聴くと、三絃の華やかな音がホールを満たし、オーケストラの薄く透明な音とあわせて、聴き手が自由に呼吸できる点が魅力だった。他に類例のない曲だ。三絃独奏は本條秀慈郎。

 2曲目は山根明季子(1982‐)の「アーケード」(新作初演)。巨大なオーケストラ編成が目を奪う。ステージでの密を避けるため、1階の前方6列の客席を取り払い、そこもピットのように使っている。その巨大なオーケストラから、カラフルで流動的な音楽が、客席にむかって氾濫する。高橋悠治の「鳥も使いか」が静の音楽だとすると、これは動の音楽だ。

 3曲目は山本和智(1975‐)の「『ヴァーチャリティの平原』第2部(ⅲ)浮かびの二重螺旋木柱列」(新作初演)。2台のマリンバとガムラン・アンサンブルとオーケストラのための曲。ガムラン・アンサンブルに興味を惹かれるが、実際に聴くと、2台のマリンバのパワーに圧倒される曲だ。2台のマリンバが炸裂し、曲全体は鮮烈な音楽が展開する。わたしは息をのんで聴き入った。マリンバ独奏は西岡まり子と篠田浩美。見事の一語に尽きる。ガムランはランバンサリ。

 4曲目は高橋悠治の「オルフィカ」(1969)。この曲もCDが出ているので、何度も聴いたことがあるが、今まではあまりおもしろいと思ったことはなかった。だが、そんな先入観は覆された。前3曲とくらべて、これがもっとも前衛的に聴こえた。では、前衛的とはなにか、と自問した。前衛的という言葉が、否定とか解体を示すなら、この曲は解体された音楽の風景のように感じた。ステージと1階客席前方にくわえて、2階のステージ左右の客席後方にも分散配置されたオーケストラが、無機的といっていいかどうか、あらゆるコンテクストから解放された音を発する。それが少しも退屈ではなく、美しく感じた。

 この演奏会を聴くために今年の夏はあったと思った。そう思ったのも、読響の優秀な演奏があったればこそ、だ。
(2020.8.26.サントリーホール)
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