Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 滝千春ヴァイオリン・リサイタル

2021年04月21日 | 音楽
 若手ヴァイオリン奏者の滝千春が出演するB→Cコンサートに出かけたのは、共演者の多彩さに注目したからだ。ピアノの中野翔太、チェロの山本裕康、ドラムスの橋本現輝、マリンバの藤沢仁奈、バロックギターの尾尻雅弘という顔ぶれ。これでどういうコンサートになるのか、興味津々だった。

 まず柿沼唯(1961‐)の「サルヴェレジナ」から。グレゴリア聖歌をもとにした曲だ。滝千春の演奏は2声の動きがきれいに出ていた。アタッカでビーバー(1644洗礼‐1704)の「ロザリオのソナタ」から最終曲の「パッサカリア」へ。一挙に約300年前の音楽に移行したわけだが、そのつなぎになんの不自然さもなかった。

 次にマリンバとの共演でデーヴィッド・P・ジョーンズ(1958‐)の「リーガル・ハイズ」。軽いスマートな曲だ。巨匠ジョン・コリリアーノ(1938‐)の「ストンプ」は、足を踏み鳴らしながら演奏するヴァイオリン独奏曲。その演奏は水を得た魚のように鮮やかだった。次はピアノとの共演でジョージ・アンタイル(1900‐59)の「ソナタ第2番」。ピアノの大音量に圧倒される迫力満点の演奏だった。この作品は1923年にパリで作曲されたそうだ。まさにパリの狂騒を思わせた。

 休憩をはさんでプログラム後半は、まずバッハ(1685‐1750)の「シャコンヌ」から。ノンヴィブラートで音を短く切る演奏だ。そこからは滝千春の、だれの真似事でもない、等身大のバッハが現れた。大変おもしろかった。プログラム前半のコリリアーノとアンタイルでの乗りに乗った演奏と、バッハへの自分の言葉でのアプローチと、その両面でわたしの滝千春への注目度は増した。

 次は人気作曲家、挟間美帆への委嘱作品「B↔C」。猛スピードで演奏される超絶技巧曲だ。挟間美帆はジャズ畑出身で、現在もジャズの作品を書いていると思うが、この曲にはジャズの要素は感じられず、純然たる現代曲だ。滝千春の演奏は目が覚めるようだった。

 シャリーノ(1947‐)の「6つのカプリッチョ」から第2曲「アンダンテ」は、極端な弱音に傾かず、その結果音がやせずに、詩的な演奏だった。驚いたことに、曲の末尾からドラムスのリズムが入りこみ、次の木山光(1983‐)の「Death Metal Rock with Head Bang」に雪崩れこんだ。これは絶叫の音楽だった。

 最後はチェロとバロックギターの通奏低音が加わり、ビーバーの「チャコーナ」が演奏された。生き生きとした愉悦が感じられる演奏だった。乗りの良さでは現代作品に引けを取らなかった。わたしはますます滝千春に注目した。
(2021.4.20.東京オペラシティ・リサイタルホール)
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