当初はドイツの作曲家・指揮者のマティアス・ピンチャーが指揮する予定だった東響の定期だが、ピンチャーがキャンセルして、ペトル・ポペルカPetr Popelkaという指揮者が代役に立ち、曲目も一部変更になった。
プロフィールによると、ポペルカはチェコのプラハ出身。2010~19年にドレスデン・シュターツカペレで副首席コントラバス奏者を務めた。2016年から指揮を始め、2020年8月からノルウェー放送管弦楽団の首席指揮者、2022年9月からはプラハ放送交響楽団の首席指揮者・芸術監督に就任予定とのこと。
1曲目はウェーベルンの「夏風の中で」。冒頭の弦楽器の最弱音が、ピンと張った絹糸のような艶と透明感があった。だが、その後の展開には、もったりしたところがあり、冒頭の最弱音から期待したほどの緊張感はなかった。
2曲目は、当初はピンチャーの作品が予定されていたが、ベルクの歌劇「ヴォツェック」から3つの断章に変更された。ソプラノ独唱は森谷真理。2021年8月の東京二期会の「ルル」でタイトルロールを歌った歌手だ。あのときの見事な歌唱は鮮明に記憶に残っている。その記憶を蘇らせるような歌唱だった。もっとも、遊戯性のあるルルの音楽と、シリアスな「ヴォツェック」のマリーの音楽との対比が浮き上がったことのほうが、わたしとしては大事だった。一方、今回のほうが森谷真理の声の立派さが印象付けられた。
余談だが、当初予定されていたピンチャーの曲は「牧歌――オーケストラのための」という曲だった。その関連で(‘牧歌’つながりで)1曲目はウェーベルンの「夏風の中で」が選ばれたのではないだろうか。だが、ピンチャーが来日中止になり、曲目の変更を余儀なくされたとき、今度はウェーベルンの「夏風の中で」をキーにして、その関連でベルクの曲を選んだことは、別の文脈を作るという意味で、見事な解決策だったと思う。
3曲目はラフマニノフの「交響的舞曲」(これは当初予定通りだ)。演奏は意欲的で、彫りが深く、(2曲目のベルクのオーケストラ演奏もよかったのだが、それを超えて)目が覚めるような出来だった。弦楽器が分厚く鳴り、金管楽器も逞しかった。ポペルカがドレスデンのシュターツカペレ出身だという先入観のためもあるかもしれないが、少なくとも弦楽器はドレスデンのシュターツカペレを連想させる瞬間があった。
ステージマナーから察するに、ポペルカはスター然とした指揮者ではなく、オーケストラとの協働を楽しむタイプのように見える。そんな好ましさがステージから伝わった。今回の東響への客演を契機に、日本でも活動の場を築いてほしい。
(2022.8.20.サントリーホール)
プロフィールによると、ポペルカはチェコのプラハ出身。2010~19年にドレスデン・シュターツカペレで副首席コントラバス奏者を務めた。2016年から指揮を始め、2020年8月からノルウェー放送管弦楽団の首席指揮者、2022年9月からはプラハ放送交響楽団の首席指揮者・芸術監督に就任予定とのこと。
1曲目はウェーベルンの「夏風の中で」。冒頭の弦楽器の最弱音が、ピンと張った絹糸のような艶と透明感があった。だが、その後の展開には、もったりしたところがあり、冒頭の最弱音から期待したほどの緊張感はなかった。
2曲目は、当初はピンチャーの作品が予定されていたが、ベルクの歌劇「ヴォツェック」から3つの断章に変更された。ソプラノ独唱は森谷真理。2021年8月の東京二期会の「ルル」でタイトルロールを歌った歌手だ。あのときの見事な歌唱は鮮明に記憶に残っている。その記憶を蘇らせるような歌唱だった。もっとも、遊戯性のあるルルの音楽と、シリアスな「ヴォツェック」のマリーの音楽との対比が浮き上がったことのほうが、わたしとしては大事だった。一方、今回のほうが森谷真理の声の立派さが印象付けられた。
余談だが、当初予定されていたピンチャーの曲は「牧歌――オーケストラのための」という曲だった。その関連で(‘牧歌’つながりで)1曲目はウェーベルンの「夏風の中で」が選ばれたのではないだろうか。だが、ピンチャーが来日中止になり、曲目の変更を余儀なくされたとき、今度はウェーベルンの「夏風の中で」をキーにして、その関連でベルクの曲を選んだことは、別の文脈を作るという意味で、見事な解決策だったと思う。
3曲目はラフマニノフの「交響的舞曲」(これは当初予定通りだ)。演奏は意欲的で、彫りが深く、(2曲目のベルクのオーケストラ演奏もよかったのだが、それを超えて)目が覚めるような出来だった。弦楽器が分厚く鳴り、金管楽器も逞しかった。ポペルカがドレスデンのシュターツカペレ出身だという先入観のためもあるかもしれないが、少なくとも弦楽器はドレスデンのシュターツカペレを連想させる瞬間があった。
ステージマナーから察するに、ポペルカはスター然とした指揮者ではなく、オーケストラとの協働を楽しむタイプのように見える。そんな好ましさがステージから伝わった。今回の東響への客演を契機に、日本でも活動の場を築いてほしい。
(2022.8.20.サントリーホール)