Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

METライブビューイング「めぐりあう時間たち」

2023年02月09日 | 音楽
 METライブビューイングで「めぐりあう時間たち」を観た。ケヴィン・プッツ作曲の新作オペラだ。「めぐりあう時間たち」というと、同名の映画を思い出す。わたしは観ていないが、フィリップ・グラスが音楽をつけたので、題名くらいは知っている。その映画がオペラ化された。台本はグレグ・ピアス。

 METライブビューイングでは毎年1~2本の新作オペラが上映される。そのほとんどを観ているが、今回の「めぐりあう時間たち」は傑作オペラの誕生だと思う。台本のすばらしさと音楽のすばらしさとで、今後多くの人々を感動させるのではないだろうか。

 物語は3つの時代と場所で進行する。1999年のニューヨークで女性編集者・クラリッサの物語。1923年のイギリスのリッチモンドで女性作家・ヴァージニア(実在の作家・ヴァージニア・ウルフだ)の物語。そして1949年のロサンジェルスで主婦・ローラの物語。それらの物語が同時進行する。

 個々の物語を説明しても仕方がないので(劇場または映像で観ないと、物語を味わうのは難しいだろう)、むしろ3つの物語を集約していうと、それらはいずれも、愛がそこにあるのに、その愛を受け止められずに、愛を失う物語といえそうだ。だれのせいでもない。自分のせいで愛を失う。だが、それが自分の人生だ。生きるしかない。自分はひとりで苦しんだが、多くの人も同じ苦しみを味わっていた。自分はひとりではない。時代と場所をこえて、多くの人とつながっている、という考えに達して物語は終わる。

 そのエンディングに至る前に、ある事件が起きる。その事件からエンディングに至るまでに、さまざまなディテールが生起し、ゆらゆら浮遊しながら、やがて着地する。その経過のなかで、わたしは何度か涙した。オペラで涙するのは何年ぶりだろう。

 エンディングで3人の女性が歌う三重唱は、「ばらの騎士」のエンディングのマルシャリン、オクタヴィアン、ゾフィーの三重唱を思い出させる。だが、「ばらの騎士」の3重唱が甘く酔わせる3重唱であるのにたいして、本作品の3重唱は静かに語る3重唱だ。

 配役は、クラリッサがルネ・フレミング、ヴァージニアがジョイス・ディドナート、ローラがケリー・オハラ。もうこれ以上は考えられないくらい見事な顔ぶれだ。今後このオペラを別の配役で観る機会があったとしても、今回ほどの感動が得られるかどうか、不安になる(それが見事な配役の困った点だ)。指揮はヤニク・ネゼ=セガン。音楽からあふれ出る愛の感情がすごい。演出はフェリム・マクダーモット。3つの時代と場所の描き分けが鮮明なので、人はそれぞれ時代と場所の制約のもとで生きることを感じさせる。
(2023.2.8.109シネマズ二子玉川)
コメント (4)
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