Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カーチュン・ウォン/日本フィル

2023年05月13日 | 音楽
 今年9月から日本フィルの首席指揮者に就任するとともに、ドイツのドレスデン・フィルの首席客演指揮者にも就任するカーチュン・ウォンの振る日本フィルの定期演奏会。プログラムはミャスコフスキー、芥川也寸志、ヤーチェクと西欧音楽の周辺国の民族色豊かな曲を並べたもの。

 1曲目はミャスコフスキーの交響曲第21番「交響的幻想曲」。ミャスコフスキーは近年ヨーロッパでは復活の機運があるらしいが、わたしは過去にオリヴァー・ナッセンが都響を振って交響曲第10番を演奏したのを聴いたくらいだ。第21番「交響的幻想曲」は初めて。澤谷夏樹氏のプログラムノーツのおかげで迷子にならずに聴けた。

 プログラムノーツによれば、この曲はA→B→C→B→C→B→C→Aの構成になっている。Aの部分に前後をはさまれて、B→Cが3回繰り返される。繰り返しごとに多少の変形はあるが、B、Cの基本的な性格は変わらない。冒頭にクラリネット・ソロでロシア情緒たっぷりの旋律が提示される。Bは快活な音楽、Cは抒情的な音楽だ。全体的に(表題の通り)幻想的な作品だ。演奏も良かったと思う。

 2曲目は芥川也寸志の「コンチェルト・オスティナート」。独奏チェロは佐藤晴真(はるま)。2019年にミュンヘン国際音楽コンクールのチェロ部門で優勝した逸材だ。以前、別のオーケストラで聴いたことがある。そのときはカバレフスキーのチェロ協奏曲だったので(あまりピンとこない曲だ)、佐藤晴真の実力はよくわからなかったが、今回はよくわかった。豊かな音色で朗々と歌い、急速なテンポの部分も見事だ。

 アンコールにバッハの無伴奏チェロ組曲第3番から「サラバンド」が演奏された。ゆったりした息遣いが印象的な丸みを帯びた演奏だ。万人を惹きつける心地よさがある。

 3曲目はヤナーチェクの「シンフォニエッタ」。2019年4月に聴いたフルシャ指揮N響の演奏が記憶に新しいが、その演奏が正攻法の楷書体の演奏だったのにたいして、カーチュン指揮日本フィルの演奏は、おもちゃ箱をひっくり返したように惜し気もなくアイディアが繰り出される演奏だ。何枚ものプレートが入り組むような多層的な演奏で、どのプレートもテンポが異なり、音色が異なり、性格が異なる。そのためだろうか、最終楽章の後半で第1楽章のファンファーレが回帰するまでの推移が、今まで聴いたどの演奏よりも説得力をもって聴けた。なお、あえて注文をつければ、バンダをふくめてオーケストラには、テンポの急激な変化のさいにフレーズが粗くなる感があった。また、カーテンコールのときにファゴットの首席奏者が、カーチュンに起立を促されながらも、それを辞退(?)する光景が見られた(再度促されて、渋々立ったが)。
(2023.5.12.サントリーホール)
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