Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カプワ/日本フィル

2024年12月01日 | 音楽
 日本フィルの東京定期。当初は沖澤のどかが指揮する予定だったが、出産予定のため、パヴェウ・カプワに代わった。カプワの生年はプロフィールに記載がないが、まだ30代前半くらいの若い指揮者だ。出身はポーランド。クラクフ音楽院で指揮を学んだ。コンクールの優勝歴はとくに記載されていない。ワルシャワ・フィルをはじめ、ヨーロッパ内のオーケストラを振っている。日本ではまったく無名だ。

 で、どんな指揮者だったか。結論からいうと、意外に逸材かもしれない。インキネンを発掘したときと似たような感覚がある。日本フィルのカプワの起用は成功したと思う。

 プログラムは沖澤のどかのプログラムを引き継いだ。1曲目はブラームスのピアノ協奏曲第2番。ピアノ独奏はセドリック・ティベルギアン。しみじみした内向的な演奏だ。ばりばり弾くヴィルトゥオーゾ・タイプではない。晩秋のいま聴くにふさわしいブラームスといえる。ティベルギアンは背が高くスマートで、スーツ姿がよく似合う。一見すると、ビジネスマンだ。その外見としっとりしたブラームスの演奏とはイメージが異なる。

 カプワ指揮の日本フィルはそのようなティベルギアンの演奏スタイルによく付けていた。内向的なピアノ独奏をしっかり支えた。ただ、だからだろうか、少し几帳面な感じがしたのも事実だ。

 ティベルギアンはアンコールにバッハのオルガン協奏曲ニ短調BWV596を弾いた(原曲はヴィヴァルディらしい)。これも秋の夜にひとり想うといった趣の演奏だった。

 2曲目はシューマンの交響曲第2番。1曲目のブラームスのオーケストラ伴奏とはうって変わって、演奏は見違えるような積極性を帯びた。第1楽章の序奏はきわめて遅いテンポで緊張感のただよう演奏。ところが主部に入ると、テンポが速めで開放的な演奏になる。そのコントラストの強さがこの演奏の特徴だ。

 第2楽章のスピード感も見事だ。弦楽器が一糸乱れず疾走する。それを縁取る木管楽器もぴたりと決まる。第3楽章アダージョがどうなるか注目した。どちらかといえば寒色系の音色でクリアな音像が積み重なる。透明感のあるテクスチュアだ。第4楽章は音楽の段落がきわめて明快な演奏だ。もやもやしたところは皆無だ。

 演奏全体をまとめていうなら、クリアな音と明快な造形感が特徴だ。言い換えると、音が混濁したり、音楽の造形があいまいになったりしない。カプワは今後スター指揮者になるかどうかは分からないが、日本フィルは大事に育ててほしい。
(2024.11.30.サントリーホール)
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