Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ルイージ/N響

2024年12月15日 | 音楽
 ルイージ指揮N響の定期演奏会Cプロ。曲目はリストの交響詩「タッソー」と「ファウスト交響曲」。リストの管弦楽曲を再認識する良い機会だ。

 1曲目の交響詩「タッソー」は弦楽器の暗い音色から始まる。やがてバス・クラリネットがテーマを吹く。鬱屈したテーマだ。それにしてもテーマを提示するのがバス・クラリネットであることにハッとする。ちょっと珍しい。演奏は情感豊かだった。曲はその後、明るさを増し、最後は交響詩「プレリュード」を思わせる勝利の音楽になる。N響の金管楽器が輝かしい。

 広瀬大介氏のプログラムノーツによると、リストには交響詩が13曲あるそうだ(その他に交響曲が2曲ある)。その全部は聴いていないが、「タッソー」や「プレリュード」から類推するに、リストの管弦楽曲にはひとつの“色”がありそうだ。それは暗い色だが、どこかに暖色系の色が紛れこむ。渋いようで甘い色だ。リストの交響詩を継承した作曲家はリヒャルト・シュトラウスだろうが、シュトラウスの“色”はもっと華やかだ。そのちがいは半音の使い方からくるだろうが、それ以外にリズムのちがいもありそうだ。リストのリズムは(少なくとも管弦楽曲は)ストレートだ。

 2曲目の「ファウスト交響曲」はもっと面白かった。ルイージ指揮N響はこの大曲を隅々まで味わい尽くす演奏だった。細部のニュアンスを表出し、しかも細部に拘泥するあまり全体の見通しが崩れることがない。細部と全体のバランスがとれた名演だ。

 第3楽章(最終楽章)ではメフィストフェレスがファウストを翻弄する。にっちもさっちもいかなくなったとき、オーケストラが止まり、オルガンが鳴る。教会のオルガンを想起させる。そして静かに男声合唱が始まる。ゲーテの戯曲「ファウスト」第2部の最後の「神秘の合唱」だ。やがてテノール独唱が入り、「女性的なるもの」によるファウストの救済が歌われる。男声合唱は東京オペラシンガーズ。テノール独唱は名歌手のクリストファー・ヴェントリスだった。

 わたしは以前から、最後はなぜ男声合唱なのだろうと思っていた。「女性的なるもの」を歌うのに女声が入らないのはなぜか‥と。だが今回腑に落ちた。ファウストは徹頭徹尾“男”の物語なのだ。そう思った理由は、第3楽章の途中で第2楽章のグレートヒェンのテーマが回想されるからだ。ファウストが不幸に陥れたグレートヒェンだが、ファウストは第3楽章でメフィストフェレスに翻弄されるなかでグレートヒェンを想い出す。そして最後にファウストはグレートヒェンの聖母マリアへのとりなしで救済される。そんな都合の良い話は“男”のエゴのなかにしかないだろう。
(2024.12.14.NHKホール)
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