Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 葵トリオ

2024年12月18日 | 音楽
 葵トリオがB→Cに出演した。1曲目はシュニトケのピアノ三重奏曲。原曲は弦楽三重奏曲だったそうだ。シュニトケ自身がピアノ三重奏曲に編曲した。原曲は1985年の作曲、ピアノ三重奏曲は1992年の編曲。シュニトケ最晩年の作品だ。

 2楽章構成で、2楽章とも緩徐楽章だ。武満徹のピアノ曲「2つのレント」を思い出す。シュニトケのこの曲は沈鬱な楽想が基調だが、時々激情的なパッセージが駆け抜ける。同じような楽章を2つ続けて聴くと、最後はすべてが語り尽くされた感が残る。シュニトケはなぜこの曲を書いたのだろう。シュニトケのペシミスティックな心境の表れだろうか。

 2曲目は細川俊夫の「メモリー ――尹伊桑の追憶に」。同じ沈鬱な音楽でも、細川俊夫の音楽はシュニトケの音楽とはなんと違うのだろう。薄く張った透明な音。時間が止まったような感覚だ。大事な人が亡くなったときの喪失感はそういうものかもしれない。

 3曲目は山本裕之の「彼方と此方」。シュニトケの音楽とも細川俊夫の音楽ともまるで違う。いや、当夜演奏されたどの音楽とも違う。比喩的にいえば、ランダムに動く3つの運動体があり、それがやがてひとつの有機体に収斂し、エネルギーを失うという音楽だ。音の新鮮さが目をみはるようだ。

 4曲目と5曲目は藤倉大の「nui(縫い)」と「nui2(縫い2)」。「nui(縫い)」は短い曲なので印象が残らなかった。「nui2(縫い2)」はリズミカルなピアノの動きの続く部分が印象的だが、その動きにはどこか既視感もあった。

 休憩をはさんで後半。6曲目はバッハのヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ト長調BWV1021。バッハの名曲のひとつだが、演奏は一風変わっていた。ヴァイオリンと通奏低音の音楽ではなく、チェロとピアノがヴァイオリンと対等に渡り合うピアノ三重奏のような音響体だ。わたしにはちょっと経験がない音響体だった。

 最後の7曲目はヴァインベルクのピアノ三重奏曲。これは目の覚めるようなパワフルな演奏だった。葵トリオが海外で認められる所以だろう。日本人の演奏家がかつて(そして今も)いわれる「箱庭的」な演奏とは一線を画す。それだけのパワーがあって初めて聴く者の肺腑をつく演奏になるのだろう。

 それにしてもこの曲は面白い。全4楽章の大曲で、どの楽章も面白いが、第4楽章の最後が静かに終わる。激しい闘争のような音楽が続いた後での静かな終わり方。それはなんだろう。作曲は1945年だ。戦争終結後の、喜びもなにもない、空白の時間の訪れだろうか。
(2024.12.17.東京オペラシティ小ホール)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする