Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

牛の鈴音

2010年01月08日 | 映画
 韓国のドキュメンタリー映画「牛の鈴音」(うしのすずおと)をみた。同国では2009年1月に公開され、約300万人の動員という大ヒットになったとのこと。日本でも12月から公開されている。

 この映画は韓国の農村に住むお爺さんとお婆さん、そして年老いた牛の生活を記録したもの。お爺さんはその牛を使って農作業をして暮らしている。子どもたちはみんな離れて住んでいて、お盆のときに集まるくらい。お爺さんもお婆さんも「肩身の狭い思いをしたくない」と言って、子どもたちと暮らすことを嫌がっている。

 牛はもう40年も生きている。普通、牛の寿命は15年くらいらしい。この牛は驚くべき高齢だ。今でも毎日、朝から晩までお爺さんと農作業をしている。

 そのような二人と一頭の淡々とした日常を追った映画。事件らしい事件が起きるわけでもなく、ナレーションやインタビューも入らない。音楽もない――あるのはただ牛の首につけられた鈴の音だけ。

 映像がひじょうに美しい。農村の四季折々の風景はもちろんだが、ときどきハッとするような劇的なものがある。たとえば、ある日、お爺さんはみんなに説得されて、年老いた牛を売りに行く。けれども、寄ってたかって「老いぼれ牛」とバカにされて、お爺さんは腹を立て、売るのを止める(ほんとうは売りたくなかったのだ)。
 その帰り道。牛の引く荷車に乗って帰るお爺さんを夕日が照らす。それをカメラが下からのアングルで写す。シルエットになって浮かび上がるお爺さんと牛。

 この映画はドキュメンタリーだが、ほんとうになんの演出もないのかどうかはわからない。あってもよいのかもしれない。ストーリーもあるような、ないようなものだが、首尾一貫していて無駄がない。ちゃんと結末もある。なので、あまりドキュメンタリーにこだわらずにみたほうが良いような気がした。

 結局この映画が描いたのはなんだろうか。
 第1に昔ながらのお爺さんとお婆さんの生活ぶり。それは時代遅れの不便なものだが、現代の合理的な生活からは失われた人間くささがある。
 第2にお爺さんと牛との情愛。牛がついに動けなくなり、寿命が尽きるとき、お爺さんはそばに付き添って、「天国に行けよ」と声をかける。お婆さんは言う、「病気の体でたくさんの薪を運んでくれた。自分が死んでも私たちが困らないように」と。
 第3に農村の風景。それは日本の農村にも似ていて懐かしい。
(2009.12.29.シネマライズ)

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