Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2016年07月04日 | 音楽
 日本フィル首席指揮者としてのラザレフの最後の演奏会が始まった。先日は横浜定期があり、今週は東京定期がある。以下、横浜定期の感想を。

 1曲目はドヴォルジャークのチェロ協奏曲。チェロ独奏は日本フィルのソロ・チェロ奏者の辻本玲。辻本玲は活発な演奏活動を続けているので、ご存知の方も多いだろうが、太い音を持つチェロ奏者で、その音から想像されるとおり、雄渾な音楽性を持つ若手だ。

 そういう有望な人だが、今回は所属オーケストラの首席指揮者の指揮なので(しかもその指揮者が、いってよければ、ラザレフ将軍なので)、自由奔放にのびのびと、という具合にはいかなかったようだ。さらなる可能性を予感させる演奏といったらよいか。

 ただ、だからといって、萎縮しているとか何とか、そんなレベルではない。辻本玲が持っている熱い音楽性、端的にいって音楽の内なる情熱が、その演奏から滲み出ていた。クールな演奏ではなく熱い演奏、しかもその熱さは表面的なものではなく、音楽の内側から滲み出るもの。これがこの人の持ち味ではないかと思う。

 アンコールに「鳥の歌」が演奏された。フラジオレットで模倣される鳥の鳴き声、そしてメロディーの淡々と、飾らず、しかも勁い(あえて‘勁い’と書きたい)演奏は、大袈裟な表現で申し訳ないが、わたしにはカザルスの演奏を想い出させた。

 2曲目はドヴォルジャークの交響曲第8番。これも興味津々の演奏だった。第1楽章の第1主題の明るいメロディーをフルートが吹き、弦が短く応答するとき、背後でフルートに代わってピッコロがロングトーンを吹いていることに、わたしは始めて気が付いた。ピッコロの音が一本の糸のように明瞭に聴こえた。

 この箇所に限らず、全曲にわたって木管、金管の思いがけない動きが浮き出ることがあり、その都度新鮮な気持ちで聴いた。

 第2楽章は、今まではのどかな田園風景を描いた音楽だと思っていたが、今回の演奏では、時折射し込むあの暗い影は‘死’ではないだろうかと思った。そう思うと、音楽に鮮やかな明暗のコントラストが感じられた。ラザレフの深いスコアリーディングの賜物ではないかと思う。

 第3楽章は勢い込んで始まる振り幅の大きい演奏、第4楽章は豪快な演奏だった。最近これだけ豪快な演奏をする指揮者は少なくなった。絶滅危惧種‥かもしれない。
(2016.7.2.横浜みなとみらいホール)

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