Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

森美術館「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」

2024年07月18日 | 美術
 森美術館で「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」が開催中だ。シアスター・ゲイツ(1973‐)はアメリカ・シカゴ生まれの黒人アーティスト。2004年に愛知県常滑市で陶芸を学ぶために初来日した。それ以来、日本とのかかわりが深い。

 2番目の展示室は床一面に茶褐色のレンガが敷きつめられている。「神聖な空間」(英語でShrine)と名付けられたその展示室では、お香が焚かれる。文字通り神聖な場所だ。本展のHP(↓)の「展示風景」に写真が載っているが、写真ではそのインパクトは伝わらないかもしれない。

 「神聖な空間」にはゲイツ自身の作品とともに、他のアーティストの作品も展示されている。それもまたゲイツの世界だ。ゲイツのキュレーションによる作品の展示と、床一面のレンガが例示するような圧倒的な物量が本展の特徴だ。

 その2点が集約的に表れるのは「TOKOSSIPPI」(常滑+ミシシッピイ)という看板のかかる展示室だ。入り口には小出芳弘(1941‐2022)の膨大な数の陶器が並ぶ。その物量に圧倒されて奥に進むと、そこは酒場だ。ディスコミュージックがかかる。DJカウンターがあり、その奥には無数の徳利が並ぶ。徳利にはすべて「門」(=ゲイツGates)と書かれている。部屋の中央には「ハウスバーグ」と名付けられたオブジェが置かれる。ミラーボールのように光を反射する。展覧会なのでアルコールは提供されないが、提供されたとしても違和感はない。思わず笑ってしまう。

 黒人アーティストなので、黒人問題は主要な関心事のひとつだ。その点では2本のヴィデオ作品がおもしろい。1本は「避け所と殉教者の日々は遥か昔のこと」(6分31秒)。避け所とはShelterだ。古い教会の解体工事の映像作品。2人の黒人労働者が鉄の扉を床に叩きつける。それを延々と繰り返す。なんの意味もない。遊んでいるのだろうか。それともストレス発散か。ともかく、昔は黒人たちのシェルターだった教会は、無残に解体される。

 もう1本は「嗚呼、風よ」(11分57秒)。廃墟となった工場か倉庫だろう。瓦礫が散乱する中を、1人の黒人が歌をうたいながら行ったり来たりする。「Oh, the Wind」という歌だ。ただそれだけの映像作品だが、独特の節回しから哀感が伝わる。

 併設されたコレクション展では、1973年ベトナム・ハノイ生まれのグエン・チン・テイの映像インスタレーション「47日間、音のない」(30分)が上映されている。ベトナムの豊かな自然と辺鄙な集落に住む人々を映した作品だ。まとまったストーリーはないが、人々が「人間の眼を持たない男」を語る場面は、神話の誕生を思わせる。
(2024.6.24.森美術館)

(※)本展のHP

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