Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラフマニノフのオペラ「アレコ」

2020年06月04日 | 音楽
 ラザレフ指揮日本フィルの5月の定期では、ラフマニノフのオペラ「アレコ」の演奏会形式上演が予定されていた。一度も観たことのないオペラなので(しかもラザレフの指揮なので)期待していたが仕方がない。せめてナクソス・ミュージックライブラリー(以下「NML」)で聴いてみようと思ったが、その前にどうせならプーシキンの原作を読んでからにしようと、岩波文庫の古本を買った(いまは絶版なので)。

 原作は「ジプシー」。劇詩だが、たいして長くはない。頁数でいうと52頁。黒海の北岸、いまはウクライナ共和国の一部となっている地域を舞台とするロマの物語。ロマの娘ゼムフィーラは、アレコという男を連れて帰る。アレコはロマではなく、街の裕福な男だが、街の生活にうんざりして、自由なロマの生活を望んでいる。ゼムフィーラの父は許す。ゼムフィーラとアレコは幸せに暮らす。ところが、ある日、ゼムフィーラはロマの若い男と恋に落ちる。アレコは嫉妬し、その男をナイフで刺し、またゼムフィーラも刺す。ゼムフィーラの父はアレコにいう、「わしらには法律はない。だから罰しはしない。だが人殺しとは住めない。立ち去ってくれ。」と。アレコは一人静かに去る。

 ラフマニノフはこれを一幕物のオペラにした。演奏時間は約1時間で、途中に間奏曲が入る。同時代のオペラ、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」(1890年初演)やレオンカヴァッロの「道化師」(1892年初演)と似ている。「アレコ」の初演は1893年。モスクワ音楽院の卒業作品だ。

 序奏のメランコリックな抒情、エキゾチックなバレエ音楽「ジプシーの女の踊り」、間奏曲の短いモチーフの繰り返しと、そこから生まれる息の長い音楽、さらに全体的なロシア情緒といった点にラフマニノフの個性が現れている。

 卒業作品といえば、ショスタコーヴィチの交響曲第1番も卒業作品だ(こちらはレニングラード音楽院。1925年初演)。そこには皮肉や風刺の棘が仕込まれている。両者を比較すると、ラフマニノフはスマートな秀才、ショスタコーヴィチは早熟な天才という感じがする。

 なお、余談だが、プーシキンの「ジプシー」に基づくオペラはもう一つ存在する。レオンカヴァッロの「ジプシーたちZingari」(1912年初演)だ。これはYouTubeで聴くことができる。「道化師」とよく似たヴェリズモ・オペラ。ラドゥー(=アレコ)はフレアーナ(=ゼムフィーラ)と幸せな日々を送っているが、フレアーナは幼馴染のロマの男タマールと親しくなる。ラドゥーは二人が逢引している小屋に火を放つ。

(※)NMLには「アレコ」の音源が複数収録されているが、音楽の流れのよさの点で、ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ交響楽団の録音がよいと思う。

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