ジョナサン・ノットの音楽監督の任期があと1年となり、一つひとつの演奏会が貴重なものになってきた。昨日は定期演奏会。1曲目はラヴェルの「スペイン狂詩曲」。もちろん良い演奏だったが、匂い立つような香気はなかった。
2曲目はミカエル・ジャレル(1958‐)のクラリネット協奏曲「Passages」。東響など4団体の共同委嘱作品だ。クラリネットの名手マルティン・フロストを想定して作曲された。今回はフロストが急病のため、直前にマグヌス・ホルマンデルに代わった。ホルマンデルはフロストの推薦らしい。
世界初演は2023年10月にフロストの独奏、ノット指揮スイス・ロマンド管が行っている。ともかく生まれたてほやほやの曲だ。しかも超絶技巧の曲。それを短時間でものにしたホルマンデルの力量はすごい。現代音楽に強い人なのだろう。
だがそれを賞賛したうえでいうのだが、いかにもジャレルらしいこの曲を、なるほどそうかと把握できたことはまちがいないが、それ以上の感銘を受けなかったのは、やはり急な代役という制約があったからかもしれない。
というのは、わたしはジャレルの曲に感銘を受けた経験があるからだ。2019年のサントリーホール・サマーフェスティバルでジャレルがテーマ作曲家になり、ルノー・カプソンのヴァイオリン独奏、パスカル・ロフェ指揮東響の演奏で「4つの印象」(サントリーホール委嘱、世界初演)を聴いた。透明感のある音響、緊張と弛緩が交互にあらわれる構成、独奏ヴァイオリンの超絶技巧と、今回の「Passages」と共通性のある曲だった。わたしはそれを聴いて感銘を受けた。今回はなぜか感銘に至らないことをもどかしく感じた。
ホルマンデルはアンコールにホーカン・ヘルストレームの「Valborg」を吹いた。舞台袖で吹き始め、それに気付いた聴衆が拍手をやめ、ホルマンデルは吹きながら舞台中央に歩む。その演奏スタイルもさることながら、素朴な味のある曲がおもしろかった。
3曲目はデュルュフレ(1902‐1986)の「レクイエム」。結論からいうと、わたしは予想外に感銘を受けた。フォーレの「レクイエム」に範にとり、グレゴリオ聖歌を引用し、さらにフランス近代の和声をつけたこの曲は、一種抽象的な性格を帯びた作品だと思うが、だからこそどの戦争とは特定しない戦争全般の犠牲者への「レクイエム」に聴こえた。
メゾ・ソプラノの中島郁子がうたう「ピエ・イエス」が胸にしみた。バリトンの青山貴は「リベラ・メ」でドラマティックな歌唱を聴かせた。合唱の東響コーラスも健闘した。
(2024.11.9.サントリーホール)
2曲目はミカエル・ジャレル(1958‐)のクラリネット協奏曲「Passages」。東響など4団体の共同委嘱作品だ。クラリネットの名手マルティン・フロストを想定して作曲された。今回はフロストが急病のため、直前にマグヌス・ホルマンデルに代わった。ホルマンデルはフロストの推薦らしい。
世界初演は2023年10月にフロストの独奏、ノット指揮スイス・ロマンド管が行っている。ともかく生まれたてほやほやの曲だ。しかも超絶技巧の曲。それを短時間でものにしたホルマンデルの力量はすごい。現代音楽に強い人なのだろう。
だがそれを賞賛したうえでいうのだが、いかにもジャレルらしいこの曲を、なるほどそうかと把握できたことはまちがいないが、それ以上の感銘を受けなかったのは、やはり急な代役という制約があったからかもしれない。
というのは、わたしはジャレルの曲に感銘を受けた経験があるからだ。2019年のサントリーホール・サマーフェスティバルでジャレルがテーマ作曲家になり、ルノー・カプソンのヴァイオリン独奏、パスカル・ロフェ指揮東響の演奏で「4つの印象」(サントリーホール委嘱、世界初演)を聴いた。透明感のある音響、緊張と弛緩が交互にあらわれる構成、独奏ヴァイオリンの超絶技巧と、今回の「Passages」と共通性のある曲だった。わたしはそれを聴いて感銘を受けた。今回はなぜか感銘に至らないことをもどかしく感じた。
ホルマンデルはアンコールにホーカン・ヘルストレームの「Valborg」を吹いた。舞台袖で吹き始め、それに気付いた聴衆が拍手をやめ、ホルマンデルは吹きながら舞台中央に歩む。その演奏スタイルもさることながら、素朴な味のある曲がおもしろかった。
3曲目はデュルュフレ(1902‐1986)の「レクイエム」。結論からいうと、わたしは予想外に感銘を受けた。フォーレの「レクイエム」に範にとり、グレゴリオ聖歌を引用し、さらにフランス近代の和声をつけたこの曲は、一種抽象的な性格を帯びた作品だと思うが、だからこそどの戦争とは特定しない戦争全般の犠牲者への「レクイエム」に聴こえた。
メゾ・ソプラノの中島郁子がうたう「ピエ・イエス」が胸にしみた。バリトンの青山貴は「リベラ・メ」でドラマティックな歌唱を聴かせた。合唱の東響コーラスも健闘した。
(2024.11.9.サントリーホール)