日経新聞の毎週日曜日のコラム「名作コンシェルジュ」は、数人の書き手が交代で執筆しているが、3月8日の同コラムは音楽評論家の鈴木淳史氏の担当で、ハンス・ツェンダー編曲のシューベルト「冬の旅」が取り上げられた。
「冬の旅」は24曲からなる連作歌曲集だが、その第1曲「おやすみ」のツェンダー編曲について、鈴木淳史氏はこう書いている、「第1曲目「おやすみ」の冒頭からして、呆気にとられる。原曲のピアノの序奏部分が効果音的に繰り返され、なかなか歌が始まらない。最初は弦楽合奏を伴ってノーマルに歌われるが、途中でマーラー風行進曲に転じると、歌手も叫び、旋律から離れて演説風にもなる。大人しそうな青年のなかに、憤怒といった激情も潜んでいることをはっきりと示すのだ。それがあってこそ、その直後にもとの旋律に戻ってからの音楽の比類なき美しさに震える。」。
これを読めば、そのCDを聴きたくなる! ナクソス・ミュージックライブラリーを覗くと、2種類のCDが入っていた。一つはクリストフ・プレガルディエンのテノール独唱、シルヴァン・カンブルラン指揮クラングフォルム・ウィーンの演奏。鈴木淳史氏のいう「マーラー風行進曲に転じる」部分では、ぎょっとして、あたりを憚った。なにか奇妙なものを聴いているのではないか。それを見とがめられるのではないかという禁断の味がした。
やがてそれにも慣れると、この編曲は一曲一曲の性格を鮮やかに捉えているのではないかと思うようになった。最後の「辻音楽師」ではエコーをきかせたサクソフォン(現代の辻音楽師?)の哀愁をおびた音色が心にしみた。
もう一つのCDはクリストフの息子のユリアン・プレガルディエンのテノール独唱、ロベルト・ライマー指揮ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルの演奏。若い声がこの曲にふさわしく、演劇的なセンスもある。オーケストラの演奏がカラフルだ。個々の曲のキャラが立ち、今を生きる若者の姿が生々しく浮き上がる。
クリストフのCDにEine komponierte interpretationという語句がある(直訳すると「作曲された解釈」)。音楽用語として適当な訳語があるのかどうか、ともかく過去の作品の解釈=作曲(いったん解体して再構築する)といったことではないかと思う。ツェンダーには他にもシューマンのピアノ曲「幻想曲」のオーケストラへの編曲があり、カンブルラン指揮バーデン=バーデン・フライブルク南西ドイツ放送響のCDはわたしの愛聴盤だ。またベートーヴェンのピアノ曲「ディアベリ変奏曲」の室内アンサンブルへの編曲があり、レポレッロのアリアのところでは騎士長のテーマがかぶさって笑いを誘う。
「冬の旅」は24曲からなる連作歌曲集だが、その第1曲「おやすみ」のツェンダー編曲について、鈴木淳史氏はこう書いている、「第1曲目「おやすみ」の冒頭からして、呆気にとられる。原曲のピアノの序奏部分が効果音的に繰り返され、なかなか歌が始まらない。最初は弦楽合奏を伴ってノーマルに歌われるが、途中でマーラー風行進曲に転じると、歌手も叫び、旋律から離れて演説風にもなる。大人しそうな青年のなかに、憤怒といった激情も潜んでいることをはっきりと示すのだ。それがあってこそ、その直後にもとの旋律に戻ってからの音楽の比類なき美しさに震える。」。
これを読めば、そのCDを聴きたくなる! ナクソス・ミュージックライブラリーを覗くと、2種類のCDが入っていた。一つはクリストフ・プレガルディエンのテノール独唱、シルヴァン・カンブルラン指揮クラングフォルム・ウィーンの演奏。鈴木淳史氏のいう「マーラー風行進曲に転じる」部分では、ぎょっとして、あたりを憚った。なにか奇妙なものを聴いているのではないか。それを見とがめられるのではないかという禁断の味がした。
やがてそれにも慣れると、この編曲は一曲一曲の性格を鮮やかに捉えているのではないかと思うようになった。最後の「辻音楽師」ではエコーをきかせたサクソフォン(現代の辻音楽師?)の哀愁をおびた音色が心にしみた。
もう一つのCDはクリストフの息子のユリアン・プレガルディエンのテノール独唱、ロベルト・ライマー指揮ザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルの演奏。若い声がこの曲にふさわしく、演劇的なセンスもある。オーケストラの演奏がカラフルだ。個々の曲のキャラが立ち、今を生きる若者の姿が生々しく浮き上がる。
クリストフのCDにEine komponierte interpretationという語句がある(直訳すると「作曲された解釈」)。音楽用語として適当な訳語があるのかどうか、ともかく過去の作品の解釈=作曲(いったん解体して再構築する)といったことではないかと思う。ツェンダーには他にもシューマンのピアノ曲「幻想曲」のオーケストラへの編曲があり、カンブルラン指揮バーデン=バーデン・フライブルク南西ドイツ放送響のCDはわたしの愛聴盤だ。またベートーヴェンのピアノ曲「ディアベリ変奏曲」の室内アンサンブルへの編曲があり、レポレッロのアリアのところでは騎士長のテーマがかぶさって笑いを誘う。