Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

高関健/東京シティ・フィル

2023年05月11日 | 音楽
 高関健と東京シティ・フィルのコンビは9シーズン目を迎えた。前回3月の定期演奏会(ショスタコーヴィチの交響曲第7番他が演奏された)といい、今回といい、絶好調だ。

 1曲目はブリテンの「シンフォニア・ダ・レクイエム」。冒頭の音が暗く深い音色で黒い雲がわきあがるように鳴った。それだけでも高関健と東京シティ・フィルの積み上げてきた成果が見えるようだ。そのあとも第1楽章「ラクリモーサ(涙の日)」を通じて深刻な演奏が続く。戦前の日本が皇紀2600年(1940年=真珠湾攻撃の前年)の奉祝行事のために委嘱した作品のひとつだ。そのいわれを抜きにしては聴けない曲だが、いま聴くと、ウクライナ情勢を飛び越えて、軍事大国化する日本への警告のように聴こえた。

 2曲目はベルクのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は山根一仁。2021年のB→Cコンサートで聴いたバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタが忘れられない。細めの音で鋭く厳しく音楽に肉薄する演奏だった。ベルクのヴァイオリン協奏曲はバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとはタイプが異なるが、ベルクのこの曲でも、細めの音で鋭く音楽を描いていった。19世紀末の爛熟した文化を引きずる演奏ではなく、はっきり20世紀となった演奏だ(この曲の初演は1936年だった)。

 同時にこの演奏では、オーケストラの演奏も良かった。1曲目のブリテンとは打って変わり、軽くて明るく、透明なテクスチュアを織り上げた。できることなら、いつか高関健の振るオペラ「ルル」を聴いてみたいと思った。

 高関健がプレトークで言っていたが、ブリテンの「シンフォニア・ダ・レクイエム」とベルクのヴァイオリン協奏曲では、オーケストラにアルト・サックスが使われている共通点がある。プレトークで言われて注意して聴いたが、なるほど、2曲ともアルト・サックスが重要な役割を果たしている。オーケストラの中音域の音色に影響する。

 山根一仁のアンコールがあった。バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番から第3曲「サラバンド」だった。ブリテン、ベルクと聴いた後で、バッハが一服の清涼剤のようにすがすがしく聴こえた。

 3曲目はオネゲルの交響曲第3番「典礼風」。がっしりと緻密に構築されたアンサンブルだ。しかも強面ではなく、潤いがある。第2楽章「深き淵より」がこれほどわたしを慰撫するように聴こえたことは初めてだ。同様に第3楽章「我らに平和を」で凶暴な高まりのあとの静寂(=平和の訪れ)がこれほど胸に染みたことはない。何度か聴いた曲だが、忘れられない演奏になりそうだ。
(2023.5.10.東京オペラシティ)

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