Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

シアター・プノンペン

2016年07月11日 | 映画
 映画にはもう何年も行っていなかった。観たい映画がなかったわけではないが、夜は出不精になってしまったし、週末はできれば家にいたいので、結局、映画からは足が遠のいていた。

 先日、時間調整の必要があったので、久しぶりに映画に行こうと思った。さて、何を観ようかと思案した。観たい映画が2本あったが、カンボジアで起きたポル・ポト派の大虐殺の後遺症を描いた「シアター・プノンペン」を選んだ。

 ポル・ポト派(党派の名はクメール・ルージュ)が首都プノンペンを制圧したのは1975年。それから3年8ヶ月あまり、ポル・ポト派は狂信的な政策をとり、その中で知識人、一般大衆、その他多くの人々を殺害した。犠牲者は300万人とも言われるが、120万人、140万人、170万人という説もある。本作のプログラムの解説では「カンボジア国民の4分の1の人々が命を失い」とされている。

 4分の1とはすごい割合だ。仮にその半分の8分の1であったとしても、そのすごさに変わりはない。そんな時代がわずか40年前にあったのだが、生き残っている人々は、その出来事を語ろうとしないそうだ。家族を失い、友人を失い、みんな何らかの心の傷を抱えているはずだが、それを語ろうとはしない。

 今の若者は40年前の出来事をあまり知らないそうだ。何かがあったらしいとは感じているが、きちんとは知らない。そんなモヤモヤした状況の中で、社会全体としてはむしろ過去のことは忘れようという風潮があるようだ。

 以上、前置きが長くなったが、「シアター・プノンペン」はそんな今の若者の、自国の歴史、家族の過去、ひいては‘自分探し’を描いた映画だ。過去にどんな出来事があったのか、糸を手繰るように少しずつ明らかになる。

 本作はカンボジアのタブーとなっているテーマを扱う映画だ。なので、公開前には人々に受け入れられるかどうか、不安があったそうだが、公開したら大ヒットした。やっと過去の出来事を語ることができる社会になりつつあるのかもしれない。

 監督はソト・クォーリーカー。1973年生まれの女性だ。本作は監督自身の‘自分探し’の映画でもあるようだ。主演はマー・リネット。遊び呆けていた娘が少しずつ成長する姿を瑞々しく演じている。荒廃した映画館シアター・プノンペンの元映写技師を演じるソク・ソトゥンが、過去の出来事への苦悩を表現して味がある。
(2016.7.8.岩波ホール)

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