Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

秋山和慶/東京シティ・フィル

2023年07月08日 | 音楽
 秋山和慶が客演指揮した東京シティ・フィルの定期演奏会。1曲目はリャードフの交響詩「キキーモラ」。リャードフの交響詩は「ババ・ヤガー」とか「魔法にかけられた湖」とか、いまでも(稀にだが)演奏される曲がある。「キキーモラ」もそのひとつだ。冒頭のイングリッシュホルンの旋律がいかにもロシア的だ。全体を通して精緻なアンサンブルとクリアな造形が保たれた演奏だった。

 2曲目はプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番。ヴァイオリン独奏は周防亮介。バレエ音楽「ロミオとジュリエット」と同時期の曲なので、尖った個性が影を潜め、穏やかな大衆性を持つ曲だが、その割には周防亮介のヴァイオリンには甘さがなく、ひたむきに何かに迫っていく演奏だった。少々意表を突かれる思いがした。

 アンコールに演奏された曲はいかにも現代曲風で(演奏会終了後、会場内の掲示を見ると、シュニトケの「ア・パガニーニ」から抜粋とのことだった)、周防亮介の内面の激しさを垣間見る思いがする演奏だった。しかもアンコールにしては長く感じた(体感的にだが‥。それにしても、抜粋ということだが、何曲やったのだろう)。その長さも周防亮介の、やむに已まれぬ思いの表れのように思った。

 3曲目はスクリャービンの交響曲第4番「法悦の詩」。細かい音型が絡み合い、複雑なテクスチュアを織り上げるが、そこには迷いも混濁もなく、すべての音が明確な方向性をもって飛び散る演奏だ。音色も明るくて温かい。後半部に入ってからの、オルガンが加わって以降の音圧のすさまじさは圧倒的かつ陶酔的だった。いままで何度か聴いたこの曲の演奏の中でも、ベストかどうかはともかく、高度な名演だった。

 秋山和慶は現在82歳だ。指揮棒の敏捷さはまったく衰えていない。その先端の繊細な動きがリャードフとスクリャービンの名演を生み出したといえる。おまけに音楽の造形がまったく崩れていない。だから年齢を感じさせない。感性のみずみずしさを保った演奏に敬意を抱く。

 秋山和慶は飯守泰次郎、小林研一郎と同世代だが、その中では一番若々しい。飯守泰次郎は(わたしは東京シティ・フィルの定期会員なので、飯守泰次郎の常任指揮者時代の最後の時期の輝きを経験しているが)、最近は体調を崩しがちだ。秋山和慶は、無事これ名馬という以上に、長年の生き方と演奏活動の結晶のような年の取り方をしている。

 秋山和慶の指揮に応えた東京シティ・フィルの、いまの状態の良さも称えられてしかるべきだ。高関健とはまったく異なる秋山和慶の音を出していた。
(2023.7.7.東京オペラシティ)

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