Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

辻彩奈&角田鋼亮/日本フィル

2020年10月18日 | 音楽
 日本フィルの横浜定期は、辻彩奈(つじ・あやな)をソリストに迎えて、新味のあるプログラムを組んだ。先にプログラムをいうと、演奏会前半はバッハの「シャコンヌ」、ヴァイオリン協奏曲第1番と第2番、後半はブラームスの交響曲第4番。指揮は角田鋼亮(つのだ・こうすけ)。

 辻彩奈のヴァイオリンは一度聴いたことがあるが(そのときも指揮は角田鋼亮だった。曲はプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番。オーケストラは別のオーケストラだった)、そのときはあまりよくわからなかった。1997年生まれの若手で、2016年にモントリオール国際音楽コンクールで第1位という経歴なので、もう一度聴いてみたいと、この横浜定期を楽しみにしていた。

 結果は、すばらしいバッハだった。「シャコンヌ」では(いうまでもなく)オーケストラは登場せずに、辻彩奈が一人で登場したのだが、その演奏は、山あり谷あり、緊張と弛緩が交錯するこの大曲を、聴衆をひきこみ、気をそらさせず、最後の一音まで集中して聴かせた。それはかつての大家の、精神的な厳しさを感じさせるバッハではなく、明るく伸びやかなバッハだった。あえていえば、生きる喜びを感じさせるバッハ。もちろん(急いで付け加えるが)技術はたいへん高度だ。

 次にオーケストラが登場して、バッハのヴァイオリン協奏曲第1番が演奏された。まず感じたことは、オーケストラが(8型だったと思うが、メモするのを忘れた)明るく鳴ったことだ。そのオーケストラをバックに、いや、オーケストラに溶け込み、会話するように、辻彩奈のヴァイオリンが鳴った。

 同第2番は「シャコンヌ」とならんで当夜の白眉だった。とくに第1楽章は、あるときは波が押し寄せるように、あるときは蝶が舞うように、音楽の愉しみを体現するような演奏だった。満場の拍手(といっても、当夜はなぜか聴衆の入りはよくなかったが、その聴衆からは熱い拍手が起きた)に応える辻彩奈のステージマナーは優雅で、落ち着いて、堂々たるものだった。

 ブラームスの交響曲第4番は、弦楽器、とくにヴァイオリン・セクションに粗さがあった。前半のバッハでは精緻なバックをつけていたのに――。わたしは1974年の春季以来の定期会員なので、日本フィルを愛しているが、残念ながら(9月の東京定期はよかったのだが、それ以降聴いた当夜をふくめて3回の演奏会では)アンサンブルの緩さが感じられる。今はすこし厳しいトレーナーが必要なのではないだろうか。なお、角田鋼亮は、しっかりした造形感をもった指揮ぶりだった。
(2020.10.17.横浜みなとみらいホール)

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