Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

沼尻竜典/東京シティ・フィル

2020年10月17日 | 音楽
 沼尻竜典が東京シティ・フィルの定期を振るのはこれが初めてらしい。ちょっと意外な気がするが、それもなにかの巡り合わせだろう。ともかく沼尻竜典が東京シティ・フィルをどう振るか、東京シティ・フィルがそれに応えてどんな演奏をするか、そんな興味のわく演奏会だった。

 1曲目は芥川也寸志の「交響管弦楽のための音楽」。第2楽章が沼尻竜典らしいスリリングな演奏だったが、テンポが速かったのか、オーケストラに余裕がなく、指揮者についていくのに必死だったような気がする。

 それにしても、いつも思うのだが、この曲の第1楽章はなにかに似ている。それはなんだろう。あえていえば、ピエルネの「小牧神の入場」ではないだろうか。そんなことをいうと、当たらずといえども遠からずだね、と冷ややかにいわれそうだが、ピエルネ云々はともかくとして、芥川には珍しいエキゾチックな音調をどう考えたらいいのだろう。

 2曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。ピアノ独奏は小山実稚恵。当初は外国人ピアニストが弾く予定だったが、入国制限のために来日できず、小山実稚恵がピンチヒッターを引き受けた。そのことにたいする高関健の感謝の言葉がプログラムに掲載されていた。高関健の東京シティ・フィルにおけるリーダーシップが感じられた。

 小山実稚恵のピアノ独奏は、手の内に入った、堂々としたものだった。オーケストラは、第1楽章の第1主題が濃厚に味付けされ、入念な演奏だったが、その一方で、ところどころに響きの薄くなる箇所があった。

 3曲目はラフマニノフの「交響的舞曲」。これは名演だった。第1楽章の中間部のサクソフォンではじまる抒情的な部分を、サクソフォンのみならず、それを引き継ぐ木管も、やがて現れる弦も、情感豊かに歌いあげた。同様に第2楽章の寂しげなワルツも情緒纏綿としていた。もちろん、第1楽章と第3楽章の急速な部分は、歯切れのいいリズムで、畳みかけるような迫力があった。

 わたしは昔、新星日本交響楽団の定期会員だったので、沼尻竜典のデビュー当時から聴いているが、その頃と比べて、音楽の流れのよさと明晰さはそのままに、そこに表現の濃厚さが加わり、すっかり成長して、風格のきざしが窺えるように感じた。そしてもう一点感じたことは、高関健と沼尻竜典の個性のちがいだ。微妙な点になるが、リズムや歌い方、そして響きの構築に、高関健にはヴァイオリン出身者の、沼尻竜典にはピアノ出身者の、各々特有の音楽性を感じる。当夜の東京シティ・フィルの演奏にはいつもとちがう構造を感じた。
(2020.10.16.東京オペラシティ)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シェイクスピア「リチャード... | トップ | 辻彩奈&角田鋼亮/日本フィル »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽」カテゴリの最新記事