Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

2020年の音楽回顧

2020年12月24日 | 音楽
 新型コロナウイルスの感染拡大第3波のなかで2020年の年末を迎えた。巷には多くの困難を抱えた人々がいる。支援をする方々には頭が下がる。だが、支援にも限界があるだろう。また支援につながらない人々も多いだろう。そんな先の見えない状況だが、とりあえずこの一年を振り返っておきたい。

 わたしの場合は2月22日の東京シティ・フィルの定期(飯守泰次郎指揮)から7月10日の日本フィルの定期(広上淳一指揮)まで4か月半ほど生音を聴く機会がなかった。そんな経験をするとは夢にも思わなかった。その空白期間をへて初めて接した生音の豊かさは生涯忘れないだろう。豊かな倍音と質量に身も心もふるえた。そのありがたさに気づかずに、いままで当たり前のように生音を享受してきた我が身を省みた。

 今年のハイライトは藤倉大の新作オペラ「アルマゲドンの夢」の初演だった。演出のリディア・シュタイアー率いる制作チームも、外国人の主要歌手3人も、そして指揮の大野和士も作曲者の藤倉大も、みんな2週間の自己隔離を受け入れて来日した。作品そのものも右派ポピュリズムが台頭する現代社会を映すもので、日本にかぎらず、世界とつながるものだった。

 同公演の成功がコロナ禍にあえぐ音楽界をどれほど元気づけたことだろう。これ以降(有力な外国人指揮者の来日と相まって)音楽界に生気が戻ったような気がする。

 もう一つ、時系列をすこし遡るが、夏の「サントリーホール サマーフェスティバル2020」で一柳慧がプロデュースした4つの演奏会が、一柳自身の危惧にもかかわらず、開催にこぎつけたことも忘れられない。わたしは杉山洋一指揮読響の演奏会と、鈴木優人指揮(一曲のみ川島素晴指揮)東京フィルの演奏会を聴いた。どちらも現代作品の鮮烈な演奏で、「アルマゲドンの夢」に劣らず刺激的だった。

 鈴木優人は今年の音楽界を牽引した指揮者のひとりだ。上記の演奏会のほかにも、読響のサントリー音楽賞受賞記念コンサートで、カンブルランの代役としてメシアンの大曲「峡谷から星たちへ」を振り、鮮烈な印象を残した。バロックから現代音楽まで自由に行き来するスター指揮者の誕生だ。

 各オーケストラはいま来シーズンの定期会員の更新手続きに入るところだ。コロナ禍で外出を控える人が多いなかで、演奏会の入場者は減っている。定期会員の継続率も低下するのではないか。その状況をどうやって持ちこたえるのか。わたしは演奏力の向上しか道はないように思える。演奏力を向上して、踏ん張るしかない。演奏力の向上はまた各オーケストラが今年聴衆から受けた金銭的な支援にこたえる道でもあるだろう。

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