Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

マナコルダ/読響

2023年04月06日 | 音楽
 アントネッロ・マナコルダAntonello Manacordaが読響を振った。マナコルダはイタリアのトリノ生まれ。クラウディオ・アバドが設立したマーラー室内管でコンサートマスターを務めた。指揮はヨルマ・パヌラに学んだ。詳細は省くが、本人のホームページによると、今後は4月にベルリン国立歌劇場、5月にバイエルン放送響、6月にウィーン国立歌劇場、7月にドレスデン国立歌劇場の予定が入っている。

 1曲目はハイドンの交響曲第49番「受難」。シュトルム・ウント・ドランク(疾風怒濤)様式の短調の交響曲だ。楽章構成は、緩‐急‐緩‐急の4楽章。どの楽章も悲壮美にあふれた音楽だ。ハイドンの既成概念をこえるところがある。黙って聴かせられたら、ハイドンとは思わないかもしれない。モーツァルトの第25番と第40番のト短調交響曲は、このあたりから来たのかと思った。

 マナコルダの指揮は衝撃的だった。10型の読響を振って、激しく音楽に没入する演奏を聴かせた。詳細は省くが、各楽章の音楽のちがいが鮮やかに対比された。結果として、全体を通した手ごたえは大きかった。ノンヴィブラートのピリオド様式の演奏だが、たんなるモダン/ピリオドの区分けをこえて、今を生きる人間の血がほとばしる演奏だった。

 2曲目はマーラーの交響曲第5番。第1楽章冒頭のトランペット・ソロの後、弦楽器が第1主題を提示するとき、チェロの対旋律が明瞭に浮き上がった。その後もチェロの動きが浮き上がるときがあり、それが演奏に陰影を与えた。第2楽章でも、激烈な音楽がいったん静まり、チェロだけが残されて、呟くような音楽を奏でる。そのときテンポがぐっと落とされて、深く沈潜した陰影が生まれた。一瞬、ヴィオラがヴェールのような薄いハーモニーをつけるが、そのハーモニーの美しかったこと。

 第3楽章ではホルン首席奏者の日橋辰朗さんの演奏が圧倒的だった。音に艶があり、朗々と鳴り、しかもシャープだった。数多くの名手でこの楽章を聴いたが、その中でも記憶に残りそうな演奏だ。

 第4楽章「アダージェット」は信じられないような名演だった。底光りのする音が鳴り響き、感動の頂点から鎮静化まで大きな幅でうねり、まるでひとつの生き物のように息づく演奏だった。マーラーのアルマにたいする愛の表現といわれる音楽だが、その愛のなんとスケールが大きく、激烈だったことか。アルマはその愛を受け止められたかもしれないが、常人は押しつぶされるだろう。第5楽章のテンションの高さもすさまじかった。ヨーロッパの最前線の演奏の仕様を持ち込んだ感がある。
(2023.4.5.サントリーホール)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« SOMPO美術館「ブルターニュの... | トップ | 山下一史/千葉響「ありがと... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽」カテゴリの最新記事