「朝まで生テレビ」に見る社会民主主義思考の再評価
元日の未明にかけて「朝まで生テレビ」が雇用問題をテーマに討論を行った。
「市場原理主義」=「新自由主義」がすっかり色あせて、所得再分配を重視する「社会民主主義」的な主張が支配的になり、隔世の感があった。
司会の田原総一郎氏の横暴さと見識のなさ、偏向振りが際立った討論でもあった。
討論の出発点は「年越し派遣村」だった。企業の一方的な派遣切りに直面して仕事も住居も奪われた非正規労働者が年末の寒空の下に放り出された。湯浅誠氏を中心にする支援活動が活発化して、日比谷で派遣切りに直面した労働者を支援する「年越し派遣村」が創設された。
労働者が生命の危険に直面する状況が生まれている現状。その責任は誰にあるのか。企業か政府か労働者自身か。
司会の田原氏の発言は二転三転した。田原氏は当初、「企業の倫理」が問題であるとの認識を示した。かつてパイオニアやTDKが人員整理を実行しようとした際、企業が批判の対象になった。メディアが企業を攻撃した。しかし、現在はメディアが企業を批判せず、企業が激しい人員削減を実行している。田原氏は「企業倫理」が問題だと指摘した。
ところが、労働者に対するセーフティネットを強化すべきだとの主張が番組内で広がると、
「生活保護や社会保障が厚くすると人間は甘えて働かなくなる」
「昔の日本人は今の日本人よりも倫理観があった。今の若者は恥知らず」
だと述べた。労働者自身の甘えが問題であるとの認識を示した。
ところが、討論をリードしたキーパーソンの湯浅誠氏が
「セーフティネットの重要性を論じてきて、セーフティネットで若者が甘えて働かなくなると発言するのは、これまでの論議をひっくり返すものだ」と反論すると、態度を一変させた。
田原氏は突然、「社会保障が大切だ。政府は社会保障、福祉に政策を集中させるべきだ」と主張し始めた。要するに確たる思想、信念など皆無なのだ。
スタジオに呼ばれた派遣切りに直面した非正規雇用労働者に対して、「派遣元の派遣会社では正社員だったのか」との意味不明の質問を繰り返した。
討論のなかで巧妙に民主党攻撃を織り交ぜる姿勢も継続した。連合が賃上げを要求することを高圧的に批判しようとした。民主党の支持団体である連合を攻撃する姿勢が明瞭に読み取れた。
湯浅氏が「正社員の賃金がかさ上げされて、非正規社員の処遇が改善するのだから、連合の賃上げ要求は正当だ」と発言すると、田原氏は黙り込んでしまった。連合攻撃の目論見が壊された瞬間だった。
民主党の枝野幸男氏に対しては、民主党の内部が一枚岩でないことについての追及が執拗に繰り返された。民主党の小沢代表と枝野氏の発言の食い違いを明らかにして、民主党の分裂を誘導したい田原氏の姿勢が明確だった。
さんざん出演者の発言を大声で遮(さえぎ)っておきながら、自分の発言中に他の出演者が発言すると「うるさい」と逆切レする姿も痛々しかった。
そもそも、小泉竹中政治を全面支援してきたのが田原総一郎氏である。論議の前に田原氏の総括が必要だ。政権交代が実現すれば、御用言論人の総括が行われなければならない。田原氏のこれまでの言動が総括される日は遠くないだろう。
「企業の社会的責任」を求めることは重要だ。日本を代表する企業が、契約期間が満了する前に一方的に派遣労働契約を打ち切ることは非難されなければならない。
しかし、政治が「性善説」に立つことは許されない。企業が一斉に労働者の生存権を脅(おびや)かす派遣切りに動いているのは、その行動を正当化する制度が確立されているからである。労働者の生存権を脅かす制度を確立した政治の責任がまず問われなければならない。
世界の競争が激化し、企業は労働コスト削減にターゲットを定めた。製造業にも派遣労働を解禁した労働者派遣法の改正は、企業の意向に沿う制度改正だった。「労働」ではなく、「資本」の論理を優先する制度改正を実施したことが、今日の問題を生み出す原因であることは明らかだ。
「資本」の論理を優先したのが「新自由主義」=「市場原理主義」だった。企業の労働コスト削減を支援する制度改正を実行した結果、労働者の生存権が脅かされる今日の問題が生まれた。
これまでも主張してきたが、二つの制度変更が求められている。
第一は、派遣切りなどに直面する労働者の生存権を確実に保証するセーフティネットの確立だ。欧州の諸制度にならってセーフティネットを張ることが急務だ。
第二は、同一労働・同一賃金の制度を確立することだ。同じ人間、同じ労働者でありながら、非正規雇用労働者だけが機械部品のような取り扱いを受ける理由は、正規労働者と非正規雇用労働者の処遇の天地の格差を容認している現行制度に原因がある。
財源については、まず、政府の無駄を排除し、そのうえで所得再分配を強化することが適正である。国民負担の増大が将来は必要になると考えられるが、その前に実行すべきことが大きい。
相続税、証券税制などで高所得者を優遇する税制改革が提示されているが、変化の方向が逆行している。
政策対応としては、内需産業を拡大する施策が求められる。医療、介護、教育、職業訓練、生活者支援などに政府資金を集中して投入すべきである。短期的に財政赤字は拡大するが、経済の均衡を回復し、完全雇用状態を回復することが先決事項である。
番組では「渋谷事件」が取り扱われた。出演者が公安警察の不当職員の顔写真を提示したが、不当逮捕を主導した国家公務員である公安警察職員を糾弾することは当然の行動だ。CMで討論が打ち切られたが、テレビメディアで事実関係の一部が報じられた意味は大きい。
しかし、「渋谷事件」で真相が明らかにされ、逮捕された無実の市民が不起訴となったのは、動かしがたい証拠映像が保全され、ネットで公開されたことが決め手だった。証拠映像が保全されなかったなら、事態はこのように展開しなかったと思われる。私が巻き込まれた事件では私の無実を証明する防犯カメラの完全な証拠映像が警察によって破棄された。日本の警察制度の暗部にもメスが入れられなければない。