“I’m not afraid. I just hate it. ”
死ぬのは怖くないの。ただいやなだけ / 『武器よさらば』より
1929年に発表されたアーネスト・ヘミングウェイの長編小説『武器よさらば』(A Farewell
to Arms)は、第一次世界大戦のイタリアを舞台に、アメリカ人のイタリア兵フレデリック・
ヘンリーとイギリス人看護婦キャサリン・バークレイとの恋を描く。ヘミングウェイ自身の、
イタリア北部戦線の従軍記者時の体験をもとにして書かれ、その筋書きは。第一次世界大戦
中、イタリア兵に志願したアメリカ人フレデリック・ヘンリーだが、イタリア軍は理想とは
かけ離れていた。その戦場で看護婦キャサリン・バークレイと出会い、初めは遊びのつもり
の恋であったが、しだいに二人は深く愛し合い、やがてキャサリンが妊娠し、二人はスイス
へ逃亡するが、難産の末、子と共にキャサリンは死んでしまい、最後は雨の中をフレデリッ
は一人立ち去ってゆくというもの。この小説により、商業的にも作品の評価としてもヘミン
グウェイの地位を不動のものにした長編小説。現代版『ロミオとジュリエット』だと評され
てきた。悲劇のラブロマンスであるわけだが、ひとつにはその構成において古典劇の5幕と
いう形式が踏襲され、ヘミングウェイは5部構成で物語を展開させている。第1部から第5
部までの季節はおおむね夏夏秋秋冬で構成、春の描写が少ないところにヘミングウェイの人
生観があらわれるとか。また、悲劇を暗示する場面では必ず雨が降り、天候を作品のムード
に効果的に取り込んでいる。
この小説の映画化について、映画評論家の淀川長治は、『武器よさらば』言うが、その頃、上
映する時には、軍部で怒られて『武器よさらば』の「武器」をさらばするのはいけないので
「戦場よさらば」に名前変えらされたというエピソードを紹介しているが、『イングリッシ
ュ・ペイシェント』は、どうもこの匂いをうんと盗んでいるもという。これは看護婦と兵隊
のロマンスだが、俳優はロック・ハドソンとジェニファー・ジョーンズでデビッド・O・セ
ルズニックが制作したが、やっぱりゲーリー・クーパーとヘレン・ヘイズの清潔な奇麗な奇
麗なロマンスいうのには及ばないと酷評。さらに二度目はチャールズ・ヴィダーが監督し、
セルズニックが制作したという。
【武器よさらばと言えない理由】
長々とこんなことを書いたのも、エジプト治安当局によるモルシ前大統領派の強制排除によ
る死者が638名超えるという事態に陥ったというニュースが舞い込んことで、国軍にしろ自
衛隊にしろ、反乱軍にしろ軍事行為の卑劣さ、人権の蹂躙圧殺をリアルタイムに目にし、歴
史的な学習機会に向き合い深い憤りを感じるからだ。そこで、「2013年エジプトクーデター
」の深層に触れてみようというわけだった。
そこでお復習い。エジプトは、2011年に「アラブの春」と呼ばれる革命があり、30年間独裁
体制をしいてきたムバラク元大統領を引きずり降ろす。しかし、こんどは7月3日、民主的
な選挙によって選ばれたムルシ大統領が引きずり降ろされた。独裁体制が終わって、民主的
に大統領になったのに、なぜ、ムルシ大統領が職を追われたのか? 軍事クーデターの始まり
は、6月30日に全土で数百万規模の反ムルシ大統領デモ。この民衆のデモを支持する形で、
エジプト軍はムルシ大統領から大統領権限を奪う。ここで軍部の介入理由としては(1)食
料品の値段の高騰-2012年にムルシ大統領統治下の経済停滞で食料品価格は1.5倍となる。
(2)アラブの春で軍部はムバラク大統領と距離を置く一方、大統領を支持組織(ムスリム
同胞団)はイスラム教の団体に対し軍は世俗主義派=政治と宗教分離する立場。2012年7月
に初の文民大統領就任したが、同年11月に大統領権限強化の暫定憲法を発令、独裁化懸念し
反大統領デモが起きる。 また同年12月に国民投票で承認された新憲法はイスラム主義者で起
草委員が占められたため世俗派やキリスト教徒などから反発を受け(女性や非ムスリムの権
利縮小しイスラム化を促すものとして)批判が巻き起きていた。(3)これに対しエジプト
軍部首脳と結びつきの強い米国軍首脳を抱えるオバマ大統領の、イスラム原理主義(武闘派)
=テロリスト集団との徹底抗戦の政策姿勢が、イスラム化=反米化・テロ激化を恐れ、エジ
プト軍部の軍事行動抑制を躊躇させたことがその原因だろうと考えられる。
ここで、エジプトの独裁体制史の「歴史的背景」の深層をさぐる作業を一旦保留し、軍事ク
ーデターの共同幻想としての“武闘信仰(=ヘラクレス信仰)の 矛盾を露わにした、イス
ラエル高官の「広島・長崎の式典は独善的うんだり」発言のニュースに切り替える。広島と
長崎で行われた平和式典について、イスラエル政府高官が自らのフェイスブックに「独善的
な式典にはうんざりだ。広島と長崎(の原爆)は日本の侵略行為の報いだ」と書き込んでい
たことに、現地の日本大使館は15日までにイスラエル外務省に抗議。高官は、広報・離散民
省元幹部のダニエル・シーマン。シーマンは「日本は帝国主義や大量虐殺の犠牲になった中
国人や韓国人、フィリピン人などを追悼すべきだ」とも書き込んでいたという。書き込みは
すでに削除されているが、首相府のインターネット広報戦略の責任者への起用が検討されて
いたが、現在停職処分になっている。首相府は「書き込みは容認できず、政府の立場を表し
たものではない」と指摘。シーマンに厳重注意し、書き込みの即時停止を命じたことを明ら
かにした。駐日イスラエル大使館は16日に声明を出し「シーマン氏は多くの人の心情を傷つ
けた」と陳謝しているという(朝日新聞デジタル、20130816)。
このブログでも記載してきたが「ヘラクレス信仰」から解放されない限り、イスラエルに永
遠に平和は訪れない(=地獄)という確信を抱き中東紛争を看ていると同時に、巨大な軍事
力を保持するがゆえ分裂し苦悩に苛まれるオバマ大統領を覗き込み、かって、アーネスト・
ヘミングウェイが“A Farewell to Arms”を書いたように「武力放棄の道以外に道なし」と、
自問自答し、エジプトに平和を!と右手で左胸を押さえ黙祷する。