力 命 りょくめい
ことば-------------------------------------------------------------------------
「われかつて子なし。子なかりし時憂えず。今子死せり、すなわち嚮(さき)に子なか
りしと同じ。臣なんぞ憂えんや」
「北宮子は徳に厚くして、命に薄し。なんじは命に厚くして、徳に薄し。なんじの達は、
知の得にあらざるなり。北宮子の窮は愚の失にあらざるなり、みな天なり、人にあらざ
るな
---------------------------------------------------------------------------
三つの診断
場末の友人季梁が病いの床に臥した。病勢はつのる一方で、七日目には重休におちいっ
てしまった。むすこはおろおろして泣き叫び、医者をよぽうとした。すると、季梁が楊
朱にいった。
「友よ、せがれの愚かしさはごらんのとおりだ。一節うたってわからせてやってはくれ
ぬか」
そこで、楊朱はこんな歌をうたった。
天にもわからぬ人の連合よ
人にわかろうはずはない
さいわいは天が下すわけでない
わざわいは人が招くわけでない
おれやおまえには
とっくに承知のこのことが
医者や巫には
とんとわからぬ
しかし、歌の意味がのみこめなかったむすこは、矯氏、兪氏、盧氏という三人の医者を
よんできた。診察がおわって、まっさきに口をきったのは矯氏である。
「あなたの体は陰陽のバランスがとれていない。だから、臓腑のはたらき、精神の動き
がばらばらになってしまったのだ。しかし、それは、天が下したのでもなければ、魔物
のたたりでもない。心配はいらぬ。相当に悪化してはいるが、わしがなおして進ぜよう」
するとヽ季梁は吐きすてるようにいった。
「やぷ医者めが。おい、この男をさっさと追い返せ」
ついで、兪氏が診断を下した。
「あなたは月足らずで生まれたために、母乳をとる力が十分でなかった。この病いはき
のうやきょうのものではない。生まれついての持病だ。お気の毒だが、回復のみこみは
ない」
「まあまあといったところか。おい、このかたに食事をさしあげてくれ」
最後に、虞氏がいった。
「この病気は、天が下したものでもなければ、みずから招いたものでもない。ましてや
魔物のたたりではない。あなたがこの世に生を受けたその時からの運命だ。医者の力の
およぶところではない」
「おお、名医だ。せがれや、十分なお礼をさしあげてお送りしない」
それから間もなく、季梁の病いは峠を越し、やがて、薄紙をはぐように本復した。
【短歌&俳句トレッキング:立春#FirstDayOfSpring】
さざ波は立春の譜をひろげたり 渡辺水巴
It seems that the ripples on the shore gently spread, and on the day of the beginning of
spring, it is glad that spring comes. The author wrote that as "spread music". It captured
ripples' water sounds, reflections of light like music.
み雪降る 冬は今日のみ うぐひすの 鳴かむ春へは 明日にしあるらし
万葉集 20-4488 三形 王
天平宝字1年(757)12月18日に大監物(だいけんもつ)三形王(みかたのおおきみ)
の家で催(もよお)された宴(うたげ)のときに詠まれた歌三首のうちのひとつ。
The snowing winter is only for today. The day of springing should be tomorrow.
立春である。昨年の台風で白山神社も杉の倒木の被害を被る。そこは彼女、たくましく
恒例の蕗の薹を採取。早速、和え物、天ぷら、パスタにアレンジし夕餉として調理。上
手いのである。ほろ苦さが絶妙。我が家で立春といえば蕗の薹(Butterbus shoots)が根
づく。
【エネルギー通貨制時代 49】
”Anytime, anywhere ¥1/kWh Era”
Mar. 3, 2017
1月31日、積水ハウスは、固定価格買取制度(FIT)の買取期間満了(卒FIT)を迎え
た同社製住宅の顧客を対象に太陽光発電の余剰電力を買い取る「積水ハウスオーナーでん
き」を発表した。3月から事前申し込み受け付けを開始し11月から事業を開始する。開
始当初の買取単価は11円/kWhに設定した。数年後の見直しも検討する。買い取った電
力は、積水ハウスグループの事業用電力として有効活用する。送配電には東京電力と大
阪ガスが協力する。
同社は2017年10月に「RE100」に加盟しており、2030年までに事業活動で消費する電力の
50%、2040年までに100%を再生可能エネルギーで賄うことを目指している。これまで同
社は、戸建住宅や賃貸住宅などに累計700MW以上の太陽光発電システムを設置し、年間発
電量は約700GWhに達する。そのうち約2~3割の卒FIT電力を買い取ることで年間約120GWh
の事業用電力を賄うことが可能で、RE100を達成できると試算している。
【ソーラータイル事業編:「高エネルギー光」に変換するフィルム】
1月8日、和歌山県工業技術センタは、空気中でも安定して低いエネルギーの光(長波
長光)を高いエネルギーの光(短波長光)に変換する「光アップコンバージョンフィルム
」を開発し、特許を取得したと発表。光アップコンバージョン現象を起こす色素はこれま
でも知られていたが、酸素や水蒸気などで劣化するため、結晶や溶液(半固体)など空気
に触れない状況下でしか同現象が起こらず実用化が困難だった。今回、ポリビニルアルコ
ールフィルムの中に色素を閉じ込め、独自の技術でフィルムを伸ばして色素の劣化を抑え
た。試作したフィルムは、緑色の光を青色の光に変換することに成功した。この技術は、
大面積化が可能であることに加え、大気中で容易に作製できる。その一方で、まだ基礎研
究の段階であり、変換効率が低いのが課題のひとつという。将来的には、フィルムを太陽
電池に貼付して発電効率の向上、窓に貼付して省エネ向上および増光効果、紙幣などの紙
に代替して偽造防止などへの応用が期待される。実用化に向けて、県内企業との共同研究
への模索や、発光機構の解明とノウハウの蓄積に取り組んでいく。
エネルギーの光」を「高いエネルギーの光」に変換する「光アップコンバージョン」フィ
ルムを開発し、特許6429158号を取得した。この技術成果は、英国化学会誌「Molecular
Systems Design & Engineering」(http://dx.doi.org/10.1039/C8ME00041G)に掲載されている。
JP6429158B1
● 読書日誌:カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』 No.28
第2部 第6章
眠りが訪れるのを待ちながら、アクセルはいま一度、五人が人と沈黙の修道僧が小さな
部屋にぎゆうぎゆう詰めになったところを思い出していた。ベッドわきで蝋燭が一本燃
えている。ベッドに横たわる人物を見てベアトリスが思わず後ずさりし、しかし一つ深
呼吸して、思い切って部屋に踏み入る。最初は五人も入れる空間はないかと思えたが、
やってみれば、ベッド周りのやりくりはどうにでもつく。戦Lと少年は一番遠くの隅へ。
アクセルの背中は石の壁に押しつけられて、ひんやりと冷たい。ベアトリスは.番前に
いる。病人の呉ん前に立ち、元気づけの.言葉でも言うように少し前のめりになって
いる。かすかに嘔吐と小便のにおいがする,沈黙の僧はベッドに寝る男の世話をしてい
て、いま、座に起き直らせている。
部屋の主は白髪の老人だった。人柄で、つい最近まで元気よく活動していたと思われる
が、いまはベッドに起き直る程度の動作でさえ、体中にいくつもの痛みを引き起こすよ
うだ。上体が起きhがると、まとわりついていた絹織りの毛布が滑り落ち、血の染みつ
いた寝間着が剥き出しになった。だが、さっきベアトリスを後ずさりさせたものは、そ
れではなく、ベッドわきの蝋燭でくっきり照らし出された老人の首と顔だ。顎の片側に
大きな腫れがある。周辺こそ茜色に薄れているが、全体として濃い紫色で、この腫れの
ために頭が常に斜めになっている。腫れの頂上は割れ、膿と古い血が固まってかさぶた
ができている。顔にも傷がある。頬骨のすぐ下から顎にかけて深い溝が走り、口内と歯
茎が一部見えている。表情を少し変えるだけでもたいへんな痛みがあるだろうに、起き
直って姿勢が安定すると、僧はにっこりほほえんみせた.
「ようこそ。私がジョナスです。遠いところをよく会いに来てくださいました,そんな
哀れみの目で見ないでください、みなさん。この傷は昨日今日できたものでなくて、以
前ほど痛みません」
「面会禁止を命じた院長様のお気持ちが、いまよくわかりました」ジョナス一とベアト
リスが言った。「許可されるまで待つつもりでいましたが、こちらの親切なお坊さんが
連れてきてくださいました」
「私が一番信頼する友、ニニアンです。沈黙の誓約をしていますが、私とは完全に理解
し合えます。あなた方が到着されてから、ニニアンがお一人お一人をずっと観察し、逐
一報告してくれていました。院長は何も知りまいちせんが、お会いする潮時かなと思い
ました」
「どうしてそんなお怪我を、ジョナス様」とベアトリスが尋ねた。
「やさしさと賢さで知られたお方が・・・・・・」
「それは置いておきましょう、ご婦人。私のいまの体力ではさほど長く話せません。あ
なたとそこにいる勇敢な少年、お二人が私の助旨を求めてお
られるのですね。では、まず少年から。傷があるそうですね。こちらへ。光の中に入っ
てください、君」
僧の柔らかい声には自然の威厳が備わっていて、エドウィンは言われるままに一歩踏み
出そうとした。だが、ウィスタンがさっと手を伸ばし、少年の腕をつかんだ,蝋燭の炎
のせいだったのか、それとも背後の壁に揺れる戦士の影のせいだったのか、一瞬、怪我
をした神父に向けられるウィスタンの視線に、奇妙な 憎しみともとれる強い感情がこ
もるのを、アクセルは見たように思った。戦士は少年を壁に引き戻し、託されたものを
守る庇護者のように自分が一歩前に出た。
「どうしました、羊飼い殿」とジョナス神父が尋ねた。「私の傷から毒が流れ出て、弟
さんを害するのが怖いのですか。では、手で触れることはいたしますまい。一歩近づけ
てください。この目だけで傷を見ましょう」
「この子の傷はきれいです」とウィスタンが言った。
「あなたの助けを求めているのは、このご婦人だけですI
「ウィスタン様、なぜそのようなことを」とベアトリスが言った。
「いまはきれいに見えても、たちまち熱を持つこともあるのはご存じでしょうに。ぜひ、
この子にも仲父様の診察を」
だが、ベアトリスの言葉が聞こえていないのか、ウィスタンは無言で僧を見つめつづけ
た。ジョナス神父も、まるで珍しいものでも見るように戦士をじっと見ていた。しばら
くして神父が言った。
「羊飼いにしては驚くほど肝のすわったお方だ」
「職業上の必要でしょうか。羊飼いは、夜の闇に集まってくる狼どもにいつも目を光ら
せていないといけませんのでI
「確かにそうでしょう。それに、きっと乍飼いにはすばやい判断が求められるでしょう。
暗闇に聞こえた物音が危険の前触れなのか、友人の接近なのか。それを早く的確に判断
できるかどうかに多くがかかっていると想像します」
「小枝の折れるt日を聞き、暗闇に影を見て、交代の友が来たと思い込むようなのは、
ばかな羊飼いだけです。羊飼いはもともとが用心深いんです。加えて、たったいま、納
屋であんな道具を見せられたら、ますます警戒したくもなります」
「ああ、いずれ見つけるだろうとは思っていました。で、見つけてどう思われましたか、
羊飼い殿」
「腹が立ちました」
「怒りですか」ジョナス神父は、自身も急に怒りが湧いたかのように、声を絞り出すよ
うに片った。「なにゆえの怒りですか」
「間違っていたら旨ってください。思うに、この修道院では、僧が順番に体を野の鳥に
差し出すのが習慣になっているんでしょう。それは、かつてこの国で犯され、罰せられ
ないままできた悪行への償いになることを願ってのことでしょうし、いまわたしが目の
前にしている醜い傷も、そうしてできたものではないのですか。しかし、それで生じる
苫しみなど、どうせ信仰で癒され、痛みは和らぐのでしょう。あなたの顔のひどい傷を
見ても、わたしは哀れみなど感じません,最悪の行為をベールで覆い隠しておいて、ど
うしてそれを償いなどと呼べるでしょうか。あなた方キリスト教徒の冲は、自傷行為や
祈りの一言二言で簡単に買収される神なのですか。放置されたままの不正義のことなど、
どうでもいい神なのですか」
「私たちの神は慈悲の神です、r飼い殿。異教の徒であるあなたには理解しがたいかも
しれません。その神に罪の許しを乞うのは───罪がいかに人きいとしても───愚か
な行為ではありません。私たちの神の慈悲は無限です」
「無限の慈悲を垂れる神など何の役に立つのです、神父。あなたはわたしを吸ハ教の徒
とあざけるが、わが祖先の神は法を明暗に示し、その法に背いた者を厳しく罰する神で
した。あなた方キリスト教徒の言う慈悲の神のもとでは、人は強欲に衝き動かされるま
ま、土地を欲しがり、血を欲しがる。わずかな祈りと苦行で許しと祝福が得られるとわ
かっていれば、そうならざるをえません」
「この修道院にも、いまだにそう信じている者が確かにいます、羊飼い殿。しかし、こ
れは申しhげておきましょう。ニニアンと私はとうの昔にその幻想を捨てていますし、
私たち.一人だけに限ったことではありません。神の慈悲を悪用してはなりません。し
かし、この修道院の兄弟たちには───院長も含め───それを認めようとしない者が
少なくありません。あの檻と不断の祈りで十分だといまだに信じています。しかし、最
近見るようになった真っ黒な烏は、神の怒りの表れでしょう。これまで見たことかあり
ません。ほんの昨冬でさえ、風の鋭さは私たちのうちで最強の者を泣かせるほどでした
が、鳥はただのいたずら小僧でした。その嘴はわずかな苦痛しかもたらさず、鎖をじや
らりと鳴らし、一声あげるだけで、すぐに遠ざかったものです。しかし、新鮭がやって
きました。大型で、大胆で、目に憤怒があります。この烏どもは激することなく、淡々
と私たちを切り裂きます。いかに抵抗しようと泣き叫ぼうとおかまいなしです。この数
カ月で、私たちは三人の友を失い、多くが深い傷を負いました。間違いなく神の怒りの
表れでしょう」
ウィスタンの態度はしだいに和らいできていたが、頑として少年の前からは動こうとし
なかった。
「つまり、わたしにもこの修道院に友がいるということですか」と言った。
「はい、羊飼い殿、この部屋に。ここ以外ではまだ二つに分かれていて、これからどう
すべきかをいまも熱心に議論しています。院長は、これまでどおりつづけることを主張
するでしょう。
私たちと見解を同じする者は、もうやめるべきだと言うでしょう。いまの道の先に許し
などない隠されていたことを公にして過去と向き合おう……そう言うでしょう。ですが、
残念ことにそういう声は少なく、世の大勢とはなりません。羊飼い殿、私を信じて、そ
の少年の傷を見させてくれませんか」
一瞬、ウィスタンはじっと立っていたが、やがてわきに寄り、エドウィンに前へと合図
した。沈黙の憎がすぐにジョナス神父を支え、もっとまっすぐにすわり直させた。僧二
人の興奮がなぜか急に高まったように見える。ニニアンがベッドわきの燭台を取り上げ、
エドウィンをさらに近くに引き寄せて、待ちきれないように少年のシャツを引き上げた。
そこをジョナス神父がのぞき込んだ。光をあちこちに移動させながら、二人の憎はずい
ぶん長い間少年の傷を見ていた。少年と憎の三人だけが、別空間にある小世界にいるか
に思えた。最後に二人の憎が顔を見合わせたとき、アクセルはそこに勝利の表情が浮か
ぶのを見た。だが、つぎの瞬間、ジョナス神父が震えながら後ろの枕の上に倒れ込んだ。
その表情は、諦めにいは悲しみにある近いものに変わっていた。ニニアンは慌てて燭台
を置いてジョナス神父のそばに寄り、エドウィンは影の中に戻ってウィスタンの横に立
った。
「ジョナス様」とベアトリスが呼びかけた。「この子の傷はいかがですか。きれいです
か。自然に治るものでしょうか」
ジョナス神父は目を閉じたまま、依然、荒い呼吸をつづけていた。だが、落ち着いた声
で「手当てをつづければ治るものと信じます」と言った。
「この場所から発つまでに、ニニアン神父に塗り薬を用意させましょう」
「ジョナス様」とベアトリスがつづけた。「ウィスタン様とのいまの会話を、すべて理
解できたわけではありませんが、でも、とても興味深く拝聴しました」
「そうですか、ご婦人」ジョナス神父はまだ荒い息のまま、目を開けてベアトリスを見
た。
「昨夜、下の村でのことです」とベアトリスが言った。「薬のことをよく知る女人と話
をしました。その人はわたしの病気についていろいろと教えてくれましたが、話が霧の
ことになると───ほんの一時間前のことを、何年も前の朝の出来事同様にすっかり忘
れさせてしまう霧のことになると───なぜなのかも、誰の仕業なのかもわからない、
と言っていました。わかる人がいるとすれば、それは修道院の賢者、ジョナス神父様だ
ろうとも言っていました。わたしと夫はそれを聞いて、まだかまだかと待っていてくれ
る息子の村へは多少遠回りになることを覚悟で、この山道を参りました。どうぞ霧のこ
とをお教えください。いったい霧とは何で、どうすれば逃れられるのです。わたしは愚
かな女かもしれませんが、お二人の話をうかがっていて、羊飼いの話は霧の話でもある
ような気がしました。わたしたちの過去がどれほど失われたのかがとても気になります。
ジョナス様、ウィスタン様、お尋ねします。お二人はこの霧がわたしたちを襲うように
なった原因をご存じなのですか」
ジョナス神父とウィスタンは顔を見白わせた。ウィスタンが静かに言った。
「竜のクエリグです、奥様。このあたりの峰をうろつくクエリグが、奥様の言う霧の原
因です。ですが、竜はここの修道僧らに守られています。もう何年も前から、いまに至
るまでそうです。ここの修道僧がわたしの正体に気づけば、きっと兵隊を呼んでわたし
を殺させるでしょう]
「ほんとうなのですか、ジョナス様」とベアトリスが尋ねた。
「霧が雌竜の仕業だというのは?」
神父は、一瞬、遠くの世界にいるように見えたが、ベアトリスに顔を向け、「羊飼い殿
の言うことは真実です、ご婦人」と言った。「クエリグの息がこの地を満たし、私たち
の記憶を奪います」
この項つづく