彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救ったと
伝えられる"招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備え。(戦国時
代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした部隊編のこと)の兜
(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。
【再エネ革命渦論 159: アフターコロナ時代 160】
● 技術的特異点でエンドレス・サーフィング
特異点真っ直中 ㊶
給電能力を有した高速光通信の実証に成功
8月29日、日本電信電話(NTT)と北見工業大学は,1本の通信用光ファイバ
を用いて、高速かつ良好な通信品質を維持したまま10km以上先の無電源地
点へ1W以上の電力を供給することに世界で初めて成功
【概要】
光通信技術と無線アクセス技術の進展・普及により、日常生活ではどこで
も高速のデータ通信が利用できるようになった一方で、電源供給が困難な
地帯では、無線アクセスの基地局を確保することが難しく、光通信の送信
器や受信器を駆動することが困難だった。また近年、大規模地震や台風な
どにより、広域かつ長時間にわたる停電が発生し、復旧までに時間を要す
る深刻な事態が頻発している。災害発生時には、被災地域との連絡手段を
いち早く確保することが重要となる。このため、通信用と給電用の2種類
の光信号を1本の光ファイバで伝搬し、無電源の遠隔地との光通信を実現
する技術が検討されている。
しかし、従来の技術では光ファイバの入力光強度限界※1により10km以上
離れた場所に、光通信装置の駆動に必要な電力供給は不可能。IOWN(Inno-
vative Optical and Wireless Network)構想IOWの大容量光伝送基盤を実現する
要素技術の1つであるマルチコア光ファイバ(以下「MCF」)の研究開発
を進めており、今回、MCFを使った光給電伝送について検討した。
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは
【成果】
本研究では現在一般的に使用されている通信用光ファイバと同じ直径の細
さで4個の光の通り道(コア)を有するMCFを用い、世界最高の自己給電
伝送能力を実現。
①マルチコア光ファイバ(MCF)➲下図1.にMCFを用いた光給電伝送
システムの概要を示す。今回使用したMCFは、既存の光ファイバと同じ細
さで、かつ各コアが既存光ファイバと同等の伝送特性を有するため、通常
の光通信(光給電を必要としない光通信)にも既存の伝送装置と組み合わ
せて使用することができる。また、各コアが独立して(コア間で光信号の
混信を生ずることなく)使用できるため、任意のコアを給電用にも通信用
にも、あるいはその双方に割り当てることができる。
本検討では光給電量を最大とするため、4コアに波長1550nmの給電用の光
源を入力した。更に、4コアのうちの2コアを用い、各コアに波長1310nm
の上りおよび下り信号を割りあてることで双方向の光通信を実現。また、
2コアの組合せを2セット設定することもでき、これにより2つの独立し
た通信システムを構成することが可能。
図1 マルチコア光ファイバを用いた光給電システムの概要
②世界最高の自己給電伝送能力
光給電能力は伝送距離と供給電力の積で表すことができる。本検討では、
MCFの適用で単位断面積当りの供給電力を最大化し、光給電効率の劣化要
因となるシステム内の戻り光を抑制することで、MCFを14km伝送後に約1W
の電力を得た。光給電能力は14W・kmで、これは世界トップの性能指数(
図2左参照)。さらに、本検討では自己給電による伝送速度10Gbit/秒の
双方向光通信も実証しました。10Gbit/秒の伝送速度は、現在、一般ユーザ
用にサービス提供している光通信の最高速の伝送速度。本検討では、2コ
アで上り下りの1システムの構成について検討を行い、14km伝送後で良好
な伝送特性を確認した。伝送速度と伝送距離の積を、自己光給電伝送にお
ける伝送性能の指標と考えると、本検討では140Gbit/秒・kmの世界最高の
伝送性能を実現した(図2右参照)。 光給電能力は伝送距離と供給電力
の積で表せる。
図2.光ファイバを用いた自己給電光伝送の実験例における、供給電力と
伝送距離の関係(左)および伝送容量と伝送距離の関係(右)
本検討ではMCFの適用で単位断面積当りの供給電力を最大化し、光給電効
率の劣化要因となるシステム内の戻り光を抑制することで、MCFを14km伝
送後に約1Wの電力を得ることができました。光給電能力は14W・kmで、こ
れは世界トップの性能指数である(図2左参照)。さらに、本検討では自
己給電による伝送速度10Gbit/秒の双方向光通信も実証しました。10Gbit/秒
の伝送速度は、現在、一般ユーザ用にサービス提供している光通信の最高
速の伝送速度。本検討では、2コアで上り下りの1システムの構成につい
て検討を行い、14km伝送後で良好な伝送特性を確認しました。伝送速度と
伝送距離の積を、自己光給電伝送における伝送性能の指標と考えると、本
検討では140Gbit/秒・kmの世界最高の伝送性能を実現することができ(図
2右参照)。
【展望】
現在の光ファイバと同等の特性を有するマルチコア光ファイバを用いるこ
とで、通常の長距離高速光通信にも、光給電型の双方向光通信にも対応で
きることを示したものです。これにより、災害時・緊急時には、電源回復
が困難なエリアに通信ビルから給電光を送出することで通信装置を遠隔駆
動しネットワークのレジリエンスが向上できます。また、将来的には平時
においても河川・山間部などの非電化エリアや、強電磁界や腐食などによ
る電化困難エリアなど、あらゆる場所で光通信を提供可能とすることがで
き、多様なIoT機器と連携したセンシングネットワークの実現にも貢献で
きる。
【補足】光ファイバの入力光強度限界➲光ファイバの出力光強度は入力
側の光強度に比例して増減するが、入力光がある光強度(閾値)を超える
と入力光が違う成分(波長)の光に変換される現象が生じ、出力側の光強
度が増加せず飽和する。この閾値が光ファイバの入力光強度限界となり、
入力光強度限界は、光ファイバの伝送距離が長くなるほど、また光ファイ
バ中の光信号を伝搬する領域(コア)が小さくなるほど低下。このため、
高速光伝送に適した小さなコアを有する通信用光ファイバでは、より遠方
により高強度の光信号を送ることが困難であった。
強光から光合成装置を守る仕組み
活性調節因子チオレドキシンの新たな役割の発見
9月1日、 京都産業大学と岡山大学は,植物の葉緑体において光合成の調
節因子として働くチオレドキシンタンパク質が,変動する光環境下で強す
ぎる光から光合成タンパク質を保護する働きがあることを明らかにした。
【概要】
植物は光エネルギーを用いて二酸化炭素から糖などの有機物を固定する光
合成反応を行なう。光合成反応のうち,光合成電子伝達反応では光を必須
だが,過剰な光は望ましくない。 光合成電子伝達反応において利用され
ない余剰の強光は活性酸素種などを生成し,光合成タンパク質の損傷を引
き起こし,光合成活性の低下につながる(光損傷)。このため,植物は強
光から身を守るためのさまざまなメカニズムを備えている。これまで,研
究グループは,チオレドキシンと呼ばれる光合成関連タンパク質調節因子
に関する研究を行なってきた。モデル植物シロイヌナズナの葉緑体には5
種類のチオレドキシン(f型,m型,x型,y型,z型)が存在し,光合成関
連酵素の活性化など光合成反応の調節に関与している。f型やm型のチオレ
ドキシンについてはその役割がよく理解されているが,x型およびy型のチ
オレドキシンの役割は明確ではなかった。 そのため,研究グループは,
x型およびy型のチオレドキシンタンパク質を欠失させたシロイヌナズナ突
然変異体を作成し,光合成機能や植物の観察を通じて解析を行なった。
【成果】
通常の一定な光量の光条件では,x型・y型チオレドキシン変異体と野生株
には明確な違いは見られなかった。しかしながら,光環境が変動する条件
下での研究では,x型・y型チオレドキシン変異体は光合成電子伝達反応が
阻害され,光化学系Iタンパク質が光損傷を受けることがわかった。これ
により,変動光照射後,x型・y型チオレドキシン変異体では光化学系Ⅰの
活性が野生株と比べて顕著に減少していた。 また,x型・y型チオレドキ
シン変異体では成長が阻害され,葉の色が薄くなるなどの変化も見られた。
さらに,x型・y型チオレドキシン変異体では植物の生重量が64%減少し、
光合成に不可欠なクロロフィル含量も29%減少していた。
この研究では,変動する光条件下において,x型およびy型チオレドキシン
が光合成タンパク質を光による損傷から保護する役割を果たしていること
を明らかにした。また、この2種類のチオレドキシンが光環境の大きな変
化において、植物の成長に重要な役割を担っていることも示された。
【展望】
研究グループは、今回の研究で明らかにされたメカニズムをさらに詳細に
理解することで,激しく変化する光環境に対する耐性をもつ作物の改良に
役立つことが期待されるとしている。
【技術情報】
原 題:x- and y-type thioredoxins maintain redox homeostasis on photosystem
I acceptor side under fluctuating light
掲載誌:Plant Physiology 2023.8.22
DOI : https://doi.org/10.1093/plphys/kiad466
レーザーが痛みを抑制することを実証
9月1日、富山大学らのの研究グループは、レーザーが痛みを抑制すること
を実証 低出力レーザー治療で痛みを伝達する神経活動を抑制することを
動物実験で実証。
【要点】
1.皮膚の上からレーザーを照射することで痛みを伝える神経細胞の活動
を抑制することを、電気生理学的手法※1を用いた動物実験で検証した。
2.レーザーは皮膚で約90%減衰し約10%が坐骨神経に届くこと、約10%
のレーザーでも痛みを伝える神経活動を抑制することを明らかにした。
3.経皮的レーザー照射の作用メカニズムや現象の詳細が解明されること
で、低出力レーザーのさらなる普及や適応疾患の拡大に期待。
【概要】
皮膚の上から坐骨神経にレーザーを照射(経皮的にレーザーを照射)する
と、痛みとして感じられる強い刺激(痛み刺激)による神経活動のみが抑
えられることを動物実験で実証。また、坐骨神経におけるレーザーの強さ
は皮膚上の約10%に減少していたにもかかわらず、坐骨神経に直接レーザ
ーを照射した場合と効果は同等であることを見出した。低出力レーザー治
療※2は、痛みの緩和、抗炎症効果、組織再生、傷の治癒など、さまざまな
効果が報告されている治療法。しかし、低出力レーザー治療がどのように
痛みを緩和するのか、ターゲットとする組織にどの程度のレーザーが到達
すれば効果があるのか、統一的な見解は存在そのメカニズムは不詳。
【成果】
成熟ラットの脊髄後角に記録電極を刺入し、皮膚に機械刺激※5を加える
ことで脊髄後角の神経細胞の発火を記録した。機械刺激を加えるために、
決まった圧力を加えることのできるvon Freyフィラメントを使用し、痛み
刺激にあたる太いフィラメント、痛みと感じない弱い刺激(触刺激)にあ
たる細いフィラメントを使用しました。波長808 nmの半導体レーザーを使
用し、臨床の使用方法と同様に、経皮的にレーザーを照射した。次に、成
熟ラットの坐骨神経にフォトダイオードセンサを埋め込み、経皮的にレー
ザーを照射することで、レーザーが坐骨神経に到達するのか検証。 坐骨神
経への経皮的レーザー照射は、触刺激による神経活動には影響せず、痛み
刺激による神経活動を選択的に抑えることが明らかにした。これは、
低出力レーザー治療が、触覚に影響を与えずに疼痛を治療できる可能性を
示す。さらに、フォトダイオードセンサによる計測で、レーザーは皮膚で
約90%が減少し、残り約10%が坐骨神経に到達したことが示された。興味
深いことに、過去に報告した坐骨神経に直接レーザーを照射した時と、本
研究の経皮的レーザー照射とで効果を比較したところ、神経活動の変化率
は同等。坐骨神経におけるレーザーの強さが皮膚上の約10%に減少したに
も関わらず効果は同等であった。
【展望】
低出力レーザー治療が神経活動を抑制する現象の理解が深まることで、治
療の適用範囲が広がり、より多くの人々に利用されることが期待されます。
そのために、現在は疼痛モデル動物を使用した基礎検討を行っており、低
出力レーザー治療がどのように痛みを取り除くのか、治療の仕組みを解明
していく。
【関係技術情報】
・論文名:Relationship between Laser Intensity at the Peripheral Nerve and Inhib--
itory Effect of Percutaneous Photobiomodulation on Neuronal Firing in a Rat
Spinal Dorsal Horn
・掲載誌:Journal of Clinical Medicine
・DOI : https://doi.org/10.3390/jcm12155126
フェムト秒レーザー照射後の金属内部挙動観測
大阪大学の研究グループは,世界で初めてフェムト秒レーザー照射直後の
金属材料内部の応力,ひずみ,塑性変形の複雑な挙動を示すことに成功。
フェムト秒レーザーは一般的には固体材料の微細加工や眼科治療,外科手
術などに用いられるが,この数年の間に新しい加工法としてフェムト秒レ
ーザー衝撃加工が開発されている。金属材料にフェムト秒レーザーを照射
したときに工藤する衝撃波をフェムト秒レーザー衝撃波と呼び、このフェ
ムト秒レーザー衝撃波を利用した加工法がフェムト秒レーザー衝撃加工。
図1.フェムト秒レーザー衝撃波によって金属材料が超高速で変化する様
子を捉える実験体系
金属材料にフェムト秒レーザーを照射したときに駆動する衝撃波をフェム
ト秒レーザー衝撃波と呼び、このフェムト秒レーザー衝撃波を利用した加
工法がフェムト秒レーザー衝撃加工。フェムト秒レーザー衝撃加工によっ
て、物質中に特異な微細構造が作り出され、また。金属材料は鍛えられ強く
なり壊れにくくなる。そのため,フェムト秒レーザー衝撃波の特性は,他
の衝撃波の特性とは異なる可能性があると思われてきた。しかしながら,
フェムト秒レーザー衝撃波による金属材料の変形は超高速であるため,そ
の変形挙動を正確に捉えることはこれまで困難だった。
【要点】
1.フェムト秒レーザー照射直後の金属材料内部の衝撃波伝播に伴う応力、
ひず み、塑性変形の複雑な挙動を示すことに世界で初めて成功した。
2.フェムト秒レーザー照射直後の金属材料の変形は超高速であるため、
その原 子スケールの変形挙動を正確に捉えることは困難であった。
3.長寿命材料の創成と構造物の延命を可能とするフェムト秒レーザー衝
撃加工法のさらなる発展が期待でき、カーボンニュートラルおよび安全
・安心社会の実現に貢献する。
【概要】
過去100年以上にわたり、凝縮物質の衝撃圧縮の本質を理解することが大き
なテーマとして研究されてきました。20年ほど前に、フェムト秒レーザー
照射によって凝縮物質が衝撃圧縮されることが分かった。金属材料にある
程度高強度のフェムト秒レーザーを照射すると、照射された部分の金属材
料が瞬時に気化・プラズマ化し除去されるため、固体材料の微細加工や眼
科治療、外科手術などに用いられるが、この数年の間に新しい加工法とし
てフェムト秒レーザー衝撃加工が開発されている。金属材料にフェムト秒
レーザーを照射したときに駆動する衝撃波をフェムト秒レーザー衝撃波と
呼び、このフェムト秒レーザー衝撃波を利用した加工法がフェムト秒レー
ザー衝撃加工である。フェムト秒レーザー衝撃加工により、物質中に特異
な微細構造が作り出され、また、金属材料は鍛えられ強くなり壊れにくく
なる。そのため、フェムト秒レーザー衝撃波の特性は、他の衝撃波の特性
とは異なる可能性があると思われてきたが、フェムト秒レーザー衝撃波に
よる金属材料の変形は超高速であるため、その変形挙動を正確に捉えるこ
とはこれまで困難であった。
【成果】
X線自由電子レーザー施設 SACLAのX線自由電子レーザーを用いて、フェム
ト秒レーザーを照射し衝撃圧縮されて超高速で変形している途中の金属材
料の原子の動きを調べた(図1)。金属材料としては、鉄を用い、フェムト
秒レーザー照射後にX線自由電子レーザーを照射するタイミングを何通り
も変えて、それぞれのタイミングにおけるX線回折パターンを取得した。
こうすることによって、超高速の原子の動きを捉えることに成功する。そ
の結果、フェムト秒レーザー衝撃波による変形の初期過程は、意外にも、
従来の衝撃波によるものと同じであることが分かる。また、理論的に予測
されていた応力波と歪み波のピークの時間的なずれを、初めて実験的に発
見しました。さらに、応力波と歪み波のピークの間に塑性波のピークが存
在するという、理論的にも予測していなかった新しい発見をする。
【展望】
長寿命材料の創成と構造物の延命を可能とするフェムト秒レーザー衝撃加
工法のさらなる高度化と、それによるカーボンニュートラルおよび安全・
安心社会の実現が期待されます。さらに、二律背反の関係にある強度と靭
性を両立させる新規材料の設計に新たな道を切り拓くと期待する。
【関係技術情報】
原 題:“X-ray free electron laser observation of ultrafast lattice behaviour under
femtosecond laser-driven shock compression in iron”
掲載誌:Scientific Reports
D O I : 10.1038/s41598-023-40283-6
風蕭々と碧いの時
John Lennon Imagine