彦根藩二代当主である井伊直孝公をお寺の門前で手招き雷雨から救
ったと伝えられる"招き猫"と、井伊軍団のシンボルとも言える赤備
え。(戦国時代の軍団編成の一種で、あらゆる武具を朱塗りにした
部隊編のこと)の兜(かぶと)を合体させて生まれたキャラクタ。
大南風や 天の叫びに 覚醒す
宇
『源氏物語』の作者および作品を深層で統御しているものは何か?
『源氏物語』を論ずるのは、ひとつの特定の物語、特定の作品を論
ずることではなく、作品そのもので物語、文学という概念を論ずる
ことである。―作品をつらぬく無意識としての“自然”、霊威=物
の怪に対する人々のありよう、また歴史物語『大鏡』や『栄花物語
』とのトポロジカルな同型性に着目し、作品の構造と深層を浮き彫
りにする。著者の方法意識がもっとも鮮明に発揮された、これぞ吉
本『源氏』論と評される古典論の代表作。
吉本 隆明【著】1982年 大和書房
目次
第1部 母型論
第2部 異和論
第3部 厭離論
第4部 環界論
附録 わが『源氏』
------------------------------------------------------------
桐壷更衣が死んだあとも、面影が忘れられず悲嘆がつのるばかりの
帝は、更衣の母のところに「靭負の命婦」を見舞に訪ぱせる。そし
てとりのこされた更衣の母に、命婦がいうところがある。
お上もおなじような思いであられるのでしょう。「じぶんの心
から出たとはいえ、はげしく人目を驚かすほどに、更衣を寵愛
してしまったのも、良くはつづかないような契りが、前の世の
定めなのだと予感していたからだとおもえて、可哀そうな気が
する。じぶんはすこしも世間の人の心を歪めたりしたことはな
いとおもってきたが、ただこの更衣への寵愛のためにだけ、た
くさんの人から負わなくてもいい恨みを負ってしまい、そのは
ての果てに、こうして独りとりのこされて、気持をしづめる手
だてもない思いなのに、ますますまわりの人目が悪く、かたく
なに冷たくなってゆくにつけても、更衣との前世からの結びつ
きが懐しくてならない。」と繰返しおっしゃりながら、しょげ
がちにして ばかりおられます。 (「桐壹」)
身分今後立てのない銅壷更衣を、はげしくひたすらに寵愛し、見さ
かいもなくのめり込んでいったため、宮廷の顕官を背景にもった高
ぶった女御たちの反感や恨みや嫉妬を浴び、それが病弱の更衣をま
すまます衰弱に追いやった。はては哀れな更衣を死なせてしまった。
そういうのを実際の認識の順序とすれば、ここで命婦が語る桐壷帝
の認識は遂になっている。
「前の世」にすでに長くはつづかない契りだと定められていたから
こそ、じぶんは周囲の思惑などを顕りみる余裕もなく、かくもひた
すら更衣を寵愛するはめになったのだ。これが桐壷帝をとらえてい
る認識である。前世の約定がはじめにあり、その約定が無意識の世
界に溶遠して、じぶんの挙動をうながした。そのためにじぶんはあ
んな異常なほどはげしい行為をとった。そう思い入れている。これ
はじぶんの振舞いを反省し、弁解するため語られているのではない。
登場人物の挙動を統御する名づけられない認識の装置として語られ
ていることがわかる。人びとの挙動を支配し、遠隔操作みたいに眼
に視えない形で制御し、知らずしらずその通りにさせてしまう無声
の声がある。それは「前の世」から聞えてきて、無意識をおとづれ
るふうに今ってくる。すると運命は自然とにた潜在力で人びとを動
かしているとおもわれてくる。この世界のかこう岸に「前の世」と
いう母型があり、人びとはこの母型からやってくる声に幼児みたい
に暗示されて振舞うのだ。
はじめの「桐壷」の巻は、語りの構成としてみれば、家柄今後立
てがない無力で病弱な桐壷更衣から生れた第二皇子を、外戚の威力
もない無品の親王にしておきたくない帝が、源氏の姓を与えて臣籍
にうつす。いねば主人公光源氏の生誕にまつわる挿話ということに
なる。だが作品の本質からいえば『源氏物語』全体の認識の型をは
じめに暗示するものとなっている。
銅壷帝は、女御たちの嫉妬や冷眼の渦が、ますますじぶんを疎ま
しくさせる世界にいて、寵愛すればするほど、桐壷更衣を苦境に追
いこんでゆく。それをよく知りながら、異常なほどこの更衣に心を
傾け、片時も傍から離したがらない。桐壷更衣がやさしい思いやり
をもった美貌の魅力ある女性だとは、もちろん書かれている。だが
桐壷更衣を死に追いこんでもなお、寵愛せずにおられない帝の内的
な必然は、まったく描かれていない。まるで物の怪に憑かれて「前
の世」の定めに吸引されていった。そう解するよりしようがないよ
うに描かれているだけだ。いねば桐壷帝の寵愛の仕方は非個性的で
唐突であり、その分だけ無意識の約束という理念が代償している。
✔ これは面白い。しかし時間だ。またにしよう。
渡辺 悦司/遠藤 順子/山田 耕作【著】
汚染水海洋放出の争点―トリチウムの危険性
緑風出版(2021/12発売)
福島原発汚染処理水とは ⑦
この問題では、「内部被爆」と「不評被害」を中心に考えられてき
たように思えるが、
①福島原発事故後の自然災害及び人的災害などの被災時の対応はど
のように想定され、その危機管理工程図は存在するのか?
②ALPS処理水輩出前後の福島周辺生態系での放射性物質の時系列生
物濃縮実追跡態調査※1工程図は存在するのか?
いま、これに関する情報収集を今日から開始しようと考えている。
以下次の技術報告書を参照する。
原 題:海洋におけるトリチウムの動態と海生生物への蓄積:
Behavior of Tritium in the Ocean and Marine Organisms
著 者:宮本霧子 公益財団法人海洋生物環境研究所
掲載誌:海生研研報,第27号,71-80,2022
【要約】海洋環境保全や気候変動適応を目的として,国際的な海洋
調査プロジェクトで測定された海水や海生生物中の放射性核種濃度
が地域から全球まで様々なレベルでデータベース化されている。宇
宙線粒子と大気中原子との核反応と,核実験や原子力平和利用で生
成したトリチウムも同様で,最初は1970年代のGEOSECSで海洋循環
を解明するトレーサーとして利用された。欧州の海域では,核廃棄
物 の海洋投棄や原子力施設排水の影響が調査されているが、トリチ
ウムで標識された有機化合物が廃棄された地域の海生生物には蓄積
現象が観測された。原子力発電所のある日本沿岸海水も,1970年代
より地域の降水やその海域に流出する陸水とともに測定値がデータ
ベース化されているので,様々な視点から今後の有効利用が望まれる 。
【鍵語】トリチウム,海水,海洋調査,海生生物,蓄積,データベ
ース,IAEA,MARIS
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まえがき
(前略)水素の同位体である放射性のトリチウムを含む ALPS処理水が
福島から海洋へ放出される計画が 公表され世間を騒がせている(経
済産業省, 2021)。トリチウムは太古より地球上に常に一定量存在
した放射性核種だが,核実験により地球上の濃度レベルが一時期100
倍に増加したこともあった。1970年代には海洋循環を解明するトレ
ーサー物質として有効利用する目的で国際的な海洋調査も行われた
が,現在では原子力平和利用から海洋環境を保全する目的で測定が
様々に行われてきている。本稿では一部だがそれらのデータを見る
ことによって,海水中のトリチウム動態について過去から現在まで
の変遷を概観する。また,環境汚染物質について懸念されるのは海
生生物への蓄積現象であろう。トリチウムについて蓄積ありやなし
やと行われた国際的な議論を解説して,読者の判断材料に供したい。
海洋循環の解明と海洋生態系保全のために
GEOSECS(Geochemical Ocean Sections Study (当初はSurvey)は国際的
な海洋調査プロジェクトとして不滅の金字塔である。1972年~1978
年に行われ,大西洋,太平洋,インド洋において,温度や密度など
の物理的測定と共に,化学物質や放射性核種の濃度測定も行われた。
海洋の循環について知見を求めるプロジェクトであったが,1945年
以来行われた大気圏内核実験で地球上に放出された人工の放射性核
種(フォールアウト核種)も測定された。特にトリチウムや炭素14
の核種は,それぞれ水素元素と炭素元素の同位体であるため,海洋
の循環についての知見を得るトレーサー物質(目的とする物質の移
動現象を追跡するために目印として使える物質)として利用できるこ
とが期待された。海洋汚染を監視するために測定対象となるのは海
水中の溶存・浮遊物質であるが,その運び屋である水分子の循環現
象がまず興味の対象となる。トリチウムも水として挙動するので,
トレーサーとして当初より期待が大きかった。同じく水素の非放射
性同位体である重水素はトリチウムに比べて多量にあるため,海水
中の濃度が世界の海で均一と見做され,地球規模の海洋循環のトレ
ーサーとして使用できない。トリチウムは全水素原子数の10-16%し
か存在しないが,放出するβ放射線の精密測定が可能になりトレー
サーとして期待されたのである。現在でも,大小の様々な海洋調査
が行われているが,特に欧州近くの北東大西洋,北海,バルト海な
ど,人口が多く原子力施設があり,工業生産や物流活動が盛んで汚
染物質の負荷が大きくかかる海域では危機感も強く,継続的に調査
活動が行われている。その結果として得られた測定値をデータベー
ス化し,オンライン公開して世界中に自由にデータ利用を促すもの
もある。IAEA(International Atomic Energy Association,国際原子力機
関)に所属するモナコの環境研究所(IAEA Environment Laboratories
)は,MARISデータベース(Marine Radioactivity Information System,
海洋放射能情報システム)を運営して,世界各国からのデータ提供
も呼び掛けている(IAEA MARIS, 2021)。MARISに登録されている
海水中の トリチウム濃度としては,まずバルト海(第1図)の環境
保護を目的とする1980年発効のヘルシンキ条約に基べくヘルシンキ
委員会(HELCOM, Baltic Marine Environment Protection Commission
)の観測データと,北東大西洋を中心に1998年発効のオスパール条
約(OSPAR,Convention for the Protection of the Marine Environment
of the NorthEast Atlantic)に基づくオスパール委員会が提供する観測
データ,そしてフランスがラ・アーグにある核燃料再処理施設を視
野に置き1982年から収 集したBailly du Boisらの観測デタなど,大量
にある。本稿に関連する海域名や地名を図示した。ちなみに海洋生
物環境研究所の観測した福島沖や青森沖の海水中トリチウム濃度デ
ータも2014年以来MARISに掲載されている。
1990年から始まった大規模な国際協同研究計画 WOCE(World Ocean
Circulation Experiment, 世界海洋循環実験計画)においては,eWO
CEの名称でデータベースがオンラインで公開されている が,トリ
チウムも重要な位置を占めている。ただし,現在の海水中トリチウ
ム濃度は小さく,鉛直分布を精密測定することが困難なので,海洋
循環の研究にはトリチウムの娘核種である質量数3のヘリウム同位体
の存在量が利用されている。大気から海表面に降下したトリチウム
が放射壊変してできる 3Heは,海表面からは気圏に逃げるので表面
海水中には少ない。しかし,フォールアウト起源のトリチウムが大
量にあった時期に海表面に降下して海洋循環によって深部へ降下し
た後のトリチウムは,3He になってもそのまま深部に残存し 移動す
るので,今現在の3Heの分布を測定すれば 海洋循環のトレーサーとし
て利用できる。真空管理装置と質量分析技術の進歩により,宇宙科
学や 地球科学の分野においても大気圏・地殻圏に存在するヘリウム
同位体比を利用した様々な研究が行われているが,深層海水中の
3Heの原子数を測定することによって,かつてあっ
たトリチウム存在量を推定し,海洋循環について総論もまとめられ
ている(Jenkins et al., 2019)。
また 2005 年より 30か国以上が協力して GEOTRACES(An Internat-
ional Study of the Marine Biogeochemical Cycles of Trace Elements and
Their Isotopes,海洋の微量元素・同位体による生物地 球化学研究)
という国際プロジェクトも進行中である。海洋循環の解明が,地球
にとって喫緊の課題である気候変動問題の課題の洗い出しと解決策
の提言にとって重要であることを視野に入れて行われている。
日本も力を入れているので,海洋のトリチウム濃度の測定値が提供
され,解析されていくことが期待される。自然界でのトリチウム生
成トリチウムは,核実験が終息した現在では原子力平和利用によっ
て環境へ放出されることが改めて世間を騒がせているが,そもそも
は天然に存在する放射性核種である。宇宙線が成層圏大気中の窒素
や酸素原子と衝突して核反応を起こし,恒久的・永続的に生成され
ている。計算によると,1年間に1017 Bq(ベクレル近くのトリチウ
ムが大 気中で粛々と生成されている。地球科学,海洋科学の分野に
おける物質中のトリチウム存在量・濃度の単位にはTU(Tritium Unit)
が使用されることが多い。1TUとは,プロトン(1 H2軽水素,質量数1
の水素原子)の原子数存在量を1とした場合 トリチウム(3H,tritium,
三重水素,質量数3の水素原子)の存在する原子数存在量が10-18レ
ベルであることを意味する。非常に少ない物質が水の場合の1TUは
0.118 Bq/L に等しい。ちなみにもう1つの水素 同位体であるデュ
ウテリウム(2 H,deuterium,重水素,質量数2の水素原子)の原子
数存在量は,1.5×10-4レベルであり,レベルで比較してみれば ト
リチウムの1014倍多い。なお1970年代の論文。などでは,トリチウ
ム濃度の単位として現在は既に 使われなくなっているTR(Tritium
Ratio,トリチウム比)が散見される。1TRは水の場合に1TUに 等し
く,0.118Bq/Lに相当する。宇宙線によって生成するトリチウムは,
核実験が開始されるより前,水を電気分解する過程で既にその存在
は発見されていた。電極を浸して水を電気分解すると,イオン化し
た水素と酸素が両電極に分かれて移動し,電極表面上で水素と酸素
の各気体分子に変化する電気化学的な反応が起こる。化学反応速度
は同位体効果を受けるため,質量数が大きい同位体の方が化学反応
が起こりにくく,質量数の大きい重水素と,更に大きいトリチウム
の方が,液体の水相の方に多く残っていき,水の同位体濃縮が起こ
る。欧州では1930年代より加速器や質量分析計を利用していこの現
象が解析され,質量数3の三重水素の存在が証明されたのである。
1945年アメリカニューメキシコ州で行われた最初の核実験以来,同
年に広島・長崎に実戦使用された原子爆弾を含め,1963年に部分的
核実験禁止条約(PTBT)が発効するまでに,2000回以上の核実験が
行われ,総計1020 Bq(ベクレル)のトリチウムが生成された。以来,
半減期12.3年の放射壊変により全体としては減少しつつ,宇宙線で
生成され大気圏から注入され続ける自然のトリチウ ムと混じりな
がら,水素同位体として区別なく地 球上を循環してきた。ちなみに
1996年に締結された包括的核実験禁止条約(CTBT)は未加盟の核保
有国があり,核実験実施の可能性はまだ残っている。
降水として地球に供給されるトリチウム
海水ばかりでなく,陸水・淡水,即ち降水・地下水・河川水・湖沼
水の地球規模での水文学的循環解明についてもトリチウムがトレー
サー利用できることは当然期待されてきた。大気圏で宇宙線の起こ
した核反応によって生成したトリチウムは酸素と結合して水分子と
なった後,対流圏に降下し,大気中の水蒸気→降水→地下水→河川
水→海水→大気水蒸気のように循環する。半減期が12.3年のトリチ
ウム濃度を測定すれば,地下水が地表面に流出するまでの地下滞留
時間の推定(年代測定)や,陸水が海洋に流出するまでの陸圏での
滞留時間の推定などに利用できる。皮肉なことだが核実験により存
在量が増加したために以前より測 定が容易になり,また核実験は主に
大気圏で行わ れたので,大気圏から注入される水循環のトレー サ
ーとして極めて都合がよかった。
そのニーズを受け,IAEAは1960年よりWMO(世 界気象機関)との連
携で,世界500箇所以上から 月間降水中の重水素,重酸素(18O)
濃度の測定 値と共に,トリチウム濃度データを収集し,また 自ら
も盛んに測定を行った。現在でも主に陸水圏で見られる重水素・重
酸素濃度の微少な偏りや地域分布を利用して,水蒸気蒸発や降雨液
化現象の 解析,大気中の熱エネルギー収支の解析を行う気候変動研
究に資するために,IAEAのGNIP (Global etwork of Isotopes in Precipi-
tation)データベース としてデータ収集と公開が続いている。 GNIP
の測定は月間降水について行われGNIPの測定は月間降水について行わ
れている が,180箇所の気象観測所が選ばれ,各月の降水量を使っ
て荷重平均計算処理を行い,1987年までの年平均濃度をIAEAが単行
本にまとめている(IAEA,1992)。本稿では,その中から東京と共
に,北米内陸のカナダ首都オタワ,欧州内陸のIAEAがあるオースト
リア首都ウィーン,欧州沿岸のオランダの都市フローニンゲン,そ
して太平洋中央部に位置するミッドウェイ島と,北半球から4地点を
選んで年平均濃度の変遷を第2図に図示した。どこも1963年をピーク
としているが,海洋からの距離などの立地条件の違いにより,推移
する濃度レベルが異なっている。宇宙線による核反応で生成したト
リチウムも,大気圏内核実験で核分裂により生成したトリチウム等
フォールアウト核種も,成層圏と対流圏の境界にある圏界面にで き
る裂け目から,主に中緯度に降下する。また大気中水蒸気量が海洋
上の方が大陸上よりも多いため,内陸から沿岸方向に大気水蒸気中ト
リチウム 濃度に減少の勾配が生じる。
こうして第2図のように立地条件の違いにより降水中濃度レベルの
推移も異なった。また陸水圏では,大気水蒸気が降水として地下水
に涵養された後,一定期間の地下貯留を経てから河川水として地表
面に流出するので, その遅れを反映して河川水とその土地の降水の
トリチウム濃度レベルとは異なってくる。このような複合的要因に
より,今なお河川水は海水よりもトリチウム濃度が高く,涵養され
た降水の濃度だけでなく,河川流域の大きさや海岸からの距離,流
域全体の構造によって,海洋へ流出する陸水の濃度レベルが変動す
る。なおここでは北半球5地点のデータのみ示したが,多くの核実験
が北半球で行われたため,南半球よりも北半球のフォールアウト濃
度レベルが高かったことが知られている。
海洋汚染調査の対象となるトリチウム
第3図にMARISデータベースから抽出したGEOSECSで測定されたトリ
チウム濃度について大西洋,太平洋,インド洋の採水深度が100mよ
り 浅い表面海水のデータを図示した(IAEA MARIS,2021)。当時の
地球へのフォールアウト降下量の違いを反映して,どの海域でも北
半球の 表面海水は南半球の表面海水よりもトリチウム濃度が高いこ
とが分かる。またIAEAの月間降水データベースに登録されている,
南・北大西洋,南・北太平洋,インド洋の5か所の採水地点を選び
月間降水中濃度を第3図に同時にプロットした(IAEA,1992)。1970
年代ではこの5地点で各海域による降水中の濃度にほとんど差が見ら
れない。また表面海水中濃度はどの海洋でも降水中濃度よりも低い
傾向が顕著に表れている。海洋が大きな水のリザーバーとして,大
気圏から降下したフォールアウトトリチウムの希釈・拡散に寄与し
た結果と推定されるが,均一濃度になるまでは混 合されていない。
このGEOSECSプロジェクトにより,初めて放射性同位体を利用して
海洋の循環について多くの知見が得られたが(Östlundet al., 1987),
その後のWOCE,GEOTRACESなどのプロジェクトも気候変動問題
の解決に役立つことが期待される。
MARISデータベースには,最近までのHHELCOM(バルト海),OSPAR
(アイリッシュ海,北海),Bailly du Bois(ビスケー湾,ケルト
海,イギリス海峡,アイリッシュ海)などの海洋調査データが登録
されているが,いずれも北東大西洋の海洋汚染を対象とした調査で
あり,原子力施設ばかりでなく,海底油田や重工業施設などが集中
する重要な海域の海洋生態系を守るために行われている。
第4図 にこれらのデータベースから抽出した,深度100mまでの表面
海水中トリチウム濃度の観測値を図示した。これらの調査海域に近
い,第2図のフローニンゲン(オランダ国)とウィーン(オーストリ
ア国)の降水中濃度が10Bq/L以下まで漸減している傾向と比較ると
この海域の表面海水中濃度は大きく変動し,原子力施設起源の関与
が指摘されている。(Fiévet et al ., 2021; Masson et
al ., 2005)
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※1.例えば、狩猟用散弾銃によるイヌワシの鉛汚染(ナショナル
ジオグラフィック日本版サイト)
イヌワシ;Golden Eagle
ワシのほぼ半数が「鉛中毒」、米国の2種、大規模調査で発覚最大
で3分の1が急性中毒にも、原因はシカなどに残る鉛弾
▶2022.2.22 ナショナルジオグラフィック日本版サイト
※2.上画像をクリックすると、このブログの掲載ページが表示さ
れるので願参照。
➲ あわせて読む:「第3回 気候変動対策、遅すぎることは決して
ない」ナショナル ジオグラフィック日本版サイト/ 2022年12月
この項つづく
【再エネ革命渦論 136: アフターコロナ時代 335】
● 技術的特異点でエンドレス・サーフィング
特異点真っ直中 ⑲
ここ数年の科学技術進展に驚く昨今。今日も気になる事例を摘出。
via Wikipedia on Space-based solor power
世界初衛星による太陽光発電エネルギー送電実証実験
実験は宇宙エネルギーのアイデアに実現可能性を担保
6月6日、カリフォルニア工科大学宇宙太陽光発電プロジェクト (SS
PP) の最初の宇宙搭載プロトタイプである宇宙太陽光発電実証機
(SSPD-1) による実証実験研究グループは、宇宙で太陽エネルギーを
収集し、地球に送達させる第一歩を踏み出した。今年1月に打ち上げら
れた人工衛星は、マイクロ波ビームのパワーを宇宙のターゲットに向け、
さらにそのパワーの一部を地球上の検出器に送ったと、実験を行ったカリ
フォルニア工科大学が6月1日に発表。
宇宙太陽光発電にとって、信頼性は長年の課題であった。一般的な石炭
火力発電所や原子力発電所と同じ量の電力を生成するには、衛星に直
径数キロメートルの収集エリアが必要で、数百回の打ち上げと軌道上で
の組み立てが必要になる。NASA は 1970年代のエネルギー危機の際に
実証ミッションを計画。スペースシャトルで運ばれ、宇宙飛行士が組み立
てた当時の技術では、このミッションには1兆ドルの費用を要したが、それ
以来、空間は変わる。太陽電池とマイクロ波ビーム(➲電子レンジ)は
安価で効率的であり、構造物を組み立てることができるロボットが間もな
く軌道に乗り、スペースXなどの企業は打ち上げコストを削減。ESAと英国
政府の委託による最近の研究では、軌道を回る巨大な発電機が間もなく
地上の原子力発電所と同等のコストで発電できるようになる。
Satellite beams solar power down to Earth, in first-of-a-kind demonstration
via Science AAAS
いくつかの分散した研究プログラムがこの分野を前進させた。1980年代
から、京都大学の研究者らは、準軌道ロケットを使用して宇宙の端で短
距離にわたるパワービームを実証。2020年、米国海軍研究所のチーム
は、片面に太陽電池、電子機器の充填物、もう片面にマイクロ波送信機
を備えたピザ箱サイズの「サンドイッチパネル」を軌道に乗せ、太陽光か
らマイクロ波への変換を実証する。 ドナルド ブレン財団とノースロップ グ
ラマン コーポレーションの資金提供を受けたカリフォルニア工科大学のミ
ッションは、軽量、安価、柔軟なコンポーネントでさらに一歩前進すること
を目的とする。マイクロ波送信機は、夕食にだされる食器皿よりわずかに
大きい表面に詰め込まれた 32個の平面アレイアレイで構成。さまざまな
アンテナに送信される信号のタイミングを変えることで、研究者はアレイ
のビーム制御を実現。アームほどの距離にある一対のマイクロ波受信機
にそれを向け、一方の受信機から他方の受信機にビームを自由に切り替
え、それぞれの受信機のLEDを点灯。送信電力はわずか200ミリワットと
小さく、携帯電話カメラのライトよりも小さいものであったが、ビームを地
球に向けて操縦し、カリフォルニア工科大学の受信機で検出することに
成功する。これは概念実証でシステム全体で何が可能かを示唆する。カ
リフォルニア工科大学の宇宙船では、3つの実験の残り2つの実験が計
画。 現在、32種類の太陽電池をテストして、どれが宇宙の過酷な環境に
耐久性を有するのかの確認を行っている。2つ目は折り畳まれた超軽量
複合材料で、広げると直径2メートルの帆のような構造体。帆には太陽電
池を搭載しないが、将来の発電所に必要な薄くて柔軟で大規模な展開可
能な実験を目的としている。
宇宙太陽光発電への関心が高まり、ESAは今年 軌道上発電所の潜在
的なアーキテクチャに関する2件の研究を委託。エネルギー供給会
社もこの取り組みに参加。京都チームは先月、日本の宇宙機関JAXA
と協力し軌道上でパワービームテストすると発表。日本では2025年
に世界初の(無線電力伝送)衛星実験の予定していた。新興企業の
Virtus Solis Technologies も電力ビームのテストを行っており、2026
年にパイロットプラントを軌道に打ち上げる計画を立てているが、
同社は 10年以内に商用電力販売提供する予定。宇宙太陽光発電は、
実際の二酸化炭素排出量ゼロへの信頼できる道筋を備えた、唯一の
クリーンで確固たる拡張性のあるエネルギー技術と確信していると
いう。
特集|最新薄膜燃料電池特許技術 2022~2023年度①
❏ 特開2023-034773 燃料電池電極用触媒インクの製造方法 トヨ
タ自動車株式会社
【要約】
図2のごとく、触媒と、溶媒と、アイオノマーとを含む燃料電池電
極用触媒インクの製造方法であって、触媒と、溶媒と、アイオノマ
ーとを高せん断薄膜旋回混合機で撹拌混合する工程、ここで、アイ
オノマーは、ゲル状のアイオノマーを含み、高せん断薄膜旋回混合
機は、内周面に凹凸を有する円筒形の撹拌槽と、当該撹拌槽と同心
にて外径が撹拌槽内径より僅かに小さい回転羽根と、当該回転羽根
を端部に有する正逆高速回転可能なシャフトとを備える、を含む方
法で、触媒の微細化、及び触媒インクの粘度の調整を同時に実施す
ることができる燃料電池電極用触媒インクの製造方法を提供する。
図2.本発明の触媒インクの製造方法の一例を示す図
【概要】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池
として固体高分子型 燃料電池がエネルギー源として注目されてい
る。固体高分子型燃料電池では、一般に、電解質膜である固体高分
子電解質の両面に、それぞれ、触媒層からなる電極(空気極及び燃
料極)を接合してなる膜電極接合体(「燃料極-固体高分子電解質
膜-空気極」)(MEAともいう)が使用される。各電極は、触媒
層から形成され、触媒層は、触媒層中に含まれる電極触媒によって
電極反応を行わせるための層である。電極反応を進行させるために
は、電解質、触媒及び反応ガスの三相が共存する三相界面が必要で
あることから、触媒層は、一般に、触媒(ここで 、 触媒とは単独
で作用する触媒だけでなく、担体に担持された金属触媒(本明細書
等では、「金属担持触媒」ともいう)などの意味も含む)と、電解
質とを含む層からなっている 。膜電極接合体において、各電極は、
電解質膜の表面に、触媒インクを塗布して乾燥させることによって
形成される。触媒インクは、触媒と、プロトン(H+ )伝導性を有
する電解質と、触媒及び電解質を分散させる分散溶媒(本明細書等
では、単に「溶媒」ともいう)とを含んでいる。触媒インクに関す
る研究にも様々なものがあり、例えば、特許文献1には、触媒電極
の形成に用いられる触媒インクの製造方法であって、(a)触媒が
担持された導電性粒子である触媒担持粒子を溶媒に分散させて触媒
分散液を生成する工程と、(b)アイオノマーと揮発性溶媒とを混
合してゲル体を作成する工程と、(c)前記触媒分散液と、前記ゲ
ル体とを撹拌混合して触媒インクを作成する工程とを備える製造方
法が記載されている。特許文献2には、触媒ペーストを製造するた
めの混合装置として、複数の流体に対してせん断力を作用させつつ、
前記複数の流体を混合する流体混合装置であって、凹凸面を有する
第1の混合エレメントと、凹凸面を有する第2の混合エレメントで
あって、前記第1の混合エレメントにおける凹凸面と前記第2の混
合エレメントにおける凹凸面とが互いに対向するように配置された
第2の混合エレメントと、前記複数の流体が流れる流路であって、
前記第1の混合エレメントと前記第2の混合エレメントとの間に形
成される前記流路の形状を変更する流路形状可変機構と、を備える
流体混合装置が記載されている。
【特許文献1】国際公開第2013/031060号
【特許文献2】特開2013-158741号公報
❏ 特開2022-165441 燃料電池スタック パナソニックIPマネジ
メント株式会社
【要約】
図3のごとく、本開示は、電解質膜-電極-枠体接合体の枠体とセ
パレータとの間をガスケットによってシールする燃料電池スタック
において、ガスケット本体部の内周側にガスケット薄膜部を一体に
形成し、ガスケット薄膜部の弾性係数をガスケット本体部の弾性係
数より小さくし、ガスケット薄膜部の圧縮状態の変化に対するガス
ケット薄膜部が枠体を押す反力の増減の割合を、ガスケット本体部
の圧縮状態の変化に対するガスケット本体部が枠体を押す反力の増
減の割合より小さくし、ガスケットから溶出する不純物が大気に放
出されるように構成している燃料電池スタックの積層方向の寸法が
一定になるように締結バンドのような締結部材を用いて締結した燃
料電池スタックにおいて、ガスケットから溶出する不純物が電極の
触媒に到達することを防止する。
図3.実施の形態1における燃料電池スタックを、図1の一点鎖線
Aを含む平面で切断したときの燃料電池セルの断面構造を模式的に
示した説明図
❏ 特開2022-115419 燃料電池システム 愛三工業株式会社
【要約】
図2のごとく、燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池へ供給
する反応ガスが循環する流路の一部を構成するボディと、少なくと
も一部がボディの外面に露出するとともに、少なくとも他の一部が
ボディに埋設されている電極と、電極の表面からボディの外面に跨
る範囲を覆う、薄膜状の発熱部材と、を備える、流路の体格を小さ
くすることができるとともに、流路を効率良く加熱することができ
る技術を提供する。
図2 加熱装置の斜視図
図1.燃料電池システムの構成を概略的に示す図
【符号の説明】
10:燃料電池、30:燃料ガス系、35:気液分離器、37:排
気排水弁、41 :燃料ガス供給流路、42:燃料オフガス流路、
43:循環流路、44:排出流路、50:酸化ガス系、60:冷却
系、70:制御ユニット、80:加熱装置、82:ボディ、84:
電極、84a:第1部分、84b:第2部分、84c:第3部分、
84d:第4部分、86:発熱部材、88:絶縁部材、100:燃
料電池システム
風蕭々と碧いの時代
John Lennon Imagine
【J-POPの系譜を探る:2006年代】
レミオロメン 粉雪 ; Best One~50 th
● 今夜の寸評:(いまを一声に託す)
大南風や 天の叫びに 覚醒す
Awakened by the great south wind and the cry of the heavens.
異常気象はインフラに混乱をもたらす
Extreme weather will inflict chaos on infrastructure.
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