7月9日イギリスのベテラン・ソプラノ・サックス奏者ロル・コクスヒルが死去したとのニュースが入った。享年79歳。死因は明らかにされていないが数週間の深刻な闘病の末の最期だったという。
日本のファンには1983年の突然段ボールとの共演盤でよく知られているであろう。1980年にPASS RECORDSからシングル「ホワイトマン」でデビューし、1981年に1stアルバム「成り立つかな?」をリリース、腰砕けでシュールな世界を展開してフレッド・フリスを驚かせた突段の第2弾のアルバムだった。日英間で音源をやり取りして制作された、単なるセッションではなくきちんと曲として成り立ったサウンドは妙に人懐っこいユーモアとシリアスな実験性が同居しており、個人的には突段の1st以上に聴き狂った。アルバム・リリース後初来日し、ソロの他に突段との共演ライヴも行った。
当時ロルのことは名前しか知らなかったが、この共演の際に掲載された音楽誌の記事で1970年にケヴィン・エアーズ&ザ・ホール・ワールドのメンバーだったことを知った。マイク・オールドフィールドがベースで参加していたのでホール・ワールドの再発LPを持っていた。クレジットを見ると確かにロルの名前が載っていた。改めて聴くと彼のサックスがかなりフィーチャーされ、ケヴィン独特のバリトンに鮮やかな彩りを与えていた。
後にハットフィールド&ザ・ノース~ナショナル・ヘルスと渡り歩くカンタベリー・ロックの重要アーティスト、フィル・ミラー(g)とピップ・パイル(ds)や、フィルの兄弟でキャラヴァンに参加する実力派ピアニスト、スティーヴ・ミラーが在籍したブルース/プログレ・バンド、キャロル・グライムス&デリヴァリーの1970年の唯一のアルバム「フールズ・ミーティング」にもゲスト参加、フリーキーなサックスを聴かせてくれる。
ロルはその後マイク・オールドフィールド、ロバート・ワイアット、モーガン・フィッシャー、シャーリー・コリンズ、ヒュー・ホッパーなどの作品に客演する傍らソロ・アルバムを多数リリース、デレク・ベイリーのカンパニーに参加しフリーミュージックの世界で名を成して行く。1977年にはザ・ダムドの2ndアルバム「ミュージック・フォー・プレジャー」に参加しパンク/ニューウェイヴ・シーンともリンクした。そんなしなやかな感性と幅広い好奇心が遠く東洋の突段との共演に繋がった訳だろう。
1998年にも来日し15年ぶりに突段と共演しライヴ・アルバムを残している。その頃にはヨーロピアン・フリーミュージックの重鎮として勢力的に活動しており、ベイリーは勿論ジャンゴ・ベイツ、スティーヴ・ベレスフォード、トニー・コーなどの実験的ミュージシャンとセッションを繰り返す。しかし真骨頂はかつてのスティーヴ・レイシーを彷彿させるソプラノ・サックス・ソロに集約されている。魂の高みから息を吹き込み奏でられる余りに自由で創造力豊かな演奏はまさに"孤高"というしかない。
またひとり現代音楽界を象徴する隠れた名匠が黄泉の国へ旅立った。心より追悼の意を表したい。
ベイリー&
コクスヒル
live in Heaven
トニー・レヴィンと並ぶプログレ界の2大スキンヘッドとしても有名。
情報ありがとうございます。98年の来日のときですか?調べてみます。
ありがとうございました。
twitterでDMいただけますか?
@mirokristel