
Black EditionsはP.S.Fレコードの実験精神を生かし続ける。
bandcamp daily February 12, 2018
written by Jordan Reyes
Black Editionsレーベルの物語はP.S.Fレコードと東京生まれの生悦住英夫から始まる。彼は1970年代後半にオープンした有名なレコード店モダーンミュージックのオーナーだった。1984年に彼はP.S.Fの最初のアルバムをリリースした。ハイライズの伝説的なライブアルバム『サイケデリック・スピード・フリークス』の300枚限定のヴァイナル盤。その後、2017年に生悦住が亡くなるまでの33年間のレーベル活動期間にホワイト・ヘヴン、ゴースト、シェシズ、不失者、アシッド・マザーズ・テンプル、ガセネタなど地下音楽アーティストのアルバム(主にCD)を240枚以上リリースした。『Tokyo Flashback』と呼ばれる8作のコンプピにより、生悦住は多くの人々に東京の実験シーンを紹介した。
February 22 1991
⇒【Disc Review】Tokyo Flashback - P.S.F. Psychedelic Sampler
『サイケデリック・スピード・フリークス』がリリースされてから約16年後、ピーター・コロヴォスは友人を頼って日本を訪れた。彼の旅の目的は決まっていた。日本を探索し、レコード店を訪れ、ミュージシャンの灰野敬二のライヴを出来るだけたくさん観ることだった(結局彼は週に3回灰野のライヴを観た)。
コロヴォスにとって訪れるべきレコード店が二つあった。ひとつめの大阪のアルケミーでノイズアーティスト「マゾンナ」として知られる山崎マゾと会った。そして東京のモダーンミュージックで生悦住と会った。言葉が通じない場合に備えてコロヴォスはレコードのリストを生悦住に渡した。その多くは店主のレーベルのものだった。「(生悦住さんは)英語をうまく話せず、私は日本語を話せませんでした。しかし彼は私が探しているものが分かり、私がどれくらい彼のレーベルのアーティストを愛しているかを理解しました」。 2人は友人になり絡先先を交換した。コロヴォスはThin Wrist Recordingsでの仕事と自身のバンド「オープン・シティ」の為に米国に戻らなければならなかったが、それ以降の16年間に10回モダーンミュージックを訪れ、日本、生悦住、そしてP.S.Fのアーティストのことをより深く知るようになった。
2009年に、実験的志向のVDSQレコードを運営するスティーヴ・ローウェンタールが、ニューヨークでの任期を終え、カリフォルニア芸術大学でジョン・フェイヒーの伝記『デス・オブ・デス』の作業をする為にロサンゼルスに移ってきた。そこで彼はコロヴォスに会った。ふたりを引き合わせたのは、実験的バンド「バーニング・スター・コア」のヴァイオリン奏者C.スペンサー・イェーだった。彼はコロヴォスとローウェンタールが似ていると思っていたという。「(コロヴォスとローウェンタールは両方とも)大きな意見を持っていて、どちらもスキルがあり、見過ごされ過ぎたと考える音楽や芸術に貢献していました」とイェーは言う。「二人とも人生の中で深ディープでヘヴィなことをやりたがっていて、きっとお互いに助け合うことができるだろうと感じたのです」。
ローウェンタールとコロヴォスが会った数年後、生悦住はソーシャルメディアにメッセージを投稿した。P.S.Fレコードへの新しい投資家を探していた。景気の低迷はレーベルに大きな歪みをもたらした。生悦住は雑誌「G-Modern」の出版を止めて、モダーンミュージックを閉店しなければならなかった。すぐ後にコロヴォスは日本語を話す友人の力を借りて、生悦住とブレインストーミングを開始した。「生悦住さんは、古典的なレコードがたくさんあるカタログを持っていましたが、そのほとんどが廃盤でした」とコロヴォスは回想する。 "多くの作品が世界中の音楽ファンに認知されることなくこぼれ落ちていました。元々そこにあったとしても。彼は米国やヨーロッパ国内については何もしていないので、P.S.F.のカタログを世界中にリリースする権利を購入する申し出をしようと考えたのです」。
「合意の範囲で生悦住さんはアジアでの権利を保持します。そうすれば、彼が常に望んでいたように、いままでと同じようにレーベルを運営することができるでしょう」。生悦住は契約に同意し、そしてBlack Editionsが誕生した。
P.S.Fの作品の再発が主な目的ではあるが、Black Editionsは、東京の活気に満ちた実験世界を海外のリスナーにもっとアクセスしやすくする使命を、ライヴハウス「マイナー」のオーナーだった佐藤隆史が設立したピナコテカから元々リリースされた灰野敬二の伝説的なソロデビュー作『わたしだけ?』のデラックス・エディションからスタートした。コロヴォスは『わたしだけ?』を次のように説明する。「後のP.S.Fからリリースされる作品のかなめ石。そこには繋がりがある。灰野さんは70年代半ばから東京で活動し、後にP.S.Fに参加する多くのアーティストと交流している」。コロヴォスとローウェンタールは、灰野本人と翻訳者/ジャーナリストのアラン・カミングスと密接に協力してきた。アランにより『わたしだけ?』の歌詞とタイトルが初めて翻訳され、英語圏のリスナーに提供された。「私は背筋をゾクゾクさせながら、自分が長い間聴いてきた音楽の言葉を読んで、とうとう何が語られているのかを理解したのです」とコロボスは回想する。物理的なアルバムの経験を再制作する機会を得て、灰野は当初意図していたメタリックゴールドとシルヴァーの豪華版LPアートワークに作り直した。リマスターは鮮明で深みがあり、付随するデジタルダウンロードでは約30分のボーナス・ライブ・トラックが追加されている。
Keiji Haino - My Whereabouts
⇒このディスク2017(国内編)『灰野敬二/わたしだけ?』
⇒インタビュー 灰野敬二:デビュー・アルバム『わたしだけ?』を語る
即座に圧倒的な反応があり、コロヴォスとローウェンタールは驚いた。彼らは販売予測枚数を過小評価していたため、早急により多くのレコードの生産に注力する必要があった。彼らにとってこれらのレコードは、リスナーが学ぶことができる重要な成果物である。Black Editionsは、P.S.Fの膨大なカタログの探求の最初のリリースとして元々の「サイケデリック・サンプラー」であり、ハイライズ、マァブル・シィプ&ザ・ランダウンサンズ・チルドレン、ゴースト、不失者などを収録した『Tokyo Flashback』の第一巻を取り上げた。それを完全に再パッケージ化して、特別印刷のスリップケースに入れた二つ折り二枚組LPを作成した(このシリーズはもともとはCDのみでリリースされていた)。各レコードはフルカラーのインナースリーブで飾られ、下地英樹のライナーノーツは、アラン・カミングスにより完璧に翻訳された。
Black Editionsのアイデアは、元のレコーディングとパッケージを完全に変更するのではなく、強化することである。音響エンジニアのクリス・ラプケ(インダストリアル・バンド「Alberich」のメンバー)は、今後「静香」再発をリマスターするために参加した。彼は次のように述べている。「元の録音の驚異的な空間と雰囲気を維持することは非常に重要ですが、同時に新しいオーディエンスのために少し磨きをかけることが必要です」。
各リリースは、アーティストの協力と祝福によって行われる。 ほとんどの場合、アーティストは作品が再発されることに喜んで、可能な限り最高のパッケージを制作するために追加の音源や記録資料を提供することが少なくない。これまでのところ、コロヴォスとローウェンタールは興奮で迎えられ、多くの場合驚くべき素材を入手した。チャンスが与えられて、アーティスト自らリマスタリングに手を貸すケースもある。ハイライズのハード・サイケデリック・ガレージの傑作『High Rise II』のヴァイナル再発にあたっては、ハイライズのヴォーカリスト兼ベーシストの南條麻人がオリジナルのテープをリマスタリングすることを熱望した。
High Rise - Pop Sicle
⇒【Disc Review】High Rise / High Rise II
今後数多くのリリースが予定されている。シェシズ『A Journey』、静香『天界のペルソナ』、角谷美知夫の没後編集盤『腐っていくテレパシーズ』など。しかしBlack Editionsは、美麗で忠実に拡張したリイシューを止めることは無い。また、コロヴォスとローウェンタールはロサンゼルスとニューヨークで不失者と友川カズキの演奏公演を企画した。芸術的文脈はライナーノートに限定されない。彼らはコンテンツの量を増やしており、ファンジンの翻訳、チラシの紹介、さらには映画字幕の翻訳に興味を持っている。
生悦住の死以来、2人にとっては情熱以上のものになっている。「生悦住さんは、音楽の精神、妥協を許さないオリジナルの精神を求めていました。彼はジャンルの違いを問題にしていませんでした」とコロヴォスは語る。「彼はその中核を切り開こうと模索した。私はリスナーがその準備ができていると思う。 多くのリスナーがやり始めたばかりで、彼は30年前にそれをやっていたのですから」。
Black Editions forthcoming releases :
-Ché-SHIZU "A Journey" 2LP
-V/A "Tokyo Flashback: Psychedelic Speed Freaks" 4LP
-White Heaven "Out" LP
-Fushitsusha "Double Live" (ie. PSF 15-16) 5LP
-Kan Mikami "I'm the Only One Around" LP
-Makoto Kawashima "Homo Sacer" LP
-Go Hirano "Corridor of Daylights" LP
-Shizuka "Heavenly Persona" 2LP
【特報】2月27日は生悦住英夫氏の1年目の命日にあたり、Black Editionsのサイトに剛田武著/加藤彰編『地下音楽への招待』(ロフトブックス)から生悦住英夫氏のインタビューの英語訳が掲載された。英語で読むと新たな感動がある。
⇒Black Editions website : An interview with Hideo Ikeezumi on his formative years and the beginnings of Modern Music and P.S.F. Records
PSF
意志は続くよ
地下水脈
<PSF関連ライヴ情報>
2018年3月2日(金)東京・秋葉原クラブグッドマン
~深遠にして深淵なる不可思議 vol 2~
不失者1981、The Silence,
19:00 open/ 19:30 start
adv. 3,000円 / day 3,500円 +drink代
不失者1981:
灰野敬二 Gt, Vo
臼井弘行 Dr
渡辺弘之 Bass
The Silence:
馬頭将器 Gt, Vo
岡野 太Dr
山崎 怠雅Bass, Vo
吉田 隆一B Sax, Flt
