盤魔殿DJ 今月の1枚
盤魔殿DJ陣が毎月お気に入りの音源をご紹介。こだわりの選盤からどんな世界が広がるかお楽しみください。
●DJ Athmodeus a.k.a. 持田保
脳BRAIN / 愛 (L.S.D) 2020
コロナ禍の影響により盤魔殿本店舗が閉店中のさなか、盤魔殿とゆかりのあるケロッピー前田&Rie Fukuda両名に誘われて僕も参加して始まったのがサウンド&ランゲージ的イベント”The Third Mind”。第一回が7月、第二回目が10月とこれまで2回渋谷「頭BAR」で開催してきたのだが、両日ともにそのイベントのトリを飾ったのが誰あろう我らが脳BRAIN!!!生で体験する脳BRAIN(a.k.a.生BRAIN)はやはりすさまじく、ギッチギチのデータがバグ発生させたような情報(&ドーパミン)ドバドバ流出具合ハンパなし!まあマジでみなさん一度体験してくださいよー、とポン引きみたいなこと言うしかないのだが、それでもなかなかチャンスに恵まれないあなたにお届けするのが本DVD-R作品だ。幡ヶ谷フォレストリミットで行われたイベントでのライブ・ミックスDJ音源を素材に再構築&コラージュしたという生BRAIN度数高めの内容に感涙。ガバ、ブレイクコア、レゲエ、ダブ、イージーリスニング、昭和歌謡・・・・・などがコラージュ・ミックスされるなか、そんなカオス・グルーブに共振するアシッド・ポルノコアな映像も圧巻。「ACID PENT HOUSE」なる副題?に思わずボブ・グッチョーネもオーバードーズで食人すること間違いなし!きクぜ!!!(加納典明風に
●DJ Vaby a.k.a. 大場弘規
Clive Powell /Burrow Knowe(Special Edition CD-R)
ナント限定30部!しかも装丁はAndrew Chalk!!
TNBのメンバーも参加していたことでも有名な、英ノイズ・グループ「Metgumbnerbone」のメンバーの1人でもあるClive Powelの2002年作品の再発CD-R。グループ創設時からのメンバーであり、ライブ演奏ではパーカッショニストとして重要な役割を果たしていたにも関わらず、唯一のLP「Ligeliahorn」にクレジットがなかった為に、知る人ぞ知る存在になっていた重要人物がClive Powellなのです。CliveはMetgumbnerboneの解散後もSedayne(Masstishaddhu)と不定期にコラボレーションやライブ演奏を行っていましたが、2002年にSedayneのサポートを受けてCD-Rで自主リリースしたソロ・アルバムが「Burrow Knowe」です。エディンバラの橋の下で、自然な残響や野外音を活かしながら北イングランドのトラディショナル・ソングを歌い、その合間にSedayneの手によるコラージュをinterludeとして挿入したLow-Fiかつシンプルな作品ですが、日常生活の中に「歌う」という行為が根付いていること、最強の楽器として声・歌が存在すること、自然な歌声は自然の一部になりえることなど、聴き手に新鮮な驚きと衝撃をもたらしてくれる作品です。なおリリースにあたり、古くからの私の知人であるSiren Recordsの鈴木大介氏がClive本人より流通許可を得てCDR化を実現させたことを最後に記します。
●DJ Ipetam a.k.a. Rie fukuda
時のないホテル / 松任谷由美
1980年リリース、日本ポップス界の女王ユーミンのアルバム。
タイトル曲はエキゾチックなムードの異国のホテルでの一夜の物語。ジャカルタへ旅した際の衝撃を元に書いたとの説があるが、行きずりの男が残したのは"イスラエル語のメモ"となっている為、冷戦をモチーフにしているとも取れる。
洗練されたコード進行に、今ではもう古臭いゴージャスでおしゃれな都会の恋愛、高飛車な女性がプライドを剥き出しにするのが彼女の楽曲の大きな特徴であるが、時々底知れない深淵が垣間見える。
それは、このアルバムに漂う濃厚な死のにおいである。自死を望む女性、世を去った人を忘れず時の止まった女性、不治の病に侵された先輩。そしてこのアルバム以外にも、この世にいない者をどれほどモチーフにしている事か。
何故彼女はここまで死に魅せられているのだろうか。常に時代の先端にいたはずなのに、何故だか前世紀のロマンティシズムに溺れている。
初めて聴き込んだのは高校生の頃だけど、彼女なりの乾いたエロスとタナトスに魅せられて、きっと死ぬまで聴き続けるんだろうな。
新しいアルバムでも一定のクオリティを落とさない、本当に驚くべきアーティストである。
追記 一曲目の"セシルの週末"もファン人気の高い名曲。不良少女が出会った本気の恋。
●DJ BEKATAROU a.k.a. 伊藤元
なつのぜんぶ / まついいっぺいあきつゆこ
元々は松井一平とアキツユコが2008年の夏に古い日本家屋で録音したプライベートな制作物だったが、
この度リマスタリングされ、イギリスの"All Night Flight"から2枚組のLPで再発された。
-なつ-の日々の情景を簡素且つ少ない音数で見事に写実した名盤である。
レコードに針を落とすと膨らむようにして音々が空気に放たれた…
レコードと鼓膜の間の眩い光の下に揺蕩っているオルガンやピアノが夕暮れのように柔らかい…
時折り発音される人の声やコラージュ、それに生き生きと跳ねてみずみずしさを伝える
シンセサイザーの電子音の運びがなんとも不可思議で音の中心へとより一層没入させる。
あゝそれにしても各曲は短く相互に繋がりのない短編詩集のようだ…
-なつ-のいちにちが刹那に脳裏に現れ、過ぎ去っては
曲間の波間にてうとうとと眠りにつき、
音々が再び立ち昇れば穏やかに目を覚まし、
ゆったりとした時間に胸を預ける…
-なつ-という季節や場をきっと誰もが想起させられるであろうが
聴いていて決してノスタルジーに陥らないのは、
独自の確固たる表現が聴く者の奥深くまで届き、更には音の核心へと寄せるからであろう。
聴き終えた後に胸に広がる静謐が愛おしいなつのぜんぶ。
●DJ Necronomicon a.k.a. 剛田武
中尾勘二トリオ / Kanji Nakao trio
中尾勘二とはまことに不思議な音楽家である。80年代末から「コンポステラ」や「ストラーダ」に参加して、日本のチンドンをはじめ、フォルクローレ、クレズマー、ジプシー音楽、トラッドといった大衆民俗音楽を即興ジャズのスタイルで演奏するとともに、「マヘル・シャラル・ハシュ・バズ」や「グンジョーガクレヨン」といった地下ロックバンドや、大島保克、大工哲弘、嘉手苅林次といった沖縄の歌手の作品にゲスト参加。2000年代には若いミュージシャンと共に新感覚インストバンド「NRQ」でも活動している。担当楽器はサックス、クラリネット、トロンボーン、ドラムなど多才。とはいってもマルチ・プレイヤーという気取った感じではなく芸達者という表現の方が似合う。ステージではたいてい後ろか端の方に佇んでいて、寡黙に微笑んでいる姿は、才能はあるが実直なサイドマンの風情を感じる。そんな中尾が珍しくリーダーとして率いるユニットがこの中尾勘二トリオである。メンバーはトロンボーン奏者の古池寿浩とギタリストの宇波拓。民謡、童謡、革命歌、シャンソン、映画音楽、ジャズスタンダードなどどこかで聴いた覚えのあるシンプルなメロディーをかわりばんこに中尾のサックス/クラリネットと古池のトロンボーンが担当し、宇波のギターが最小限の音数でバックアップする。素朴な演奏は不安定かつ不定形でありながらも、三つの楽器が円環状に音の糸を紡いでいく織物のように美しいサウンド・スケープを形作る。どこへ向かうか予測不能の展開は、スリルというよりも忘れていた想い出のページを紐解く歓びを感じさせる。その果てにたどり着くのは自分が知らなかった自分の内的宇宙かもしれない。ジャケットの郷愁たっぷりの風景写真のように、現世では行ったことも見たこともないのに生まれる前から知っている「心のふるさと」への旅である。
●DJ Qliphoth a.k.a. 宇田川岳夫
Mishima:une vie en quatre chapitres inclus : le cd de la bande originale du film signée Philip Glass) Wilid Side Video EDV1553 2dvd+1cd
失われた地下音楽 三島由紀夫の禁断の映画 宇田川岳夫
三島由紀夫の生涯を描いた日米合作映画。監督ポール・シュレーダー、製作総指揮フランシスコ・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカス。緒形拳が三島由紀夫を演じ、李麗仙、横尾忠則、笠智衆、勝野洋、沢田研二など豪華俳優陣、音楽はフィリップ・グラス。カンヌ映画祭で1985年に最優秀芸術貢献賞を受賞するなど話題を呼んだが、三島の同性愛描写に遺族(瑤子夫人)が難色を示し、右翼団体の抗議もあって、現在にいたるまで日本では未公開である。2010年鹿砦社の書籍『三島由紀夫と一九七〇年』にDVDが許可を得ないで添付されるなどしているが現在は入手困難である。アメリカやヨーロッパではDVDが販売されていて入手可能だが、日本でも視聴可能なのはフランス版である。このフランス版は本編とメイキングやディレクターズカット編でDVDが都合2枚とフィリップ・グラスの作になるサントラCDがセットになっている。フィリップ・グラスは本作以外にも『弦楽四重奏曲第3番 「ミシマ」』(String Quartet No.3 Mishima)(1985年)がある。緒形拳の狂気迫る演技や、ラストの切腹シーンに三島由紀夫の小説のシーンがオーバーラップされる演出も面白いが、フィリップ・グラスの60年代から70年代的サイケ趣味横溢のサントラも聴きどころ満載である。また沢田研二の演技も怪しさ満載で、中曽根元総理との噂も思い出される。11月は三島の月だと筆者は考えている。秋の夜長を本作の観賞に充てるたびに、1970年11月25日に我々は歴史の曲がり角を曲がり損ね、本来の時間軸とは外れた世界にいるのではないかとの思いが強くなる。本作を楽しんだ後は三島由紀夫全集付属のCDで三島による『英霊の聲』朗読を耳にしてさらにその思いを強くした。
●DJ Bothis a.k.a. 山田遼
Fractions - Control (2018) LP(12inch EP) Fleisch
ずぅーっとアンビエントばかり聴いてると、その反動でリズムのある曲を身体が欲することがありまして、最近はそんな身体の欲求に応える形でインダストリアルテクノやゴシックテクノ、ミニマルなアブストラクトテクノに嵌る毎日です。
さて、今回紹介する作品は、ロシアの音楽プロデューサーNikki KorobeynikとArtem Frolovによる音楽ユニットFractionsによる2018年の作品『Control』です。作品の全体的な趣としては、メンバーが互いにハードコアメタルバンドでの活動経験があることによる適度に金属質な前のめり感がありつつ、そこに90年代のレイヴシーンの体験としてのアシッドな高揚作用があるハウスミュージックが鳴っています。90年初頭といえば、1991年にソ連が崩壊し、文化的には近隣のヨーロッパおよびアジア諸国の音楽が流入してきた年代であることが推察され、実際Fractionsの作品からは、ただのダンスミュージックの枠に収まらない、そういったミクスチャー感の片鱗が随所に散らばっているように思います。
ちなみに私がこの作品を知ったきっかけは、アメリカの良質なインダストリアル・テクノレーベル「Hospital Productions」のレーベルマネージャーであるBecka Diamondがベルリンのラジオ放送局「HÖR」でDJを行った際に本作の一曲目「I.B.M.」を選曲しておりました。その動画をたまたま視聴していた私が後からセットリストをBecka Diamondに直接メールして聞いたら親切に教えてくれたのです。優しい。
ハロウィンは
異端音楽
盤魔殿
今週末ハロウィン当日に開催!!!
盤魔殿 presents
NEO UNDERGROUND vol.2
2020年10月31日 sat
阿佐ヶ谷TABASA
19:00 Open/Start
¥1,000 + 1 drink別
Live投げ銭制
Live Act:
モリモトアリオミ (vo, g)
Risaripa (vo, electronics)
DJ's:
DJ Athmodeus a.k.a.持田保
DJ Vaby a.k.a.大場弘規
Talk "Underground Now"
宇田川岳夫×剛田武
タイムテーブル
19:00 Open/Start
19:00 - 19:30 DJ Athmodeus a.k.a.持田保
19:30 - 20:00 Talk "Underground Now"宇田川岳夫×剛田武
20:00 - 20:30 Live モリモトアリオミ
20:30 - 21:00 DJ Vaby a.k.a.大場弘規
21:00 - 21:30 Live Risaripa
21:30 - 22:00 Live モリモトアリオミ+Risaripa
【ご注意】感染予防のため入場制限する場合があります。参加希望の方はFacebook特設ページにて参加表明お願いします。