2022年2月26日(土) 新宿LOFT
THE STAR CLUB
GIGS SC 45TH ANNIVERSARY
"悪たれ不良" TOUR EARLY DAYS 1977-1984
[guest]STRONG STYLE
今年結成45周年を迎えるTHE STAR CLUBはおそらく世界最長寿のパンクロック・バンドと言えるだろう。70年代にデビューして一度解散・活動停止して90年代辺りに再結成したバンドは多数いるが、45年間一度も立ち止まることなくストレートなパンクロックを演奏し続けるバンドはスタークラブだけだろう。スタークラブが結成された1977年は中学3年生で14歳だった筆者がパンクロックに出会い人生が変わるほどの衝撃を受けた年。それから40年過ぎてすっかり忘れていたパンクロック衝動が、パンクロックアイドル爆裂女子と出会って再燃して以来、筆者はスタークラブのギグに通い続けている。コロナ禍でモッシュも声出しもできないライヴ現場は、パンクスにとっては(アイドルヲタク同様に)不完全燃焼に陥りそうだが、そんなフラストレーションなど忘れさせるほど容赦なく激しいスタークラブのパフォーマンスは、45年前のパンクロック衝動を上回る衝動を与えてくれる。
でんぱ組の歌詞は字数が多いので歌詞カードの文字が細かすぎて読みにくいことで定評がある。しかも老眼の筆者が拡大鏡を使って苦労しながら調べた曲だけなので、他にもあるかもしれないが、少なくとも2011年から2019年までの9年間に10曲、つまり毎年1曲を超える頻度で<冒険><アドベンチャー>という歌詞の曲を発表しているグループは他にはいないのではないだろうか?特筆すべきは5.「Dear☆Stageへようこそ」で、この歌詞はメンバーではなく、歌の中に登場する田中と称するしがないサラリーマンが、でんぱ組が所属する秋葉原のイベントバー、ディアステージを初めて訪れた時に発するセリフである。つまりディアステージに来ること自体が<冒険>という訳だ。そんなディアステージで誕生したでんぱ組.incこそ、“冒険の冒険による冒険のためのアイドルグループ(Idol group for the adventure by the adventure of the adventure)”であることは間違いない。そして成瀬瑛美=“マキシマム”えいたそは生まれながらの<“超”冒険者>なのである。
LinQは福岡を拠点に2011年に結成されたアイドルグループ。グループ名は「Love in Qsyu(九州)」の略語だという。でんぱ組との繋がりは2014年の10枚目のシングル『ウェッサイ!!ガッサイ!!』のタイトル曲をでんぱ組プロデューサーのもふくちゃんが全面プロデュース、ミュージック・ビデオを夢眠ねむと映像監督のスミスによる映像ユニット・スミネムが監督し、相沢梨紗が衣装デザインを担当したことである。そのカップリング曲が「冒険」というのも、LinQがリスクを顧みずあらたなコラボレーションに挑戦した意気込みを感じさせる。
ロック界のカリスマ、ジム・モリソン率いるザ・ドアーズの代表的ナンバー。原題「Light My Fire(私の火をともせ)」を心ではなく“ハート”に火をつけてと訳した日本タイトルの素晴らしさ。J-POPに同じタイトルを使った同名異曲がいくつもある。えいたそがともした筆者のハートの火は永遠に消えることはない。
The Doors - Light My Fire ( HQ Official Video )
●グランド・ファンク・レイルロード『ハートブレイカー』
Grand Funk Railroad / Heartbreaker
Pink Floyd - Atom Heart Mother: '71 Hakone Aphrodite
●イエス『ハート・オブ・サンライズ』
Yes / Heart Of The Sunrise
ピンク・フロイドと並ぶ英国プログレの雄イエスの71年のアルバム『こわれもの(Fragile)』に収録。邦題は「燃える朝やけ」。“Dream on on to the heart of the sunrise 日の出のハートにあなたを夢見続ける”という歌詞は筆者のえいたそへの想いそのままである。でんぱ組.incの太陽と呼ばれたえいたその輝きは、卒業しても「世界が萌える朝やけ」に他ならない。
Yes - Heart Of The Sunrise Live 1972 Yessongs [HD]
●ヘンリー・カウ『リヴィング・イン・ザ・ハート・オブ・ザ・ビースト』
Henry Cow - Living in the Heart of the Beast
英国プログレのもうひとつの(オルタナティブな)雄と呼べるヘンリー・カウの75年のアルバム『傾向賛美(In Praise of Learning)』に収録。「野獣の心に住む」という意味で、政治的な歌詞の難解な構成の15分におよぶ組曲。えいたそのハートの中に野獣の心があることは、2017年に筆者による論考『えいたそ野性時代』で考察したが、それから5年経った今でも獣のハートを保ち続けるパワーには恐れ入るしかない。ついにえいたそのハートの難解性を分析する研究が求められる時代が到来したのかもしれない。
パンクロックのハートは何色だろう?1977年14歳の時に出たセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』は有名な黄色ジャケではなく、蛍光ピンクのアメリカ盤を買ったので、黄色とパンクは結びつかなかった。その10年後の1987年に『THE BLUE HEARTS』のジャケットを見たとき“パンクロックは青だ!”と確信した。35年経ってもザ・クロマニヨンズでロックンロールし続けるヒロト&マーシーのハートは今も青いままに違いない。えいたそのハートの色は黄色のままだろうか?見極めなければなるまい。
しかし『パティ・ウォーターズ・シングス』の1曲が残りの曲に影を落としている。アパラチア(スコットランド発祥かどうかは不明)のフォーク・ソング「ブラック・イズ・ザ・カラー・オブ・マイ・トゥルー・ラヴズ・ヘアー(Black is the Color of My True Love's Hair)」をアヴァギャルドに朗読したもので、これまでレコーディングされた曲の中で、最も深い不安感を覚えさせる曲の一つである。この曲はウォーターズが歌う以前には、ジョーン・バエズやニーナ・シモンが録音したし、おそらく何百ものヴァージョンが存在する。最近では、ドローン・メタル・アーティストのビッグ|ブレイブとザ・ボディのコラボレーション・アルバムで取り上げられている。しかし、ウォーターズの「ブラック・イズ・ザ・カラー」ほど有名な、あるいは悪名高いレコーディングはないだろう。しかし、彼女がこの曲を所有していると言うのは間違いである。むしろ彼女がこの曲に所有されていた、というべきである。
Patty Waters - Black is the Color of My True Love's Hair
そんな時にネットオークションサイトで出会ったレコードがElectroscopeの『Journey To The Centre Of Electroscope』だった。ジャケットが気になって試聴してみたら、チープな電子音にクラリネットやピアニカとしって生楽器が絡む牧歌的なサウンドで、何よりも気負いが全くない弛緩・脱力しきったユルい雰囲気が、公園の野鳥の声と同じ美しさを湛えているのだった。さっそく落札し、届いたのは如何にも自主制作盤といった感じの手書き文字のジャケットに挟まれた透明オレンジのカラーレコード。オルゴールの音から始まり、微睡むようなピアニカとクラリネットの室内楽、浮遊するハンドメイド・エレクトロニクス、朴訥としたギターの爪弾きと寝言のようなヴォイス、霧の中に吸い込まれる鉄琴、気紛れに反復する単旋律のオルガン、それらが木霊し反響する深い音楽の森。何かを表現したいという強い欲求ではなく、単純に音と音を鳴らすだけの平和な歓びに満ちた世界。聴くたびに音の渦に耽溺して眩暈がする迷宮レコードだ。
エレクトロスコープ Electroscope
スコットランド出身のゲイル・ブローガン Gayle Broganとジョン・カヴァノー John Cavanaghのデュオ。ゲイル・ブローガン(旧姓ハリソン)は元プライマル・スクリームのJim Beattieが90年代半ばに結成したAdventures in Stereoのメンバーでもあった。1996年に声優・ラジオDJでもあるジョン・カヴァノーとのデュオとしてエレクトロスコープを結成。ジョー・ミークとユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(ジョー・バード)を繋ぐ存在と呼ばれる。片面カセット『Where The Oscilloscope Meets The Magic Eye』(96)、1stアルバム『Homemade Electroscope』(97)、2ndアルバム『Journey To The Centre Of Electroscope』(99)、スプリット・アルバム『Life And Hope In The Psychozoic Era / Electroscope』(2000)の他、多数のシングル、EP、コンピレーションをリリース、2000年に活動休止するまでの4年間に104曲の作品を発表した。その後ゲイルはPefkin名義でソロ活動するとともに、Meadowsilver、Burd Ellenといったユニットでアンビエントミュージックとスコットランド・トラッドを融合したサウンドを追求。ジョンもPhosphene名義でソロ活動する。2010年以降、ゲイルとジョンは再びエレクトロスコープとして散発的に活動をしている。