open 19:30 / start 20:00
料金 投げ銭制(別途チャージ500円+ドリンクオーダー)
Martin Escalante(sax)
UH(内田静男(b)+橋本孝之(sax))
川島誠(sax)
マルティン・エスカランテは1983年メキシコ生まれのサックス奏者。兄のアマト・エスカランテは著名な映画監督で、ヌエーヴォ・シネ・メヒカーノを代表する映画作家と言われている。マーティンも兄と共に映画の編集・脚本・キャンティングなどの仕事をしており、東京国際映画祭で来日したことがあるという。即興演奏家として90年代から活動しており2010年代からいろいろな作品を発表している。メルツバウの大ファンとのこと。現在ロアンゼルスとメキシコの両方を行き来しており、ウィーゼル・ウォルター等アメリカのミュージシャンとのコラボ作品も多い。ノルウェーの音楽家との交流も深く、ジャズカマーのラッセ・マーハウグはエスカランテの作品の多くのミックスやマスタリングを担当している。国際的なコラボをしている割にはメキシコの即興/実験音楽シーンの情報は殆ど知られていないのが現状だろう。メキシコにも数多くの実験的ミュージシャンが存在するが、特に中心的なシーンがある訳ではなく、普通のライヴハウスでポップやジャズやロックに交じって演奏することが多いと言う。
以上はライヴが始まる前に出演ミュージシャン全員でおでん屋で一杯やりながら聞いた話であり、実は筆者はエスカランテの音楽を聴いたことが無いのはもちろん、メキシコ出身であることすら知らないままだった。なぜなら筆者の目当ては川島誠と内田静男と橋本孝之だったからである。ゆっくり飲むほどの時間はなく、料理が出てくるのが遅れて、唐揚げを持ち帰りの袋にぶら下げてBar Issheeへ戻ったのは開演5分前だった。
●川島誠
『HOMO SACER』アナログが発売された川島は、どこか吹っ切れたような目をしていた。身近な人の生と死に影響を受け形作られてきた音楽への姿勢が、作品や演奏として解放されるとともに、新たな離別が表現する心の地層を塗り重ねる。その堆積物を突き抜けて自分の音を外に吐き出すには、強靭な魂を育むしかないだろう。川島のアルトの残忍なまでの力強さは、さらに大きな悲しみをも受け入れ、且つ突き破る決意表明なのである。
●UH(内田静男(b)+橋本孝之(sax))
UHと命名されてから2年半。名前を持ったことでユニットとしての成熟が増した即興ユニットの成長ぶりはアイドルグループの新メンバーの成長具合に負けないくらい著しい。ドローン/アンビエント的な湿気に満ちた密葬感が漂っていた空間が、梅雨の晴れ間のように爽やかで、新緑の季節の希望に満ちた交歓模様に変わっていく。橋本のハーモニカとアルトは、川島の直球の力強さとは異なり、ネコのようにしなやかでネコのように気紛れな詩想を放逐する。並走する内田のベースは、支えるのでも放置するのでもなく、視線を外す望遠レンズに映り込んだ渡り鳥の群れの郷愁を擦り合せる。摩滅する音の肉感に溺れた。
●Martin Escalante(sax)
初めて観るエスカランテのサックスは衝撃だった。サックスのボディにネックを繋がず直接接続されたマウスピースからまっすぐ吐き出す息が管を振動させビビりながら絞り出す楽音にならない物音ノイズ。振りかざし、かがみ込み、座り込み、仰け反って発する人声にひたすら近い配管通過音は、サックスを楽器ではなく騒音発生装置に組み替えた力業の人力ハーシュノイズである。どこで間違えてこうなったのか興味深いが、エレクトロニクスの存在しない世界のノイジシャンは、少なくともエスカランテに似た方法で騒音芸術を現出させるしか無かろう。極めて原始的な手法であるが、停電してもノイズミュージックを楽しめる環境は、雑音派に夢の世界に違いない。
●Martin Escalante, 川島誠, 橋本孝之, 内田静男
エスカランテと川島がサックス、橋本がハーモニカとサックス、内田がベースで即興セッション。昨年東北沢OTOOTOで観たフローリアン・ヴァルター、橋本、川島に短波ラジオの直江実樹が加わったセッションを彷彿させる。大きく異なるのはエスカランテのノイズサックス、ではなくて内田が産み出すビート感溢れる情景描写であった。これほど表情豊かな即席セッションはなかなか観ることができない。貴重な一夜だった。
音が出る
それだけでいい
ノイジシャン
▼タリバム!のマット・モッテルとのデュオ・セッション
Martin Escalante & Matt Mottel - at Record Shop, Brooklyn - Feb 24 2018