『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』 府中市美術館

府中市美術館
『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』
2022/5/21〜7/10



府中市美術館で開催中の『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』を見てきました。

明治時代、主にイギリスなどの海外からやってきた画家たちは、日本の風景を主に水彩にて描き、作品を本国に持ち帰っては親しみました。一方で日本の画家も水彩の表現に魅せられると、観光名所などを描き続け、多くの作品が海外へと渡りました。

そうした海外へと渡った明治時代の風景水彩画に着目したのが『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』で、いずれも実業家の高野光正が海外にて収集したコレクション、約360点(展示替えあり)が公開されていました。

さてこの展覧会ではチャールズ・ワーグマン、五姓田義松、吉田博、鹿子木孟郎、大下藤次郎といった、比較的名の知れた画家の作品も少なくありませんが、むしろ興味深いのは、ほとんど知られていない画家の作品が多く展示されていることでした。


左から笠木治郎吉『帰猟』、『花を持つ少女』

たとえば冒頭に紹介された画家、笠木治郎吉は、高野コレクションによって発見された人物で、高野自身が絵に記されたサインのみを頼りに、電話帳から遺族の連絡先を探りあてました。


左から笠木治郎吉『春の少女』、『提灯屋の店先』

笠木は明治の人々の暮らしを外国人向けに明快に表していて、一連の水彩画からは漁業や狩猟に従事する人々の息遣いが伝わってきました。名は知られていなかったとはいえ、細かな描写は瑞々しい水彩表現などは魅力的ではないでしょうか。(笠木治郎吉の展示スペースのみ撮影が可能でした。)

この笠木の次に続くのが、明治時代に来日したイギリス人を中心とする外国人画家の描いた風景画でした。そしてアルフレッド・イーストやモーティマー・メンペス、ウォルター・ティンデル、エラ・デュ・ケインなど、ほとんど知られていない画家で占められていて、そもそも初めて見る作品ばかりでした。

ここでは東照宮や富士山、また宮島といった観光地とともに、京都の芸妓や子守の少年、また芝居小屋に集う人々などの市井の人々のすがたを情感豊かに描いていて、まさにいまは失われた明治の情景を目にすることができました。



一方で日本人画家においてもやはり知られざる画家の作品が目立っていて、沼辺強太郎や河久保正名、田淵保らに至っては生没年すら分かっていませんでした。ともすれば今回の高野コレクションの公開に伴う研究や調査により、今後、制作の全容が明らかになっていく画家も少なくないかもしれません。

高野は一連のコレクションをほぼ全て、アメリカ、またはロンドンにて入手していて、結果的に今に至るまで700点のコレクションを築き上げました。

展示は昨年に京都国立近代美術館で開催された『発見された日本の風景』に作品を追加して構成したもので、多くの作品を公開するためか、通常、常設展に用いられるスペースへも拡張して展示が行われていました。

いずれの作品も大半は東京で初公開となるものばかりで、それこそこのような画家とコレクターがいたのかという驚きと発見に満ちた展覧会でした。



展示替えの情報です。会期中、前後期にて約50点ほどの作品が入れ替わります。

『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』出品リスト(PDF)
前期:5月21日(土)〜6月12日(日)
後期:6月15日(水)〜7月10日(日)


チケットに2度目の観覧が半額になる割引券がついていました。私は前期のラストでの滑り込みとなりましたが、後期も出向くつもりです。



7月10日まで開催されています。おすすめします。

『孤高の高野光正コレクションが語る ただいま やさしき明治』 府中市美術館@FuchuArtMuseum
会期:2022年5月21日(土)〜7月10日(日)
休館:月曜日。6月14日(火)。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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