都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」 愛知県美術館
愛知県美術館
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」
2021/10/8~11/21
愛知県美術館で開催中の「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」を見てきました。
江戸中期に活躍した曾我蕭白は、京都や伊勢、それに播州高砂などで絵を描き続け、近年では「奇想の絵師」の1人として人気を集めてきました。
その蕭白の回顧展が「奇想ここに極まれり」で、初期から晩年へと至る64件の作品が公開されていました。
まずプロローグでは奇想のイメージを代表するような屏風などが展示されていて、特に一面の銀地に多くの子どもたちが遊ぶ様子を描いた「群童遊戯図屏風」に目を奪われました。
ここでは相撲を取ったり、鶏を戦わせていたり、またうなぎを掴もうとする子どもたちが極彩色によって表されていて、遊びに夢中のあまりに泥だらけになっているのか肌が砂色に汚れていました。またひっくり返った子どもの姿や、まるで重力に反して空中へとするりと伸びるうなぎなど、全てが激しい動きを伴っていて、笑い声や掛け声までが伝わるかのようでした。これ一枚からしても蕭白の強い個性が滲み出ているといえるのではないでしょうか。
それに続くのは蕭白が伊勢や播州にて描いた画業初期の水墨の作品で、2018年に初めて紹介された新出の「富士三保松原図屏風」などが並んでいました。同屏風では富士山の周囲に氷山のような山が連なる一方、中央に黒い雲には竜の姿も垣間見えて、実景と別次元の世界が入り混じるかのような光景を見せていました。
「月夜山水図襖」は、楼閣や塔が並ぶ島や滝の落ちる巨大な崖などが描かれた作品で、崖の真上には丸い月が浮かんでいました。そして手前の楼閣は現実世界に思える一方、あまりにも大きな崖は空想的光景のようで、いくつかの時空が同時に表されているようにも見えました。こうした超現実的とも呼べる光景も蕭白画の魅力かもしれません。
蕭白は鷲や鷹といったモチーフも得意としたことでも知られていて、「鷹図押絵貼屏風」ではさまざまな様態を見せた12種類の鷹を描いていました。またここでは単に架に留まる鷹ではなく、狩をしているなど動きを伴っていて、1羽として同じ姿のものはいませんでした。
諸国を遊歴した蕭白は伊勢において精力的に活動していて、とりわけ2度目の伊勢滞在期の35歳の頃に描いた「旧永島家襖絵群」は傑作として高く評価されてきました。
蕭白がさまざまな水墨の技法を使い分けながら描いた「旧永島家襖絵」は、「松鷹図」や「竹林七賢図」、「牧牛図」などからなる計44面の襖絵で、今回はすべての面が同時に公開されました。そのうちの1点の「波濤群禽図」は12面の襖に波打つ水際と鶴の群れを素早い筆触にて描いていて、雄大な景色を余白を用いつつ見事に表現していました。まさに展覧会のハイライトにふさわしい作品ではないでしょうか。
30代後半にして播州高砂に滞在した蕭白は、この頃から奇怪さよりも堅実な表現へと画風を変化させていて、おそらくは弟子を育成するなど多様に活動していました。ともかくエキセントリックな面が強調されがちな蕭白ですが、何もそうした表現の一辺倒というわけではありませんでした。
52歳にて没した蕭白は、晩年においても謹直とされる画風の作品を制作していて、山水画においても比較的落ち着いた風景を描いていました。
とは言うものの、例えば「雲龍図襖」では空間の大気を呼び込むようにとぐろを巻く龍の姿を表したり、「石橋図」においても遠近感覚を誇張したような構図を築くなど、蕭白独自ともいえるスタイルを見ることができました。
特に「石橋図」では、多くの唐獅子たちが石橋を目指して競い合うように駆け上がる光景がユニークで、途中で落ちてしまったり、落ちていく獅子を気の毒そうに見やるものがいるなど、どことなく擬人化されて表現されたような人懐っこさを感じました。
2012年に千葉市美術館で開かれた「蕭白ショック!!」展は蕭白の面白さが伝わるような展示でしたが、今回の回顧展ではより幅広い作品を追っていくことで、絵師の凄みすら感じられるような内容だったかもしれません。質量ともに不足はありませんでした。
11月17日からの後期展示を迎え、展示替えは全て終了しました。なお本展は「円山応挙展―江戸時代絵画 真の実力者」(2013年)、「長沢芦雪展-京のエンターテイナー」(2017年)に続く愛知県美術館の独自企画の展覧会です。よって巡回はありません。
11月21日まで開催されています。
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」(@shohaku2021) 愛知県美術館(@apmoa)
会期:2021年10月8日(金)~11月21日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00。
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400(1300)円、高校・大学生1100(1000)円、中学生以下無料。
*平日料金。土日祝日はプラス200円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*コレクション展も観覧可。
住所:名古屋市東区東桜1-13-2 愛知芸術文化センター10階
交通:地下鉄東山線・名城線栄駅、名鉄瀬戸線栄町駅下車。オアシス21を経由し徒歩3分。
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」
2021/10/8~11/21
愛知県美術館で開催中の「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」を見てきました。
江戸中期に活躍した曾我蕭白は、京都や伊勢、それに播州高砂などで絵を描き続け、近年では「奇想の絵師」の1人として人気を集めてきました。
その蕭白の回顧展が「奇想ここに極まれり」で、初期から晩年へと至る64件の作品が公開されていました。
まずプロローグでは奇想のイメージを代表するような屏風などが展示されていて、特に一面の銀地に多くの子どもたちが遊ぶ様子を描いた「群童遊戯図屏風」に目を奪われました。
ここでは相撲を取ったり、鶏を戦わせていたり、またうなぎを掴もうとする子どもたちが極彩色によって表されていて、遊びに夢中のあまりに泥だらけになっているのか肌が砂色に汚れていました。またひっくり返った子どもの姿や、まるで重力に反して空中へとするりと伸びるうなぎなど、全てが激しい動きを伴っていて、笑い声や掛け声までが伝わるかのようでした。これ一枚からしても蕭白の強い個性が滲み出ているといえるのではないでしょうか。
それに続くのは蕭白が伊勢や播州にて描いた画業初期の水墨の作品で、2018年に初めて紹介された新出の「富士三保松原図屏風」などが並んでいました。同屏風では富士山の周囲に氷山のような山が連なる一方、中央に黒い雲には竜の姿も垣間見えて、実景と別次元の世界が入り混じるかのような光景を見せていました。
「月夜山水図襖」は、楼閣や塔が並ぶ島や滝の落ちる巨大な崖などが描かれた作品で、崖の真上には丸い月が浮かんでいました。そして手前の楼閣は現実世界に思える一方、あまりにも大きな崖は空想的光景のようで、いくつかの時空が同時に表されているようにも見えました。こうした超現実的とも呼べる光景も蕭白画の魅力かもしれません。
蕭白は鷲や鷹といったモチーフも得意としたことでも知られていて、「鷹図押絵貼屏風」ではさまざまな様態を見せた12種類の鷹を描いていました。またここでは単に架に留まる鷹ではなく、狩をしているなど動きを伴っていて、1羽として同じ姿のものはいませんでした。
諸国を遊歴した蕭白は伊勢において精力的に活動していて、とりわけ2度目の伊勢滞在期の35歳の頃に描いた「旧永島家襖絵群」は傑作として高く評価されてきました。
はいっ!その1、本展では掛軸双幅、屏風1双、襖絵複数面、全て「1点」と数えています。例えば「波濤群禽図(旧永島家襖絵)」(三重県立美術館蔵)は、なんと全12面。これも1点。公式HPの作品リストには襖の面数も記載しています。#蕭白 #江戸絵画 #奇想 #愛知県美術館 #展示紹介 pic.twitter.com/i8zM4NNoW8
— 曽我蕭白展 公式 (@shohaku2021) October 16, 2021
蕭白がさまざまな水墨の技法を使い分けながら描いた「旧永島家襖絵」は、「松鷹図」や「竹林七賢図」、「牧牛図」などからなる計44面の襖絵で、今回はすべての面が同時に公開されました。そのうちの1点の「波濤群禽図」は12面の襖に波打つ水際と鶴の群れを素早い筆触にて描いていて、雄大な景色を余白を用いつつ見事に表現していました。まさに展覧会のハイライトにふさわしい作品ではないでしょうか。
30代後半にして播州高砂に滞在した蕭白は、この頃から奇怪さよりも堅実な表現へと画風を変化させていて、おそらくは弟子を育成するなど多様に活動していました。ともかくエキセントリックな面が強調されがちな蕭白ですが、何もそうした表現の一辺倒というわけではありませんでした。
52歳にて没した蕭白は、晩年においても謹直とされる画風の作品を制作していて、山水画においても比較的落ち着いた風景を描いていました。
とは言うものの、例えば「雲龍図襖」では空間の大気を呼び込むようにとぐろを巻く龍の姿を表したり、「石橋図」においても遠近感覚を誇張したような構図を築くなど、蕭白独自ともいえるスタイルを見ることができました。
特に「石橋図」では、多くの唐獅子たちが石橋を目指して競い合うように駆け上がる光景がユニークで、途中で落ちてしまったり、落ちていく獅子を気の毒そうに見やるものがいるなど、どことなく擬人化されて表現されたような人懐っこさを感じました。
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」開幕!会期は10/8-11/21、愛知県美術館のみの開催で巡回はありません。会期中の土日祝日は一般当日1,600円、平日は一般当日1,400円と、曜日によって観覧料が異なります。平日は200円お得ですので、金曜夜間開館などぜひご活用いただければ!https://t.co/HRk4i9n9cC pic.twitter.com/OkofbfV2AH
— 愛知県美術館 (@apmoa) October 8, 2021
2012年に千葉市美術館で開かれた「蕭白ショック!!」展は蕭白の面白さが伝わるような展示でしたが、今回の回顧展ではより幅広い作品を追っていくことで、絵師の凄みすら感じられるような内容だったかもしれません。質量ともに不足はありませんでした。
11月17日からの後期展示を迎え、展示替えは全て終了しました。なお本展は「円山応挙展―江戸時代絵画 真の実力者」(2013年)、「長沢芦雪展-京のエンターテイナー」(2017年)に続く愛知県美術館の独自企画の展覧会です。よって巡回はありません。
11月21日まで開催されています。
「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」(@shohaku2021) 愛知県美術館(@apmoa)
会期:2021年10月8日(金)~11月21日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00。
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1400(1300)円、高校・大学生1100(1000)円、中学生以下無料。
*平日料金。土日祝日はプラス200円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*コレクション展も観覧可。
住所:名古屋市東区東桜1-13-2 愛知芸術文化センター10階
交通:地下鉄東山線・名城線栄駅、名鉄瀬戸線栄町駅下車。オアシス21を経由し徒歩3分。
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