都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』 東京都現代美術館
東京都現代美術館
『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』
2021/11/20~2022/2/23
東京都現代美術館で開催中の『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』を見てきました。
1955年にアメリカのカルフォルニアに生まれたクリスチャン・マークレーは、サンプリングやコラージュの手法で作品を手がけ、音楽や美術の分野を横断しながら活動してきました。そして『ザ・クロック』にて第54回ヴェネチア・ビエンナーレ(2011年)金獅子賞を受賞するなど評価を得ると、近年はロンドンを拠点に世界各地の美術館にて展示を行ってきました。
『リサイクル工場のためのプロジェクト』 2005年
まず冒頭の『リサイクル工場のためのプロジェクト』では、都市の廃棄物がリサイクル工場で金属片に分解される光景をモニターなどで映していて、終始、聴覚を揺さぶるような金属音が鳴り響いていました。
『リサイクルされたレコード』 1979〜1986年
続く『リサイクルされたレコード』では、レコードをパズルのように切り貼りしてはコラージュしていて、本来的に量産品であるレコードを一点ものオリジナルな作品へと改変していました。マークレーにとってサンプリングとは、既存のイメージや音を抽出して再構成するもので、異なる領域を翻訳するように行き来しながら、作品を生み出してきました。
『架空のレコード』 1988〜1997年
また複数のレコードジャケットを埋め込んだりして操作した『架空のレコード』は、既存のレコードジャケットを変容させた作品で、クラシック音楽などのジャケットが思いも寄らないイメージへと転化していました。なおマークレーは学生時代に路上で落ちているレコードを見かけたことから、DJとしての活動をはじめたとしていて、レコードを素材とした作品が多く見られました。
『マンガ・スクロール』 2010年
日本のマンガから引用したオノマトペに着目した作品も面白いかもしれません。『マンガ・スクロール』とは、漫画のオノマトペを切り抜いて横へ繋げたコラージュの作品で、絵巻のように連なるモチーフは図案楽譜として機能するように作られていました。
『サラウンド・サウンズ』 2014〜2015年
そのオノマトペを引用した無音の映像インスタレーションが『サラウンド・サウンズ』で、コミックからスキャンされたさまざまな文字が、音響的な特性を伴うアニメーションとして4面の壁へ映し出されていました。
『サラウンド・サウンズ』 2014〜2015年
それらはまるで生き物のように変容しながら、スピーディーに展開していて、無音の空間ながらもオノマトペの洪水の中へと巻き込まれていくかのようでした。スケールが次々と変わる光景が音の強弱のように感じられるのも楽しいかもしれません。
『叫び』 2018〜2019年
同じくマンガのイメージをコラージュしたのが『叫び』で、ムンクの絵画ならぬ人が叫ぶ様子を木版にて表現していました。いずれも大きく口を開けたキャラクターが、無数の断片的な線を背景に力強く浮き上がっていて、まさに叫びが視覚化されていました。
『フェイス』 2020年
『フェイス』もコミックを切り抜いた小さなコラージュの作品で、オノマトペを顔の輪郭や髪の毛になぞらえながら、叫び声をあげる人間の姿を作っていました。これらはコロナ禍の中での2020年に制作されたとのことでしたが、それこそマスクに隠れてしまった怒りや不安といった多様な感情が巧みに表現されていたかもしれません。
今回の個展にてハイライトを飾っていたのは、4チャンネル・ビデオによる約15分弱の映像作品、『ビデオ・カルテット』でした。
『ビデオ・カルテット』 2002年
ここでは古今東西の映画から音にまつわるさまざまなシーンがコラージュされて映されていて、ロック、オペラ、ミュージカルなどの映画の断片が音の素材として扱われつつ、まったく新しい音楽として築かれていました。
『ビデオ・カルテット』 2002年
その中には楽曲のみならず、例えば何かを倒したり壊す音までも盛り込まれていて、ジャンルを横断しつながらハプニング的に展開する光景は予測不可能な魅力に満ちていました。
『ビデオ・カルテット』 2002年
これぞ視覚と聴覚を交差させながら、新しいイメージを作り上げるマークレーの傑作と呼べる作品なのかもしれません。ワーグナーのマイスタージンガーの前奏曲や銅羅との意外な邂逅や、オペラのアリアと人の叫びなど、思わずにやりとさせられるようなウイットに飛んだ展開も見逃せませんでした。
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う、都立文化施設の一部休止の方針により、1月12日から「MOTコレクション Journals 日々、記す vol.2」が休室となりました。一方で企画展『Viva Video! 久保田成子展』、『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』、『ユージーン・スタジオ 新しい海』については通常通り開室しています。
一部の撮影も可能でした。2月23日まで開催されています。
『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:2021年11月20日(土)~2022年2月23日(水・祝)
休館:月曜日。但し2022年1月10日、2月21日は開館。年末年始 (12月28日~1月1日 )、1月11日。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学・専門学校生・65歳以上1200円、中高生600円、小学生以下無料。
*予約優先チケットあり。
*MOTコレクションも観覧可。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』
2021/11/20~2022/2/23
東京都現代美術館で開催中の『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』を見てきました。
1955年にアメリカのカルフォルニアに生まれたクリスチャン・マークレーは、サンプリングやコラージュの手法で作品を手がけ、音楽や美術の分野を横断しながら活動してきました。そして『ザ・クロック』にて第54回ヴェネチア・ビエンナーレ(2011年)金獅子賞を受賞するなど評価を得ると、近年はロンドンを拠点に世界各地の美術館にて展示を行ってきました。
『リサイクル工場のためのプロジェクト』 2005年
まず冒頭の『リサイクル工場のためのプロジェクト』では、都市の廃棄物がリサイクル工場で金属片に分解される光景をモニターなどで映していて、終始、聴覚を揺さぶるような金属音が鳴り響いていました。
『リサイクルされたレコード』 1979〜1986年
続く『リサイクルされたレコード』では、レコードをパズルのように切り貼りしてはコラージュしていて、本来的に量産品であるレコードを一点ものオリジナルな作品へと改変していました。マークレーにとってサンプリングとは、既存のイメージや音を抽出して再構成するもので、異なる領域を翻訳するように行き来しながら、作品を生み出してきました。
『架空のレコード』 1988〜1997年
また複数のレコードジャケットを埋め込んだりして操作した『架空のレコード』は、既存のレコードジャケットを変容させた作品で、クラシック音楽などのジャケットが思いも寄らないイメージへと転化していました。なおマークレーは学生時代に路上で落ちているレコードを見かけたことから、DJとしての活動をはじめたとしていて、レコードを素材とした作品が多く見られました。
『マンガ・スクロール』 2010年
日本のマンガから引用したオノマトペに着目した作品も面白いかもしれません。『マンガ・スクロール』とは、漫画のオノマトペを切り抜いて横へ繋げたコラージュの作品で、絵巻のように連なるモチーフは図案楽譜として機能するように作られていました。
『サラウンド・サウンズ』 2014〜2015年
そのオノマトペを引用した無音の映像インスタレーションが『サラウンド・サウンズ』で、コミックからスキャンされたさまざまな文字が、音響的な特性を伴うアニメーションとして4面の壁へ映し出されていました。
『サラウンド・サウンズ』 2014〜2015年
それらはまるで生き物のように変容しながら、スピーディーに展開していて、無音の空間ながらもオノマトペの洪水の中へと巻き込まれていくかのようでした。スケールが次々と変わる光景が音の強弱のように感じられるのも楽しいかもしれません。
『叫び』 2018〜2019年
同じくマンガのイメージをコラージュしたのが『叫び』で、ムンクの絵画ならぬ人が叫ぶ様子を木版にて表現していました。いずれも大きく口を開けたキャラクターが、無数の断片的な線を背景に力強く浮き上がっていて、まさに叫びが視覚化されていました。
『フェイス』 2020年
『フェイス』もコミックを切り抜いた小さなコラージュの作品で、オノマトペを顔の輪郭や髪の毛になぞらえながら、叫び声をあげる人間の姿を作っていました。これらはコロナ禍の中での2020年に制作されたとのことでしたが、それこそマスクに隠れてしまった怒りや不安といった多様な感情が巧みに表現されていたかもしれません。
今回の個展にてハイライトを飾っていたのは、4チャンネル・ビデオによる約15分弱の映像作品、『ビデオ・カルテット』でした。
『ビデオ・カルテット』 2002年
ここでは古今東西の映画から音にまつわるさまざまなシーンがコラージュされて映されていて、ロック、オペラ、ミュージカルなどの映画の断片が音の素材として扱われつつ、まったく新しい音楽として築かれていました。
『ビデオ・カルテット』 2002年
その中には楽曲のみならず、例えば何かを倒したり壊す音までも盛り込まれていて、ジャンルを横断しつながらハプニング的に展開する光景は予測不可能な魅力に満ちていました。
『ビデオ・カルテット』 2002年
これぞ視覚と聴覚を交差させながら、新しいイメージを作り上げるマークレーの傑作と呼べる作品なのかもしれません。ワーグナーのマイスタージンガーの前奏曲や銅羅との意外な邂逅や、オペラのアリアと人の叫びなど、思わずにやりとさせられるようなウイットに飛んだ展開も見逃せませんでした。
#東京都現代美術館 で開催中の「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」、展示風景動画を公開しています。当館YouTubeチャンネルでご覧頂けます。https://t.co/53kJhJVWm1
— 東京都現代美術館 (@MOT_art_museum) January 7, 2022
新型コロナウイルス感染症拡大に伴う、都立文化施設の一部休止の方針により、1月12日から「MOTコレクション Journals 日々、記す vol.2」が休室となりました。一方で企画展『Viva Video! 久保田成子展』、『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』、『ユージーン・スタジオ 新しい海』については通常通り開室しています。
一部の撮影も可能でした。2月23日まで開催されています。
『クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]』 東京都現代美術館(@MOT_art_museum)
会期:2021年11月20日(土)~2022年2月23日(水・祝)
休館:月曜日。但し2022年1月10日、2月21日は開館。年末年始 (12月28日~1月1日 )、1月11日。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、大学・専門学校生・65歳以上1200円、中高生600円、小学生以下無料。
*予約優先チケットあり。
*MOTコレクションも観覧可。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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