「与謝蕪村 『ぎこちない』を芸術にした画家」 府中市美術館

府中市美術館
「春の江戸絵画まつり 与謝蕪村『ぎこちない』を芸術にした画家」
2021/3/13~5/9



江戸中期に俳人として活動した与謝蕪村は、俳画を大成させ、人物や動物、はたまた自然の情景を描いた作品を数多く残しました。

そうした蕪村の絵画に着目したのが「春の江戸絵画まつり 与謝蕪村『ぎこちない』を芸術にした画家」で、国宝と重要文化財を含む約100点(展示替えあり)が公開されていました。

今回の蕪村展では文化庁をはじめ、京都国立博物館や逸翁美術館などの博物館や美術館、それに妙法寺といった寺院の所蔵する作品が数多く出展されていましたが、個人のコレクションにも見逃せない優品が少なくありませんでした。

そのうち最大の目玉といえるのが「山水図屏風」で、金地の大画面へ山水の光景をパノラマのように描いていました。同作は昭和36年に「国華」に掲載されたものの、長らく一般に公開されてこなかったとされていて、言わば幻の屏風と呼んでも差し支えないかもしれません。

この他、個人蔵では「狗子図」や「山水人物図」、それに応挙が描いて蕪村が賛を記した「己の身の画賛」なども魅惑的ではなかったでしょうか。とりわけ後者の応挙と蕪村の合作では、犬の吠える姿を影絵のように表していて、舌を出してはワンワンと鳴く様子が伝わってくるかのようでした。

香川県丸亀市の妙法寺の所蔵する「蘇鉄図屏風」にも魅せられました。大きな蘇鉄と岩を墨の濃淡を利用しながら描いていて、特に蘇鉄の樹皮の毛羽立った質感を巧みに表現していました。太い幹に葉をたくさん茂らせた蘇鉄の生命力を感じられるかもしれません。

「春の海終日(ひねもす)のたりのたりかな」と賛を記した「春の海 自画賛」にも目を引かれました。太くかすれたような線にて波打つ海を捉えていて、シンプルな描写ながらも、まさに俳句同様の穏やかで麗らかな春の海が表されていました。


国宝の「十宜帖」も見逃せませんでした。これは池大雅と与謝蕪村の合作である「十便十宜図」のうちの1つで、閑居生活の便宜な点をそれぞれ10つ表すべく、大雅が十便を描き蕪村が十宜を描きました。私が出向いた際はちょうど「宜夏図」が開いていましたが、緑に囲まれた小屋は桃源郷のようで、何とも静かで落ち着いた雰囲気が感じられました。蕪村は風景へ季節感を取り込んでいるとの指摘がありましたが、まさしく心地良い風景とはこのことを指すのかもしれません。



さて今回の展覧会のキーワードでもある「ぎこちない」に関し、会場のキャプションにて「この展覧会は、蕪村は下手でぎこちない絵しか描けなかったと言いたいわけではない。」との説明がありました。

むしろ確かな画技を持ち得ていた蕪村が、一見ぎこちなく思えるような表現を意図的に用いることで、作品の深みや可愛らしさ、それに面白さを引き出していたのではないかとの観点から「ぎこちない」の言葉を引用しているようでした。そうした蕪村の絵の魅力については、金子信久氏が「府中市美術館だよりVol.53」へ寄せた「蕪村の絵と字の魅力の成り立ち」も参考となるかもしれません。

最後に展示替えの情報です。前後期で作品の大幅な入れ替えがあります。

「春の江戸絵画まつり  与謝蕪村 『ぎこちない』を芸術にした画家」(出品リスト
前期:3月13日(土)~4月11日(日)
後期:4月13日(火)~5月9日(日)



4月13日から後期展示に入りました。これ以降の入れ替えはありません。*国宝「十宜帖」の場面替えを除く。

予約は不要です。5月9日まで開催されています。

「春の江戸絵画まつり  与謝蕪村 『ぎこちない』を芸術にした画家」(@edo_fam)  府中市美術館@FuchuArtMuseum
会期:2021年3月13日(土)~5月9日(日)
休館:月曜日。但し5月3日は開館。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
 *チケットに2度目が半額になる割引券付き。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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