三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「奥様は取り扱い注意」

2021年03月21日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「奥様は取り扱い注意」を観た。
 2017年に放送された日テレのドラマは見ていた。とってもとっても大スキ♫と歌っていた広末涼子が、それから20年経って不倫する奥様役で出ていたのを複雑な思いで見ていたことを思い出す。ドラマは戦闘力の高い夫婦の物語に、地域の人々のDVやパワハラ、不倫や反社組織などの問題が絡められていたが、本作品でも環境問題、資源問題、政治利権に国際的犯罪組織と悪質警官と悪質警察署、悪質公安組織が絡んで、ややこしくも面白いストーリーになっている。
 警察の逮捕訓練と公安警察の訓練はどれほど違いがあるのか知らないが、軍隊のクロスコンバットは敵を無力化する(つまり殺す)ことが目的だから、一般的に言えば近接戦闘で警官が軍人に勝てることはない。自衛官が一人で交番を襲って数人の警察官を殺してしまう事件は何度か起きた。どれほど個人の能力差があっても、書類仕事や巡回でほとんどの時間を過ごしている警官が、毎日人殺しの訓練をしている自衛官に勝てる筈がないのだ。
 というわけで終盤の展開が不自然な本作品だが、綾瀬はるかと西島秀俊の夫婦関係がとてもスリリングで、どこまで本当でどこまで嘘や演技なのかという一点だけで興味を繋ぎ止め、環境問題のサイドストーリーが物語を進める。檀れいの能面のような表情を芝居上手な鈴木浩介が補っていた。
 大して深みのある作品ではないが、綾瀬はるかの演技で最後まで持たせる。アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップが主演した映画「ツーリスト」を思い出した。綾瀬はるかの作る料理が美味しそうなのが意外によかった。

映画「まともじゃないのは君も同じ」

2021年03月21日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「まともじゃないのは君も同じ」を観た。
 女子高生と予備校講師という組み合わせは、恋愛ドラマとしては初めて見た。予備校という施設の性格からして、その場所で恋愛が育まれることは考えづらい。しかし本作品ではいくつかの条件をクリアすることでそれを可能にしたと思う。あくまで当方の勝手な想像ではあるが、以下のような条件だ。
・予備校はマンツーマン形式である
・女子高生は数年前から同じ講師に講義を受けていて気心が知れている
・女子高生は成績が優秀で、志望大学の入試に心配がない
・成績優秀が示すように、頭がいいから大人との会話ができる
・講師側も女子高生の合格見込みが高いので講義や時間に余裕がある
・講師はリベラルで女子高生の人格を尊重している
・女子高生の親は放任主義または娘を全面的に信頼している
 まだ考えられる条件はあるかもしれないが、恋愛成立に直接的に必要な条件はこのくらいではないかと思う。しかしこれらの条件を満たしたからと言って、すぐさま恋愛がはじまる訳ではない。では他に何が必要なのか。それを上手に描いたのが本作品である。
 成田凌はここ数年で鑑賞した映画では「スマホを落としただけなのに」のサイコパスみたいな犯人役や「カツベン!」の活動弁士役が印象的で、それぞれ全く異なる役を見事に演じているように、演技には太鼓判を押せる。清原果耶も成長著しく、本作品では演技上手なふたりがプラトニックではあるがトリッキングな恋愛模様を上手に演じてみせた。
 脚本と演出がいい。演技がワンパターンの小泉孝太郎や表情の乏しい泉里香が脇を務めたが、脚本に助けられてのっぺりしたシーンにならずにすんでいた。ただ脚本にひとつだけ減点をつけるとすれば、泉里香とのシーンで主人公大野が突然饒舌になったのは違和感があった。その後に説明のシーンがあるが、ここはシーンを前後させたほうがよかった気がする。そのあたり以外は自然に台詞がつながっていて、最後まで楽しく鑑賞できた。
 とにかく主人公ふたりの演技が完璧だということに尽きる。成田凌の大野は数学オタクの塾講師ならさもありなんという典型的な演技だった。普通ってなんだというオタクらしい心の叫びが非常に頷ける。「普通」というのはありふれたという意味だ。「普通はこうでしょ?」とイチャモンをつけてくるクレーマーがいたが、同じような意味で「普通」を間違って使う人が多い。大野の言い分は至極もっともなのである。
 清原果耶の秋本香住の演技は大人になりかけの18歳の女子高生らしい揺れる心が伝わってくる。切なくて愛しくて悔しくてという乙女心をストレートに表現する映画は、なんだか懐かしい気がした。青春ラブストーリーの秀作である。