三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「世界が引き裂かれる時/クロンダイク」

2023年06月21日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「世界が引き裂かれる時/クロンダイク」を観た。
『世界が引き裂かれる時』公式HP

『世界が引き裂かれる時』公式HP

『世界が引き裂かれる時』公式HP

 現在のロシアによるウクライナ侵攻ではなく、2014年のドンバス戦争を扱った作品である。ドンバス地方の親ロシア分離派とウクライナ軍が衝突して、親ロシア分離派がドンバス地方を支配することになった。
 妊娠8ヶ月のイルカと夫のトリク、イルカの弟のヤリクと近所に住むサーニャの4人が主な登場人物だ。トリクは土地に執着がなく、早く家を出て戦争のない場所に逃れたい。しかしイルカは妊娠していて、家を離れたくない。ヤリクは自分たちの土地が親ロシア派に蹂躙されることに憤っている。サーニャは身勝手なおっさんで、親ロシア派の武装勢力に参加している。トリクの自動車を勝手に乗り回し、武装勢力にトリクを味方だと紹介する。

 広大なひまわり畑と牛の放牧地が広がる美しい農村に、ときどき砲弾が飛来し、自動小銃のタタタタという乾いた音が響く。誰もが限界に来ていて、他人の人格を蔑ろにし、互いに命令し合う。土地も荒れているが、それ以上に人々の精神が荒廃しているのだ。まさにこれが戦争である。
 原題の「KLONDIKE」はカードゲームのソリティアのことで、52枚のカードをすべて無くさなければ勝利とならない。親ロシア派武装勢力の指揮官の言う通り、敵を殲滅しなければ戦争は終わらないのだ。
 女子供以外は親ロシア派かウクライナ派のどちらかと見做され、トリクのようなノンポリの反戦派は認められない。戦時中は軍人が最優先され、住民の生活や事情は無視される。軍人に提供できるものはすべて提供しなければならない。産気づいていようが、女は飯を作らされる。それが戦争なのだ。

 本作品のその後の情勢を扱ったのがセルゲイ・ロズニツァ監督の2018年製作の映画「ドンバス」である。親ロシア派による人権蹂躙の様子が冷徹に描かれていた。

 日本では、岸田政権が憲法の平和主義に背く閣議決定をして、軍拡に向けて大きく舵を切った。戦争の準備をすることは、戦争に足を一歩踏み込むことに等しい。このままいくと、アメリカの防波堤にされて北朝鮮や中国と戦うことになりかねない。自民党政権を支持する有権者たちは、本当にそれでいいのだろうか。