三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「愛のこむらがえり」

2023年06月24日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「愛のこむらがえり」を観た。
映画「愛のこむらがえり」

映画「愛のこむらがえり」

イントロダクション 地方公務員の香織は、浩平の自主映画に感動して上京したものの、いつしか同棲生活も8年目。背水の陣で浩平が書き上げたシナリオに惚れ込み、映画化を叶...

映画「愛のこむらがえり」

 悪くない。同じ髙橋正弥監督の「渇水」にはテーマの深さでは及ばないが、愛情豊かな物語の一方で、現代のエンタテインメント業界の事情が薄っすらとわかる作りになっている。どちらの作品にも人間存在に対する優しさが溢れていて、多分それが髙橋監督の持ち味なのだろう。

 主演の磯山さやかはよく頑張った。2年前の撮影だそうだが、舞台挨拶で「撮影の後半に柄本明が登場するまで、バラエティ番組のドッキリではないかと疑っていた」と告白していた。自分の立ち位置をよく理解している。なかなか賢い。

映画「カード・カウンター」

2023年06月24日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「カード・カウンター」を観た。
映画『カード・カウンター』公式サイト

映画『カード・カウンター』公式サイト

映画『カード・カウンター』公式サイト

 カードを記憶することでブラックジャックでディーラーに勝つギャンブラーを、カジノ側がカード・カウンターと呼んで、警戒を始めたのはいつだろう。ダスティン・ホフマンとトム・クルーズが共演した1988年製作の映画「レインマン」でも、サバン症候群のレイモンドがカードを記憶してカジノで勝つシーンがあったと思う。その頃からかもしれない。

 本作品はスマホもあるしGoogleのストリートビューも登場するので、現代の設定だ。カジノの拝金主義は昔と変わらないから、カード・カウンターに対する警戒は継続している。しかし主人公のティリッチは、卓越したカード・カウント技術を持ちながら、カジノから排斥されないように少額の儲けで抑えている。最初のブラックジャックのシーンでの両替は10万円ほどだ。それでも確実に勝てるのであれば、月に10回カジノに行けば100万円の儲けになる。カジノにとっては取るに足らない金額だから、排斥されることもない。賢いやり方だが、仕事としては前に進むことがなくて、誰にも評価されない。パチプロが尊敬されないのと同じだ。虚しい日々が死ぬまで続くだけだ。

 変化は突然訪れる。安全無事の路線だったティリッチだが、他人の役に立てるかもしれない。前途のある青年を無意味な復讐への執着から救い出すのだ。復讐は後ろ向きの行動である。思えば、軍隊のときからこれまで、後ろ向きの生き方しかしてこなかった。しかしこれからは前を向いて生きていけるかもしれない。

 起承転結の明快なストーリーで、カードゲームに詳しくなくても十分に楽しめる。社会の歪みと運に翻弄された人生だが、いまはカードゲームの運を操って生きている。表と出るか裏と出るか。勝負のシーンは静かだが、スリリングだ。周囲の様々な事柄を一瞥で洞察する。さすがポール・シュレイダーである。ドラマに人生があった。