三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「TENOR」(邦題「テノール! 人生はハーモニー」)

2023年06月10日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「TENOR」(邦題「テノール! 人生はハーモニー」)を観た。
映画『テノール!人生はハーモニー』公式サイト

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「エミリー、パリへ行く」、『マンマ・ミーア!ヒア・ウィ・ゴー』製作者が贈る人生の新たなステージを駆け上がるふたりの感動ヒューマンドラマ!

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 会計や経理は立派な仕事である。オペラ歌手よりも劣っている仕事だとは少しも思わない。本作品には会計や経理の仕事を軽視し、寿司の配達員を見下すようなシーンがあって、ちょっと不快に感じた。
 ただ、オペラ歌手が個性を発揮できるのに対して、会計や経理はルールを厳格に適用する正確性が求められるから、個性を発揮することは困難だ。
 個性を発揮できる仕事のほうが収入が多い場合がある。しかし収入が多いことよりも、承認欲求が満たされることのほうが重要かもしれない。スポットライトを浴びる中で自分のポテンシャルを発揮するのは、体験した人でなければわからない幸福感があるのだろう。

 本作品の主人公アントワーヌは寿司のデリバリーのバイトをしながら会計を習う学生で、ヘイト系のラップバンドを組んでいる。対立する地区とのラップ対決は、ほぼ悪口の言い合いだ。アントワーヌはいろいろな意味で倦んでいる。そこにエポックメーキングな出来事が起こってストーリーが動き出すという、割とベタな展開だ。
 大して面白い作品ではないが、登場するオペラは馴染みのある曲がほとんどで、ラストのアリアは大方の人が期待するあの曲である。本作品唯一の盛り上がるシーンだが、その前にアントワーヌがちょくちょく披露するビートボックスも悪くない。
 フランス映画らしく性に大らかな日常がさり気なく表現されるシーンはいい。レイシストのおばさんを登場させたのは、いまのご時世に対する製作者の危機感の現われだろうか。

 それなりに飽きずに鑑賞できるが、価値観がとっ散らかっている憾みがある。ラスト近くの手紙が仲間たち集結のシーンに重ねられてしまっているから、中身がちっとも頭に入って来なかった。3.0が精一杯である。