映画「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」を観た。
屋上のゴジラのモニュメントが有名な新宿歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿は、12スクリーンを擁するシネマコンプレックスだ。2015年の開館以来、年に10回以上訪問している。数えてみたら今年は既に7回行っていた。
このビルの近辺に屯する十代のことを「トー横キッズ」と呼ぶと知ったのは2、3年くらい前だろうか。噂では、クスリをやって騒いだり、パパ活や援交(同じ?)をしたりと、デスパレートな暮らしをしているようだ。女子の中には月に60万円以上稼ぐ子もいるらしい。
思い切ってここにシェルターを作るといいのではないか。いじめから逃れ、理不尽な親から逃れ、友達も頼れる人もいない子供たちや、夫や妻のDVから逃れてきた人たちのためのシェルターだ。
今年の4月には、TOHOシネマズ新宿の西側に東急歌舞伎町タワーという地上48階地下5階の高層ビルが出来た。中に109シネマズプレミアム新宿というシネコンが入っているが、なんとなく足が向かないのでまだ訪問していない。
歌舞伎町では常に「警察だ、客引きは条例違反だ、すぐにやめろ!」といった警戒放送が流れている。物々しい雰囲気だ。他の場所にはない歌舞伎町独特の緊張感がある。だからTOHOシネマズ新宿に行くときは、誰にもぶつからないように道を譲りながら慎重に歩きつつ、誰とも目を合わさず、真っ直ぐに映画館に向かって、帰りは真っ直ぐに駅に向かう。
以前の歌舞伎町には歌舞伎町なりの暗黙のルールみたいなものがあったが、現在のトー横キッズたちには通用しない。109シネマズプレミアム新宿に行くには、TOHOシネマズを左に曲がってトー横キッズたちを横目に歩いていかねばならないから、ちょっと気が引けるのだ。ゴールデン街の店にも、最近はあまり行かなくなってしまった。
歌舞伎町レポートみたいになってしまったが、本作品はそんな怪しさ満載の歌舞伎町の雰囲気を上手く出している。トー横キッズが登場しない歌舞伎町である。繰り広げられるストーリーは、大まかに言えばファンタジーだ。歌舞伎町に飲み込まれて堕ちていく人々や、歌舞伎町ならではの魑魅魍魎の跋扈も描いた群像劇でもある。あっと驚く結末がそれぞれに用意されて、エピソードごとに楽しめる。監督が複数であることの利点だろう。全体をファンタジーでまとめたところも愉快だ。
マリコを演じた伊藤沙莉の女優としての特徴は、何が起きても普通の人の普通の感覚で対応する演技だ。現実離れしたストーリーを日常に引き戻す。漫才で言えばツッコミだ。起きている事件とマリコの日常のギャップが面白くて、スクリーンから目が離せない。もしかしたら傑作かもしれない。