三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」

2023年07月27日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「ナチスに仕掛けたチェスゲーム」を観た。
映画『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』公式サイト

映画『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』公式サイト

これは、ナチスとのチェス・ゲームだ―― 7/21(金)シネマート新宿他全国順次ロードショー

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 ナチが人の心を操ることに長けていたのは、言葉巧みに民衆を扇動したヒトラーの演説の延長にありそうだ。嘘も百回言えば本当になる。ナチのやり方を学べと演説したのは麻生太郎だ。本物のバカである。
 ヒトラーが饒舌に語り、短期間でユダヤ人を民衆の敵だと見做すパラダイムを蔓延させるのに成功した。ドイツ国民はみずから進んで、ユダヤ人の迫害や虐殺に協力したのである。日本でも戦前の愛国婦人会などは喜んで戦争に協力した。バカは麻生太郎だけではないのだ。

 愛国主義が盛り上がると、反戦の平和主義者に危険が及ぶようになる。反体制的、反社会的と批判され、国賊や売国奴と非難される。そして弾圧され自由を奪われ、拷問を受ける。日本では特高、ドイツではゲシュタポがその任に当たった。

 本作品では、同じドイツ語の国であるオーストリアにもヒトラーのパラダイムが押し寄せてくる。若者を中心として、オーストリア国民がヒトラーに熱狂してしまう様子が描かれる。知恵のある友人は、この国はおしまいだと真実を語るが、裕福な主人公は正常性バイアスに囚われ、友人の話を信じない。

 しかしあっという間に状況は変わる。ワイマール憲法を蔑ろにしたナチは、民主的な手続きを無視して、オーストリアのユダヤ人を拘束し、反体制的な人間を拉致する。人々が油断する夜に活動するのだ。
 逃げ遅れてゲシュタポに連行された主人公が、ホテルに幽閉される。一切の情報が断たれ、ただ食事だけが与えられる。誰も言葉をかけないし、返事もしない。そんな孤独刑とでも言うべき状況は、主人公の精神を蝕んで、発狂寸前に追い込む。
 本作品では、チェスが重要な役割を果たす。チェスの奥深い世界の探求が、主人公の精神の拠り所となるのである。しかし幽閉された孤独の記憶はその後も主人公を苦しめ続ける。思い出すきっかけになるのがチェスだ。船上と監禁のシーンが交互に映し出されて、主人公の苦しみを浮かび上がらせる。

 世界はキナ臭い。タモリは2022年末の「徹子の部屋」で、来年はどんな年になりますかという徹子の質問に「新しい戦前になるんじゃないでしょうか」と答えた。流石に時代の雰囲気を読むのに長けたコメディアンである。
 本作品を観て、ますます新しい戦前が近づいた気がしてきた。コロナ禍もプーチンのウクライナ侵攻も、誰も予想しなかった。社会の変化は常に急激で、驚くほど規模が大きい。明日になって突然徴兵制が始まってもおかしくない。現に軍拡を進める政治家が当選しつづけている。「新しい戦前」を望む有権者がたくさんいるという訳である。バカは昔の人々だけではないのだ。